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瞬撃手が解く、沖縄空手「基本の解明」 第三回 「衛笑堂老師のこと」 文/横山和正

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数年前から急速に注目を集めた沖縄空手。現在では本土でも沖縄で空手を学んだ先生も数多く活躍すろとともに、そこに学ぶ熱心な生徒も集まり、秘密の空手という捉え方から、徐々に地に足の着いたものへと変わりつつある。ここでは、多年に渡り米国で活躍し、瞬撃手の異名を持つ横山師範に、改めて沖縄空手の基本から学び方をご紹介頂く。


瞬撃手が解く、沖縄空手「基本の解明」

第三回 「衛笑堂老師のこと」

文●横山和正(沖縄小林流研心国際空手道館長)


台湾修行

 第一回目で衛笑堂老師のお話を書いたところ、各方面から様々な反響があり、編集氏からも「是非、書いてください」という声が掛かったので、今回は衛笑堂老師とその修業時代について書いてみたいと思います。
 寄り道に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、前にも書いた通り、現在私が空手家としてある大きな部分に、苛酷な経験をされた衛笑堂老師から教えられた、「戦いとは何か?」というシビアな問いがあり、それはこの連載を書き続けていくなかでも、くり返し問われることだからです


 私は高校時代の約一年間、台湾の各武術関係機構に手紙を出し続け、台湾における武術研究・修行の切っ掛けを模索していましたが、なかなか返事を得る事が出来ませんでした。それはかつて空手の道場を探した時と同様に簡単な事ではなく、更にこの時は馴れない英文を書きながら方々へ手紙を出したのですが一向に返事はありませんでした。

 皆目手ごたえの無い諦めムードの中で友人を通じて調べてもらった台湾大学の国術会クラブへ連絡を取ったのですが、これが運良く当時同大学の太極拳師範を勤めておられた李進川老師のもとに届き返信を頂く事になったのです。
 自宅のポスト内に台湾からの手紙を見つけた瞬間は、何か文章や口では表現出来ない程の興奮と冒険心を感じたものです。

 そうとなれば即実行とばかりに、高校の授業をすっぽかして台湾へと飛んでいました。
 高校生であるばかりでなく、海外どころか飛行機に乗ることさえ初めての私はなんとか人生初のパスポートを手入れ、何故か運命的予感を感じつつ空路についたものです。

 こうした機会に恵まれた事に何か非常に大きな自分の未来と運を感じていました。
 台湾に到着後、早速、李老師は自分のバイクに私を乗せて公園に行くと、数人の武術家を紹介してくれましたが、何分、中国語も英語も判らない私は李老師の流暢な日本語通訳を聞いても話が大きく理屈が多いのでチンプンカンプンで頭に入りませんでしたが、武術に関する説明には神経を働かせ、なるべく理解しようと努めました。
 その夜からギリギリの予算を切り詰めるために李老師から紹介された鳥屋を経営する民家の屋根裏に宿泊を決めたのですが、なんと畳二畳で高さも中腰で立つのが精一杯という大変な部屋に一ヶ月ステイしながら中国武術修行を開始する事になりました。ただ、初めての海外、初めての中国武術との出会いはあまりにも刺激的で、そんなことに何の不自由も感じず充実感と稽古を満喫したものです。


衛笑堂老師との出会い

 さて、翌日明朝5時位であったと思いますが、李老師の運転するバイクの後ろに跨り到着したのは台北市の植物公園でした。
 ここでは早朝からそこかしこで様々な武術を練習する光景が見られ、私はその一角で練習をしているグループへと連れられて紹介をされたのです。

 李老師からはほとんど説明がなく、それが何という拳法で誰が先生なのかもまったく判らずに、ただただ導かれるままに挨拶をしていました。
 李老師は実に社交的で人懐っこさがある方ですぐに、そこで練習をしている一人の中年と推手を始めていましたが、私が挨拶をした小柄な中年の老師はふて腐れた、取っ付き難そうな表情で私と李老師を見ていました。

 李老師の推手が終わると、その小柄な老師は私に「君の武術を見せなさい」と日本語の少し出来る弟子を通じて言いました。その時「武術を」と言われて、

「それは……、型ですか?と」

いう感じを改めて思ったのをいまだに覚えています。
 と言うのも、私は当時既に空手の黒帯を持ってはいたものの当時は若さもあり組手にしか興味がなかったからです。型も一通り覚えてはいたものの、深く考えることもなく、習うがままに覚え、後は勝手に自分の想像で補って行っていたに過ぎませんでした。ただ、この時は他に見せるものがなく、当時学んでいた糸東流系の型から、ジオンと三戦の二つの型を行いました。

 するとその老師は私の腕と肩を手で触るとで触り、ぶっきらぼうに

「皆の中に入ってやりなさい」

とこの時は通訳無しのジェスチャーで私に示しました示したの。
 これが以降の私の空手修行に多大な影響を与えて下さった衛笑堂老師との出会いでした。

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