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#6 黒くて光るアイツを効果的に駆除する 2つの秘密兵器について


夏の夜に黒い影

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それはある汗ばむような夏の夜のこと。


「ママ、あそこに大きな黒い虫が!」


うちのむすめは虫が苦手である。
とくに、夏の害虫の王者ともいえる、あの黒くてぬめりぬめりとした虫は、その名を口にすることすらイヤだという。

なのでここでは便宜上、奴のことを「G」と称する。「G7」「G12」とか、イギリスとかアメリカとかの政府のえらい人じゃないほうの「G」である。

母VS「G」のガチンコ勝負

note台紙

いま、母であるわたしに課せられたミッションとしては、とにもかくにも「G」がタンスのすきまに逃げこむまえに抹殺することである。

しかし、まだ晩ごはんのカレーをもぐもぐしているむすめがいる前で、殺虫剤を大噴射するのはさけたい。

となると、こちらが使えるツールはこれしかない。

わたしはテーブルの上にあった新聞紙をまるめると、一瞬うごきをとめた「G」に向かって振りおろした。

四十肩の痛みも忘れ全力で振りおろされたその新聞紙は、うつくしい放物線を描きながら「G」にクリティカルヒットした…はずだ。

だが、なにせ奴は頭がいい。打たれて死んだフリをして、ほとぼりが冷めたころにこっそりと動きだし、逃走するからタチがわるい。

そのため、その場で動きをとめた「G」の褐色のボディから、白い直視したくない何かがはみ出ていたところまでをたしかめると、わたしはようやくミッション終了を自分に宣言した。

武器①新聞紙

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ありがとう新聞紙。

そしてごめんなさい。その一面に掲載されていた、日本体操男子金メダリストの橋本大輝くん(の写真)。

あなたのすばらしい鉄棒の最終演技、うちの家族はみんなで見ていました。

このように「G」を物理的にしとめるには、軽量かつ手でにぎりやすい道具が不可欠である。しかも「G」はつぶしても床などは傷つけないという、絶妙のかたさをもった物体を使うことが要求される。

その点でいうとスリッパが最適なのだが、あれを使うと、しとめてしまったあとの始末にかなりこまる。やっぱり、なしとげたあとにそのまま廃棄できる新聞紙こそが、この任務には最適なウェポン(武器)であるといえるだろう。

武器②ロングセラーの毒エサ殺虫剤

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こうして、いまでこそ「G」にもちゅうちょなく立ち向かっていく力づよい母であるのだが、決してはじめからこうであったわけではない。

こんなわたしにだって、「G」をみると「きゃー、こわいー」とか言っていた時代があったのである。

そして、そんなはるか昔の印刷会社員時代、わたしはある有名な害虫(おもに「G」)駆除製品をつくる会社を仕事で訪れたことがある。そこの会社案内を製作するための取材だった。

その会社は、国内ではじめて「G」用の毒エサ殺虫剤の製造・販売をおこなったところ。そして、この毒エサ殺虫剤は、玉ねぎとピーナッツ、そしてホウ酸が練りこんであり、置くだけで「G」を退治できるというものであった。

玉ねぎやピーナッツのにおいにひかれてやってきた「G」は、ホウ酸を食べることで脱水状態になり、水を求めて外に出ていく。だからこれを使えば、「G」の姿を目にしなくてもいい。また一度セットすれは効果が約1年間持続するということから、誕生から30年以上たったいまでもロングセラーの逸品なのである。

安らかに眠れ

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緑も深き岐阜県池田町。そこにある本社工場へおじゃましたとき、最初に目に入ったのが、「G」の供養塔。

石碑には「安らかに眠れ」と刻まれていた。さらにりっぱな石でできた供養塔にはセンサーが内蔵されていて、これに近づくとしめやかに鎮魂歌が流れるのだという。

そして年に一度、6月4日、まさに「ム・シ」の日にわざわざ神主さんをよんで、全社員で供養祭を営まれるのだとか。

「これを食べたゴキブリは、ホウ酸の働きで脱水状態になり死に至ります。」(同社ホームページより)

「安らかに」、ねえ。

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「G」駆除剤の製造会社で、「供養塔」「鎮魂歌」「安らかに」…。

想像をぶち超えるパワーワードの連続で、当時、一介の若手社員だった私は、もはやどういうリアクションをとったらいいのか、わからなかった。

あらゆる生命との共存

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まあ、「G」がふえてしまうと自社製品の品質がうたがわれるだろうし、とはいえ、この地球上から絶滅してしまうと会社もつぶれるだろう。生かさぬように、殺さぬように共存するということか。

そういえば、先日読んだマンガ「ゴールデンカムイ」によれば、北海道のアイヌ民族の方々は、身のまわりに存在する火や水、植物や動物などすべてのものにカムイ(神)が宿っていると考えておられるそうだ。

だから、クマなどの猛獣も、命をおびやかすおそろしい存在であると同時に、それらへの敬意も決して忘れることがないのだとか。

ひょっとすると、この会社のみなさんにとっても、「G」は、ちょっとだけ似た存在なのではないだろうか。

駆除すべき対象でありながらも、同時にそれもまた1つの命。
それがあの供養塔であり、鎮魂歌なのかもしれない。

見学させていただいた工場内は清掃がいきとどき、また社員同士で互いのよいところを表彰し合う制度があるためか、社員の方々も笑顔で、とてものびのびと働いておられる印象を受けた。

また、社長(現在は会長)自らが先頭に立ち、トイレを掃除することで、心もみがくという活動を積極的にすすめておられた。だから、工場内でお借りしたトイレの便器は、新品とみまごうばかりに美しくかがやいていた。


この会社には、古きよき日本の魂、そしてつきることのないユーモアが残っているのだろう。


とりあえず、「G」が発生した我が家用に、またあの駆除剤を買おうと思った。

まとめ

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夏の「G」対策には、

①まるめた新聞紙

②株式会社タニサケ「ゴキブリキャップ」

が最適である。

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