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消渇2


【辨証論治】
一、辨証要点
1.病位を弁別する(弁病位)
 消渇病における“三多”症状は往往にして同時存在,するが、その程度の軽重の違いによって上、中、下三消、肺燥、胃熱、腎虚の区別がある。通常肺燥を主とし、多飲症状が際立つ場合を上消と呼ぶ。胃熱を主とし、多食症状が際立つ場合を中消と呼ぶ。腎虚を主とし、多尿症状が際立つ場合を下消と呼ぶ。

2.標本を弁別する(辨標本)
本病は陰虚を主とし、燥熱を標とする。両者は互いに因果関係がある。病程の長短や病情の軽重が異なる事で、陰虚や燥熱と言った表現を行う。一般的には、初病は多くが燥熱を主とし、病程が長くなれば陰虚と燥熱どちらも見られるようになり、日を追うに従って陰虚が主となり、更に陰損及陽から陰陽倶に虚となる。

3.本症状と併発症の弁別
 多飲、多食、多尿や乏力、消痩が消渇病本症における基本的な臨床表現であり、併発しやすいその他諸々の症状と区別する際の特徴である。本症と并発症との関係は、一般的には本症が主、併発症状が従である。多く患者においては、先ず主な症状を見てから、病状の発展に従って現れる併発症状を見るが、また少数患者はこれに相反し、例えば、少数の中高年患者では“三多”及び消痩と言った本症が不明瞭で、常に癰疽、眼疾患、心・脳血管疾患病証等を詮索しながら、最終的に本病を確定する。

二、治療原則
 本病の基本病機は陰虚を本とし、燥熱を標とするものである為、清熱潤燥、養陰生津が本病の治療大法となる。≪医学心悟・三消≫には“治上消者,宜潤其肺,兼清其胃。”、“治中消者,宜其胃,兼滋其腎。”、“治下消者,宜滋其腎,兼補其肺。”と書かれており、消渇を治療する為の要旨が深く追求されていると言える。
 本病は常に血脈瘀滞と陰損及陽の病変、癰疽、眼疾患、勞嗽等の症状を併発する為、具体的な病状を鑑みて合理的に活血化瘀、清熱解毒、健脾益気、滋補腎陰、温補腎陽などの治法を選択する必要がある。

三、証治分類
(一)上消
肺熱津傷証
口渇多飲、口舌乾燥、尿頻量多、煩熱多汗、舌辺尖紅、苔薄黄、脈洪数。
証機概要:肺臓燥熱、津液失布
治法:清熱潤肺、生津止渇
代表処方:消渇方加減。本方は清熱降火、生津止渇を治療原則とし、消渇における肺熱津傷の証に適用される。
常用薬:天花粉、葛根、麦冬、生地、藕汁により生津清熱、養陰増液を行う。
黄蓮、黄芩、知母により清熱降火を行う。
もし煩渇が止まらず、小便頻数で脈数乏力であれば肺熱津虧、氣陰兩傷がある為、玉泉丸或いは二冬湯を用いる。
玉泉丸の中では、人参、黄耆、茯苓により益気を行い、天花粉、葛根、麦冬、烏梅、甘草等によって清熱生津止渇を行っている。二冬湯中では人参による益気生津が重視されて用いられている。天冬、麦冬、天花粉、黄芩、知母によって清熱生津止渇している。二方は前者は益気作用が強く、後者は清熱作用が強い為、臨床における必要性に応じて選用する。

(二)中消
1.胃熱熾盛証
多食易飢、口渇、尿多、形体消痩、大便干燥、苔黄、脈滑実有力。
証機概要:胃火内熾、胃熱消谷、耗傷津液。
治法:清胃泻火、養陰増液。
代表方:玉女煎加減。本方は清胃滋陰を治療原則とし、消渇における胃熱陰虚、多食易飢,口渇等症状に用いられる。
常用薬:生石膏、知母、黄蓮、梔子によって清熱泻火を行う。玄参、生地黄、麦冬によって滋肺胃の陰を行う。川牛膝によって活血化瘀、引熱下行を行う。大便秘結不行であれば増液承気湯による潤燥通腑を行い“増水行舟”する事で大便が通じるのを待って再度上方治療に転じる。
本証は又、白虎加人参湯を用いる事ができる。方中は生石膏、知母よって清肺胃、除煩熱を行う。人参によって益気扶正を行う。甘草、粳米によって益胃護津を行う。全てを合わせる事で共奏益気養胃、清熱生津の効果がある。

