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まい すとーりー(19)音響・音声信号機の方式と運用の課題

霊友会法友文庫点字図書館 館長 岩上義則
『法友文庫だより』2019年夏号から


多発する視覚障がい者の交通事故

 視覚障がい者の駅ホームからの転落防止対策に力が注がれていますが、道路の交通安全対策も重要です。実際に、視覚障がい者が車や自転車とぶつかる事故が頻発しているのです。直近の例では、昨年12月7日に、車にはねられて死亡した視覚障がい者の交通事故が挙げられます。東京豊島区の駒込駅付近で発生したもので、事故に遭遇したのは、全盲で、私の知人でもあったので非常に大きなショックを受けました。

 この事故は、かねてから心配していた理由によって起きたもので、とても残念です。というのは、安心なはずの音響式信号機(編集注:信号が青になると音が流れる信号機)のある交差点であっても、夜間に音を停止する措置が取られている信号がほとんどだから、事故に遭う危険が高いということです。前述の事故も、音響が停止中の未明の時間帯に発生しており、この心配が的中したことになります。

 そこで今回は、信号機の実態や運用、方式などについて考えてみることにします。

信号機の実態

 東京都内には1万6千基弱の信号機があるとのことですが、そのうち音響式信号機になっているのは2500基程度。しかも、音響が24時間稼働しているのは、わずかに58カ所というお寒い状況です。
 私も毎日音響信号機を利用していますが、やはり稼働時間が制限されているために困っています。朝7時から夜8時までが稼働時間なので、しばしば恐怖の横断になります。音響の稼働時間が制限される理由は、誰もが想像できるように、近隣住民への騒音の配慮です。

 では、音響信号機とはどんなものなのか、それがどのように運用されているのか、また、どんなものが次世代の信号方式になろうとしているのかなどを見てみましょう。

 なお、これについは、都盲協(公益社団法人東京都盲人福祉協会)主催の講習会における警視庁交通部の講演が、同協会発行の季刊誌『点字東京』第305号に掲載された記事を、佐々木広報部長の了解を得て引用しました。

 音響式信号機は、擬音のピヨピヨ・カッコー(実際はそれ以外のものもある)誘導を行っています。この誘導に関しては、全国的な指針が定まっており、基準があります。3.3mから横断歩道のおおむね中央に向かって音を出すようにされています。実際、歩行者誘導塔の頂部の少し上が3.3mになり、そこから中央の路面に向けて音を発しています。これですと、視覚障がい者が方向を取り易いということで、このような指針が示されています。

『点字東京』第305号より

 擬音に関する指針はこれで良しとしますが、なぜ24時間の運用にならないのかというのが私の長年の不満であり、この運用の不備こそが視覚障がい者の安全をおびやかす根本ではないのかとさえ考えてきました。この疑問を幾分和らげてくれたのが、警視庁の次の説明です。

 音響式では、路面に反射した音が建物の壁面で反射、さらに壁面での反射を繰り返し、上方に反響していき、結果、近隣住民の苦情となっているのです。マンションの高層階、特に10階辺りの影響が大きい。夏場ですと、人によってはエアコンを使用せず、窓を開けて凉もうとする人もあり、かなり反響した音が入ってきます。それで、どうしても苦情となってしまいます。それが音響式信号機の24時間稼働を難しくしています。

『点字東京』第305号より

 というわけで、音響反射の性質上一率に24時間稼働が難しい事情を理解したのですが、だからといって、このまま無策に放置されたのでは視覚障がい者の社会参加がおぼつかないことになりかねません。警視庁が、その対策として進めているのが、タッチ式スイッチと呼ばれる新型押しボタン箱というものだそうです。

これは音声案内機能を持っています。音響式の擬音はスピーカーから流れますが、押しボタン型は『青になりました』とか『赤になります』といった音声案内は箱の中からするもので、反射して響くということはありません。箱の周辺に居れば音が分かるという仕組みです。3年前の2月に日盲連(日本盲人会連合)、点字図書館、都盲協などのある高田馬場駅周辺に2カ所、葛飾盲学校前の、計3カ所にまず付けまして、その年の4月から本格的に整備に入りました。ですから、実際に動いている例は少数です。
 そこに昨年12月の事故発生を受けて、音声だけでも24時間にできないものかということになり、今回死亡事故のありました巣鴨警察署管内において新たに5カ所で運用に入りました。
 もっとも、1カ所は従前より24時間運用でしたから、同署管内では6カ所の新型押しボタン箱が24時間運用ということです。また、日盲連、都盲協、点字図書館のある戸塚警察署管内において同様に6カ所で新型押しボタン箱の24時間運用に入っています。新たに運用に入った11カ所について3月に警察署の交通課長会議を開き、運用の影響を検討し、音響の時間帯では新型押しボタン箱からの音声誘動が有効なことを確認しております。

『点字東京』第305号より

 この説明でお分かりのように、信号機は音響式と押しボタン箱の並設となります。従って、両方式が稼働している時間帯においては、青になれば「青になりました」と押しボタン箱の音声が横断を促し、音響式がピヨピヨ・カッコーで誘導を行う。また、信号が赤になる際は「赤になります」と押しボタン箱の音声が警告し、音響式がピヨピヨ・カッコーで横断を静止するという形式になります。

 続いて警視庁の話です。

 このように、新型への移行措置を取っておりますが、一気に進むという状況にはありません。現行の設置の仕方を言いますと、新たに音響式の信号機を設置する場合は新型押しボタン箱も併せて設置。一方、既設のものについては更新周期に合わせて順次新型に更新するようにしています。つまり、予算が伴うものですので、耐用年数に達していないものを取り換えるということにはなっておらず、19年の更新周期に合わせて順次更新しているものです。新型押しボタン箱は、東京警視庁で開発したものであるため、警視庁管内の設置となっていますが、他の地区でも可能としているので、一部は導入されているようです。
 ところで、音声案内するシステム以外に他には無いのだろうかと検討した結果、高度化PICSの開発に至り、現在豊洲駅前で試行的に実験を進めています。スマートフォンを利用し、信号の状況を知り、青信号を延長できたりするシステムです。間もなく全国的に整備する方向にあります。

歩行補助具を有効活用して社会参加を

 ところで、視覚障がい者にとって信号の方式もさることながら、信号の押しボタンを探すのも容易なことではありません。常時使用する信号なら、慣れればそれほどではないにせよ、たまに通る場所ではボタンを探すのに結構苦労するものです。この苦労を軽減するためにあるのがシグナルエイドと呼ばれる歩行補助具です。

シグナルエイド


 シグナルエイドが、信号機に15mから20mくらいまで近づけば、端末機で押しボタンを押す機能を果たせます。
 ただし、ピヨピヨ・カッコーのどちらも鳴ってしまうので、使用者は戸惑うことになるという側面もあります。

 また、シグナルエイドに対応していない信号機もあります。信号機の更新周期は19年ですので、順次対応できる信号機への切り替えが進められていますが、平成15年以前のもので、更新期に達していないものは手つかずの状況です。

 そういう状況もありますが、便利なことは間違いありませんし、日常生活用具に指定している自治体も多いようですので、ぜひ単独歩行をする視覚障がい者にはお勧めしたい製品です。そして、有効な補助具を大いに利用して、勇気を持って社会参加を果たしていきたいものです。

シグナルエイドを活用して街中を歩く岩上館長


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