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069_『山小屋の灯』 / 小林百合子、野川かさね

もう、1ヶ月以上も山に登っていなくて、次にいつ山に登ることができるのか、まったく先の見えない今。

一方で、外出自粛ムードの中、少し外を歩いただけでも、肌で春の到来を感じる。それは、同時に登山がこの上なく気持ちの良い季節がきたということ。

きっと、今日も山は確かに変わらず存在していて、そして、本来であれば、山小屋には今夜、光が灯っているはずで。

山の上で過ごす時間は、その一瞬一瞬が美しくて、中でも、日の出と共に少しずつ滲むように明るくなっていく空の色は、表現する言葉が足りないくらい。荷物をまとめ、出発する時間になっても、ついつい手を止めて空の方に目を向けてしまうのは、その場に居合わせている誰もがきっと同じはず。

そして、夜分、静謐な空気に包まれた山頂に見える山小屋の灯り。安心感を与えてくれる暖かさは、思わず手で包んでしまいたくなる。

山小屋の外に出て、稜線に目をやれば、遠くに点々と山小屋の灯りが見えて、そこに誰かがいるんだなと、不思議な安心感を覚え、布団に潜り込み目を閉じる。

ひとくちに「山小屋」と言っても、同じような小屋は一つもなくて、それぞれに良さがある。この『山小屋の灯』という本は、その山小屋の空気をあたかもそこにいるかのように感じさせてくれる一冊。

野川さんの写真と、小林さんの文章。

山小屋の主人の話など、山小屋それぞれのエピソード等が深く綴られており、どの山小屋にも泊まってみたくなる。山小屋を通して山の良さを改めて感じられ、山にまた登りたくなる。

苦しい思いをして山頂を目指すだけが登山ではなく、山小屋で過ごす時間を目的に登る山も、きっと素晴らしい。

早く、また、登ることができる日が来ることを祈って。

カバー写真は2019年8月18日4:52 大天井岳にて。


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