年数経過した郊外住宅団地 DXで新たな価値を
大和ハウス工業は、4月17日から兵庫県三木市にある戸建て住宅団地「緑が丘ネオポリス」のコミュニティ施設において、仮想空間や遠隔地とつながる空間拡張システムを使い、コミュニティ活性化に関する実証実験を開始しました。1971年から入居が始まり、同世代がほぼ同時期に入居したことで、高齢化と人口流出、空き家の増加などといった課題に直面していました。地域住民とともに同社が三木市と連携しながら、住み続けられるまちを模索しています。
実証実験では、デジタル映像と自然音で仮想空間を再現する「XR技術」を採用。仮想現実や拡張現実などの技術を使い、現実世界と居心地の良い空間を演出することで、利用者数や発話量などへの影響を検証しています。また、コミュニティ施設と遠隔地を映像と音声でリアルタイムにつなぐことで、リモートによるコミュニケーションの快適性を確認します、2025年春まで続ける予定です。
郊外住宅団地とは、大都市周辺の分譲戸建て住宅団地のことで、都市周辺への人口流入が続いたバブル期までは数百戸の単位で戸建て住宅が供給されていました。その住宅団地も高齢化が進むとともに、人口減少で商店や小学校の閉校などによる生活の質が低下し、新規の住民流入を難しくしてきました。大和ハウスは、1962年から全国61カ所で大規模戸建て住宅団地「ネオポリス」を開発してきましたが、2015年にから住民、大学などの専門家と共に新たな価値づくりに取り組む「リブネスタウンプロジェクト」を行っています。8つのネオポリスがその対象で「緑が丘ネオポリス」もその一つです。
DX(デジタル・トランスフォーメーション)は、こうした郊外住宅団地に新たな価値をもたらす可能性があります。
息の長い取り組みの必要性を自覚
2024年1月27日、みらい価値共創センター「コトクリエ」(奈良県奈良市)で「ネオポリスサミット2024~ネオポリスの再耕に向けて~」を開催しています。それぞれの住宅団地の住民が会場で約120人、サテライトで約120人が参加。会場では7つの団地住民代表者が、それぞれのまちで抱える課題や取り組み、今後の展望などを発表しました。芳井敬一・大和ハウス社長のほか、主な役員も会場に足を運びました。芳井社長は、今後もネオポリスサミットを開催していくことを明言し、息の長い取り組みとして取り組んでいくこととしました。
さて、民間企業である大和ハウスが、すぐにビジネスにはならない取り組みを行うのはどうしてでしょうか。一つは、社会的に新しい住宅を作って終わりというビジネスで成長するという図式が成り立たなくなりつつあることです。今の新築の供給自体に批判があることは、過去の空き家の記事でも触れています。
そして、もう一つは過去に供給した住宅に対する社会的な責任を果たすことです。大和ハウスは、2024年3月期に売上高5兆円の企業となりました。これは住宅・不動産業界では初めてのことです。業界を代表する企業であり、社会的責任を無視して規模を拡大することはできません。「リブネスタウンプロジェクト」を開始した際も、最初の住民の態度は「何をしにきたのか」という冷ややかなものだったようですが、企業としての本気度が伝わるにつれて取り組みが全国に広がっていったそうです。
もちろん、住宅団地の課題解消を模索する中で、新たなビジネスのタネが生まれるかもしれないという企業としての期待もあります。今回の実証実験も、こうした流れの一環なのだと思います。
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