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ホテルの開業準備 その25 初年度予算の作成

開業初年度の予算作成はとても難しいです。過去の実績がないので、前年比での増収目標や、費用削減の割合を示すことができませんし、そもそもこれまで存在しなかったホテルが急にできるわけですから、社内の目標はともかく、実際どの程度認知度が高まり、オープン当初から期待する集客ができるかが読みにくいからです。今日はこのあたりについて。

一口に予算といっても収入計画、費用計画、資金計画などいくつかに分類されますので、それぞれ見ていきます。多くの新規プロジェクトの場合、プロジェクト成立時に総事業費とそれに基づく収益計画が立てられているはずですから、その計画に沿った予算となっていれば良いのですが、多くの計画は開業の数年前に作成されており、市場環境も大きく変化していることもままあります。(特に今回のコロナショックのような状況はこれまでの収支計画を一から見直さなければいけない事態に直面しています)今回の記事では、あくまでマーケット環境をベースにした作成に焦点を当てることとします。

1.売上計画

 まず基本となるのかホテルの収益性に関してです。一般的には、マーケットにおける競合ホテルの設定を行い、そのホテルの収益性(稼働率や販売単価)について調査し、競合ホテルに対する優位性を加味して、収入計画を策定していきます。

ホテル開業から巡航速度に乗るためには、通常、数か月かかりますから、標準的な収入を100として、開業当初の数か月は40%、半年までは60%といった感じで徐々に収入規模を切り上げていくような計画が現実的です。

2.費用計画

続いて費用計画です。費用は主に、人件費、原価、その他費用に分類されますのでそれぞれ見ていきましょう。 

「人件費」については、開業準備期間に採用する人員数や福利厚生の内容も固められますから比較的正確な予測が作れると思います。収入計画に応じ、オペレーション要員の数も徐々に増えていくのが一般的ですから、収入増加ペースに合わせた人件費をたてていくようにしてください。開業準備の早い段階でスタッフの福利厚生の内容も固めておくと関連諸費の計算も楽になりますから、早めに国や地域に応じた福利厚生制度の把握が大切となります。

「原価」については、料飲関係の収入に対する原価率を掛け合わせて計算します。一般的には売上の30%前後が標準といえますが、開業初年度においては、調達先の選定が整っていなかったり、認知度向上のためのプロモーションを行ったり、ブッフェの集客が振るずフードロスが多めに発生する可能性など、全般に初年度の原価率は高めで推移しますから、許される範囲でややゆとりのある計画とすることをお勧めします。

一番難しいのは、「その他費用」ですね。前年実績がなく、開業準備の段階で全ての費用を積み上げいくための材料が揃っていないタイミングでの予算策定となりますので、一般的には収入に対する比率で計算していくこととなります。但し、初年度は収入規模が比較的小さいため、固定費で構成される部門や項目では、比率が高止まりする可能性が高いです。一般管理費や水道光熱費などは特にその傾向が高く、一般管理費については、項目が多岐に亘りますので想定されるすべての費用を洗い出し、積上げと比率計算の両面での検証を進めるようにしてください。

3.資金計画

主にキャッシュフローと呼ばれるものです。収入と費用のバランスが取れオペレーションキャッシュフローがプラスとなっていれば一安心ですが、仮にマイナス収支となっている場合は特に注意が必要です。また、運転資金の計算を行ううえで、売掛金の比率、買掛金の支払いサイクル、営業保証金の有無などオペレーションキャッシュフローの作成はオペレーターの重要な検討項目になりますので財務担当の責任者と十分に協議し、キャッシュ枯渇が起きないよう、また、余裕をもった資金補填がオーナーから行われるようなフロー構築に十分に目を配っておいてください。

運営受託契約の場合、ファイナンシャルキャッシュフロー(借入金の返済)はオーナー管理となることが多く、またインベストメントキャッシュフロー(投資支出)については、開業前準備の段階でほぼ完了しており、初年度に追加支出が発生するケースは少ないと思いますが、仮に準備段階での漏れが発生した場合は織り込む必要がありますので注意してください。

今日はこのあたりで。

ホテルマネジメントの達人




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