こんな夢をみた

 深夜の事務所の廊下を歩いている。非常灯しか点灯していない。誰もいない。自席に荷物を置き、ムタ課長席の上にある電気スタンドをオン、座る。課長席には事故の記録があった。ファミリーカーが追突され、ドアを交換、しかしドアの色が違った、と写真入りである。これは課長の個人的なものだろうか。その書類を隅に押しやり、私は自分の書類を広げる。夜は自分だけの時間だ。最終電車で通い、始発電車で帰る。そんな生活だ。

 誰かがきた。たまに、深夜残業をしている人と一緒になることがある。「なんでムタ課長の席に座ってるんだよ」同僚のヒデキ君だ。「ここが一番好きだからさ」「お前課長じゃないだろう」ヒデキ君は課長を尊敬している。「会社の席というのは単に割り当てられたもので所有物じゃないよ。誰もいないことがわかっている時はどこに座ってもいいだろう」私は理由にならない理由で煙にまく。きっとヒデキ君はこの席に座りたかったのだろう。

 やれやれ、と私は自席に戻り、帰るための荷物をまとめる。書類、地図、ポテトチップス、食べかけのサンドウィッチ―これは捨てよう、食パン、雑誌。これだけの荷物を鞄に入れて満員電車に乗ったら潰されるだろう。でも今はそんな心配をすることもない深夜勤務だ。課長席の電気スタンドをオフにし、事務所の明かりはすべて消えた。まだ始発電車の時間ではないが、事務所を後にする。


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