2.氣陰虧虚証
口渇引飲、能食与便溏并見,或飲食減少、精神不振、四肢乏力、体痩、舌質淡紅、苔白而干、脈弱。
証機概要:氣陰不足、脾失健運。
治法:益気健脾、生津止渇。
代表方:七味白朮散加減。本方は益気健脾生津を治療原則とし、消渇において津氣虧虚である場合に用いる。≪醫宗金鑑≫等書では本方を消渇治療の常用方の一つとしている。同時に生脈散を組み合わせて益気生津止渇を行う。
常用薬:黄耆、党参、白朮、茯苓、懐山薬、甘草により益気健脾を行う。木香、藿香によって醒脾行氣散津を行う。葛根によって昇清生津を行う。天冬、麦冬によって養陰生津を行う。
肺に燥熱があれば地骨皮、知母、黄芩を加えて清肺を行う。口渇が明らかであれば天花粉、生地を用いて養陰生津を行う。
氣短汗多があれば五味子、山萸肉によって斂氣生津を行う。食少腹脹があれば砂仁、鶏内金によって健脾助運を行う。

(三)下消
1.腎陰虧虚証
尿頻量多、脂膏のような混濁、或いは尿が甘い匂い、腰膝酸軟、乏力、頭暈耳鳴、口干唇燥、皮膚干燥、搔痒、舌紅苔少、脈細数。
証機概要:腎陰虧虚、腎失固摂。
治法:滋陰固腎
大表方:六味地黄丸。

2.陰陽両虚証
 小便頻数、混濁如膏、甚だしくは1回飲むと2回小便に行く、面容憔悴、耳輪干枯、腰膝酸軟、四肢欠温、畏寒肢冷、陽痿或月経不調、舌苔淡白而干、脈沈細无力。
証機概要:陰損及陽、腎陽衰微、腎失固摂。
治法:滋陰温陽、補腎固渋。
代表方:金匱腎気丸加減。方中の六味地黄丸は滋陰補腎を行い、附子、肉桂を併用する事で温補腎陽を行う。
主治は陰陽両虚、尿頻量多、腰膝酸軟、形寒、麪食黧黒等の症状となる。≪医貫・消渇論≫では本方における消渇病に対する応用として明確に論述している。“蓋因命門火衰,不能蒸腐水谷,水谷之氣,不能重蒸上潤乎肺,如釜底无薪,鍋蓋干燥,故燥。至于肺亦无所稟,不能四布水津,并行五経,其所飲之水,未経火化,直入膀胱,正謂飲一升溲一升,飲一斗溲一斗,試賞其味,甘而不咸可知矣。故用附子、肉桂之辛熱,壮其少火,灶其少火,灶底加薪,枯籠蒸溽,槁禾得雨,生意維新。”
 
常用薬:熟地黄、山萸肉、枸杞子、五味子,固腎益精。懐山薬によって滋補脾陰、固摂精微を行う。茯苓によって健脾滲湿を行う。附子、肉桂によって温腎助陽を行う。
尿量多で混濁している場合は益智仁、桑螵蛸、覆盆子、金櫻子等によって益腎収攝を行う。身体困倦、気短乏力があれば党参、黄耆、黄精を加えて補益正気を行う。陽痿があれば巴戟天、淫羊藿、肉蓯蓉を用いる。
陽虚畏寒の場合は鹿茸粉0.5gを服用しながら元陽や全身陽氣の生化が行われる事を観察する。

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