世界一大きなクリスマスツリー
もうすぐクリスマスというのに古い教会に住む少女マーヤは
シクシク泣いていました。マーヤを育ててくれた神父様が
天国に召されてしまったのです。マーヤにはお父さんもお母さんも
いませんでした。
あれは15年前のシンシンと雪の降り積もる夜でした。
その日は、国中が湧いていました。それもそのはず、
国王陛下に女のお子様が誕生したのでした。
そんな世間の騒ぎとは無縁な古びた教会を守る孤独な
神父様が夜のお祈りを捧げておりました。
すると、
オギャーオギャー
外から赤ちゃんの泣き声が聞こえるではありませんか。
「こんな寒い夜に赤ん坊の泣き声?変だな」
何やら胸騒ぎのした神父様は扉を開けました。
「あれ」
神父様が驚いたのも無理はありません。
生まれて間もない女の赤ちゃんが
扉の横に毛布にくるまれて寝かされていたのでした。
「誰だろう、こんな所に、おお、寒いだろ。かわいそうに」
神父様は、赤ちゃんをシッカリと抱いて教会の中に入りました。
この神父様は、身寄りもない一人暮らしでした。
ですから、その赤ちゃんを神様から頂いた子と信じ
一生懸命育てました。神父様は、その子をマーヤと名付けました。
マーヤは、元気一杯に育ちました。近所の男の子たちとケンカしても、
絶対に負けないくらい強い女の子です。髪を短くしてましたから、
ちょっと見ただけでは男の子に間違えられたかもしれません。
そんな気丈なマーヤですが、たった一人の身寄りの神父様が
いなくなったのは、かなりショックだったようで、
「これから、どうしよう」
不安一杯で、歩いていました。
その時です。騒ぎが聞こえてきました。
賊が、王家の列を襲っていました。
次から次へと、護衛の兵士が倒れ、賊はお姫様の馬車に迫っています。
マーヤは、いても立ってもいられず、
「この野郎ども、私が相手だ」
マーヤは大立ち回りで、賊と戦いました。
「覚えてろよ」
賊は逃げて行きました。
「ありがとう。あぶないところでした」
お姫様はマーヤにお礼を言って、もう一つ驚きました。
マーヤも驚きました。
髪の長さこそ、短い髪のマーヤと腰まであるお姫様で違いますが
顔立ちがソックリなのです。
お姫様は、ただごとではない親近感を感じ、マーヤをお城に連れて
行きました。
お城では、王様とお妃様が、お姫様が賊に襲われたと聞いて
心配していました。そして、マーヤの活躍で、お姫様が無事だったと
聞いて、マーヤにお礼を言いました。
そして、マーヤの顔を見て、王様とお妃様は、驚きました。
「もしかして…」
王様は、昔から王様に仕えている侍従を呼びました。
「お前、まさか、あの時…」
「も、申し訳ありません」
侍従は、地面に頭をこすりつけるようにして謝りました。
15年前、双子は国を滅ぼすというこの国の古くからの習わしに従い、
双子で生まれたお姫様のうちの一人を山の谷底に落とすように言われ、
侍従は馬に乗って城を出たのですが、お姫様の可愛い顔を見ているうちに、
涙が出て止まらなくなり、たまたま、通りかかった古びた教会に、
お姫様を毛布にくるんで寝かせておいたのでした。
「このバカ者」
王様は侍従を叱り、剣で殺そうとしましたが、お妃様とお姫様が
止めました。お妃様は、泣きながら
「この子といっしょに暮らしましょう。
許しておくれ、お前のことを思いだして何度泣いたことか」
王様も剣を持った手を下ろしました、
「わしも、自分が王であることを何度恨んだことか。しかし、国の
習わしは変えられない。古くからの家来たちが承知しないだろう」
お姫様が言いました
「ねえ、マーヤは強いから、ナンバーワンの護衛として、
いつも私たちの傍にいてもらいましょう。ねえ、マーヤいいでしょう」
王様もお妃様も、
「それなら」
と納得しました。
マーヤは、ずっと独りぼっちだと思っていたのに、急に、お父さん
お母さん、そして、姉までできたのですから、うれしいはずなのに、
たまらなく、うれしいはずなのに、涙ばかりが出て止まりませんでした。
数日後のクリスマスの日、国民は、お城を見上げて大騒ぎしました
「世界一大きなクリスマスツリーだ」
それもそのはず、お城の隅から隅まで、眩しいくらいに
きらびやかに飾られていたのでした。
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