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娘の名前を夫が寝言でつぶやいた別れた恋人の名前にした偉大な妻

今朝、5時に鳴った電話のせいで床屋に行く気になった。男である隆介が、急いで駆けつける必要はないのだ。それと、少しだけれど照れもある。第一子誕生。どうやら娘のようだ。きれいに調髪した頭で、隆介は妻の真由子が入院する。いや、まだ名無しの姫も入院する産婦人科に駆けつけた。
真由子の部屋は3階で、途中の2階に新生児室がある。
「はじめまして」
隆介は、一足早く、我が娘に対面した。スヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。
「ちょっと気の強そうな所は、真由子似だな」
そう呟いて、隆介は真由子の部屋に歩を進めた。
トントン…
「はーい。あなたね」
あいつは透視能力があるのだろうか…隆介は、そんなことを思いながら入った。
「パパさん、いらっしゃい」
「なんだ、お前も来てたのか」
部屋には、真由子、その母、それと隆介の妹の美紀も来ていた。
もともと、真由子と美紀は同級生で仲良しで、子供の頃から、よく隆介の実家に遊びに来ていた。その縁で、真由子と隆介は結ばれたのだ。
「あなた、娘だったら、私が名前決めるのよね」
「ああ、そう言う約束だったな」
「名前は亜紀にしたわよ」
「う…」
「ダメ?」
「いや、いいよ。良い名前だ」
隆介の娘の名前は、亜紀と決まった。
しかし、隆介には、亜紀という名前が少し引っ掛かった。
「じゃあ、私、失礼するわ」
と帰ろうとする妹の美紀が病室を出て行く。
「あ、そこまで送って行く」
隆介は、美紀の後を追った。
美紀と駅までの道を歩きながら、隆介は
「おまえ、何か言ったな」
「なんにも」
「だったら…あの名前」
「亜紀って名前のこと?」
「真由子は知らないはずだ」
「知ってたわ。寝言で、亜紀…亜紀…って、兄さんが言ってたって、それで、
真由子は、亜紀って人は兄さんにとって、とっても大切な人なんだと思って。
もし、女の子ができたら亜紀って名前にするって決めてたのよ。すばらしい愛。
いつまでも、ウジウジ別れた女のこと夢見てる兄さんと大違いよ」
こんなわけで、隆介の娘の名前は亜紀と決まった。

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