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前世の記憶を話す女の子

猫のミー子は、飼い主に捨てられた。
飼い主は、建設会社の社長をしていたが、
その建設会社が、先月あえなく倒産した。
ミー子の母が子猫だった頃の飼い主は、
たいそう羽振りが良くて、トロの刺身を
毎日のように食べさせてくれたそうだ。
それが、いつしか、キャットフードになり、
いつしかスーパーの安売りの賞味期限切れの魚になり、
ほかに4人いた兄弟たちはペットショップに売られ、
老いた母は食中毒で亡くなり、
たった一匹になったミー子が捨てられる直前には、
冷たいご飯に鰹節をかけただけの餌になっていた。

ミー子が捨てられたのは、車で10分くらい
走ったあたりの河原の墓場だった。
お墓に供えられる食べ物があるから
食べるには困らないだろうが、
せめて兄弟たちと同じようにペットショップで
「子猫をもらってください」
の待遇にしてほしかった。

生まれてから3年ずっと温かい家の中で
暮らしてきたミー子にとって墓の夜は寒いし、
食事と言っても、饅頭ばかりだ。
しかたなく食べていたミー子だが、
鰹節にご飯、いやキャットフード、
願わくば生きの良い魚を食べたいと思っていた。

ある寒い夜だった。ミー子の前に、透き通った足のない
人間が立った。お婆さんの幽霊のようだ。
このお婆さん、猫好きなようで、いろいろ世話を
やいてくれたあげく、
「なあ、ミー子や、私は、もうすぐ天に召されて
行くので、その前に、一つだけ願いを叶えて
あげよう」
ミー子は、降ってわいたラッキーに胸躍らせて、
そうだなあ・・・好きなだけ生きの良い魚を
食べるには・・・
「そうだ、魚屋の娘・・・それも人間の娘に
なりたいです」
と言った。

その夜、その河原の墓場からミー子の姿が消えた。
それから数日後、どこの魚屋かは言えないが、
猫のように大きな目のかわいい赤ちゃんが生まれたそうだ。

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