見出し画像

新燃料G開発秘話

「燃料は、この何十年間変わっていない」
それがJ国の科学者ヒナシの発想の原点だった。
子供の頃から、化学の実験が大好きな男は、血のにじむような努力のかいあって夢のような新燃料Gを開発した。
排気ガスは、今使われている燃料の10分の1、原材料は無税のものを
使ったから価格は、旧燃料の半分以下だ。
しかも、安全だ。
とは言っても、これと言って支援者はいなかったヒナシは、自分でセールスに回った。
実験結果とその燃料で走るマイカーがセールスツールだ。
こうした地道な努力の甲斐あって、ポツポツと新燃料Gを扱ってくれる店も増えた。
そこで、ヒナシは、新燃料Gの精製工場を建てることにした。
しかし、邪魔が入った。
どこへ行ってもJ国関連団体の社員がやってきて、先に土地を高値で買ってしまうのだ。
困ったヒナシは、M国やC国に工場を建てた。
後で考えれば、この方が安く広い土地を買えたのだから良かったのかもし
れない。
その後も順調に新燃料Gの取扱店は増え続け、マスコミも、その素晴らしさに注目し始めた。
そんな時、ヒナシの所に、J国の役人がやってきた。
「新燃料Gの原料に旧燃料と同額の税金をかけることになった」
これで価格の魅力はなくなった。
でも、環境に優しい新燃料Gは、十分魅力があるはずだ。
この国で商売している以上、仕方ないと思い、ヒナシは税金を支払った。
ヒナシの思ったとおり、公害に苦しむJ国の国民は旧燃料と同じ値段でも新燃料Gを買い求めるようになって行った。
もはや、新燃料GはJ国の国民にとってなくてはならないものになりつつあった。
そんなヒナシの所に、新燃料Gを扱っている店から悲鳴の電話がかかってきた。
何でも、J国政府が過去に新燃料Gで儲けたお金にも税金をかけると言ってきたのだ。
しかも、すぐに払わないと、営業停止にすると言うのだ。
困ったヒナシは、政府に掛け合った。
でも、J国の役人はヒナシの話を聞こうとしない。
どうやら、旧燃料で儲けていた政治家たちが、裏から手を回しているようだ。
そんなことが分かっても、ヒナシには、どうすることもできなかった。
とうとう、新燃料GはJ国内では販売できなくなってしまった。
ヒナシの会社も倒産寸前まで追い込まれた。
「もう、ダメだ」
途方にくれていたヒガシの事務所の電話が鳴った。
たった一人の社員は、最愛の妻だった。
「あなた、M国の政府からよ」
ヒガシが電話に出てみると、M国内で新燃料Gを広めたいとの話だった。
Hは、最大の危機を乗り越えた。
翌年、C国でも、超大国B国でも、新燃料Gの販売が許可された。
そして、3年後には、世界の主要国で新燃料Gは使われるようになった。
その頃、M国に移住し妻や子供たちと暮らしていたヒナシのところに、J国政府大臣がやってきた。
「そんなに素晴らしい新燃料Gを、どうして、J国民である君が、J国で販売しないのだ。けしからん」
J国の大臣は、かなり怒っているようだった。
Hはつぶやいた、
「J国って、いつも、こんな感じなんだよね」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?