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哲学者、4年ぶりに「#新大学生に勧めたい10冊 」を選ぶ

4年ほど前につぶやいた、「 #新大学生に勧めたい10冊 」のツイートを誰かにいいねされて、その書籍の並びに少し驚いた。自分で作ったリストであるにもかかわらず。もっと簡単なの選びなよとか、自分でツッコミたくなる。

当時の気持ちを再現しつつ、旧リストにコメントし、「谷川と見ている景色を共有しつつ、少し学んでみたい」と考える人のために、新しいリストを作ることにしたい。

とりあえず古いリスト(2020年3月のツイート)を掲げておく。

あと、話はそれるのですが、1月3日に日経新聞の取材、5日にNewspickの取材記事が出ました。9日は別新聞の取材も。

よければこちらもぜひ。

まず、古いブックガイドについてコメント付きで紹介し、その上で新しい今年のブックガイドの話するという順序でいきましょう。



2020年のブックガイド

① 田川健三『イエスという男』作品社

①は、神抜きのイエス論。キリスト(救世主)ではなく、一人の人間として徹底的に世俗的に福音書を読むと、なかなか心打たれるイエス像が浮かび上がってくる。中学生くらいの知識だときついが、ちょっと勉強する高校生くらいのレベルからは読むことができると思う。

私はもともとキリスト教に対して好意を持っているのだけど(地元に教会があったからかもしれない)、いよいよ聖書への関心を持ったのはこれがきっかけだった。

著者の圧が結構強いので読者を選ぶが、「なすべきこと」をなし、「通すべき筋」を通し、時に感情的になるイエスの姿を目の当たりにすると、彼のような人がいれば後について行ったかもしれないなとすら思う。

イエスって『任侠転生』みたいな人なんだろうなと思っています。べらんめぇ口調でまくしたて、みんなが「まあ仕方がない」で目をつぶっているアンフェアな事情にぶつかっていくようなパワフルさ。


② 柄谷行人『探求』I, II 講談社学術文庫

ウィトゲンシュタイン、クリプキ、スピノザ、デカルトなどなど、哲学史のビッグネームが出てくる。一応哲学書なのだけれども、哲学的な読みとして適切かというと、そうでもないとしばしば指摘される。

それにもかかわらず、本書を挙げているのは、この本だけでなんとなく読めてしまうからだ。哲学書には、それ以外の本への参照がなければ読み通せないものも多いが、柄谷行人の文章は、自分の言葉だけで完結させてしまうような、「読ませる」力がある。

特に『探求』は、内容というより文体が、言葉のリズムが寂しくて仕方のない日にぴったりだから好きだ。何かを学び始めるときの所在なくて心許ない気持ちのときには、『探求』のことを思い出す。

ミステリ作家の法月綸太郎さんが本書の影響を受けて、法月綸太郎シリーズやミステリ評論を書いたことでも知られる。

③ ヤマシタトモコ『違国日記』祥伝社

少女小説家の高代槙生(35)は姉夫婦の葬式で遺児の・朝(15)が親戚間をたらい回しにされているのを見過ごせず、勢いで引き取ることにした。
しかし姪を連れ帰ったものの、翌日には我に返り、持ち前の人見知りが発動。槙生は、誰かと暮らすのには不向きな自分の性格を忘れていた……。
対する朝は、人見知りもなく“大人らしくない大人”・槙生との暮らしを物珍しくも素直に受け止めていく。

商品説明より

これについては多くを語るまい。(もうたくさん語ってきたので)

④ リチャード・セネット『不安な経済、漂流する個人』

敬愛する社会学者の一冊。「新自由主義」のような雑駁な言葉ではなく、私たちが生きている新しい経済状況の系譜を、すごく具体的なエピソードから抽象的な理論までを織り交ぜながら解説。

いかんせん絶版なので手に入れづらいが、中古市場の値段も落ち着いているので今のうちに買ってもいいかもしれない。(元々は5000-6000円くらいで安定していた。)

現代人と感情やメンタルヘルスの関係について考えるようになったのは、思い返すとセネット辺りに淵源があるのかもしれない。

ちなみに、彼はかなりやり手のチェリストでもあり、その経験は、作ることについて論じた『クラフツマン』という著作にも反映されている。(むちゃくちゃいい本だけどこちらも絶版。高騰している。)

⑤ ポール・ウィリス『ハマータウンの野郎ども』ちくま学芸文庫

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