【三人組メモ】先生と潜入大作戦3
指定された場所…それは、音楽室だった。
「主よ、人の望みの喜びよ」
佳一が事前に教えられていた呪文を口にすると、音楽室の鍵が開く。
中に入ると、黒いフード付きのマントを着た二人組がすでに待ちかまえていた。
顔は…見えない。
「こっちだ」
特に挨拶もないまま、その二人は音楽室内にある楽器が沢山置いてある部屋へと俺たちを連れていった。
中はほこりっぽくて、咳き込んでしまう。
ここで何をする気なんだ…?
一番部屋の奥へと進んでいき、そこに置かれた一台のアップライトピアノの前で立ち止まる。
一人が、鍵盤の音を三つほど鳴らした。
すると、ガガガ…と音をたてて、ピアノが横にゆっくりとスライドし始めた。
隠し扉のようになっていたのだ。
下へと続く階段が表れる。
…こんな所に隠し部屋が…
「下りろ」
命令口調で言われ、佳一から階段を順に下りていく。
壁にはろうそくがいくつか灯されており、真っ暗というわけではなかった。
それでも視界は悪いので、気をつけながら階段を一段ずつ踏む。
ようやく全ての階段が終わり、開けた場所に出た。
そこも明かりはろうそくのみ。
薄暗い中で、もう一人フードマントの人物と…
ここ数日、行方知れずとなっていたクラスメイト…長江向日葵が椅子に座らされていた。
長江の目は虚ろで、どこを見ているのかもわからない。
どこへ消えたかと思えば、こんな所にいやがったのか!
「…汝、真の名を申せ」
三人目のフードマントの人物が俺たちに向かってそう言った。
くぐもった声だが、明らかに女の声である。
…誰かもわかった。
つーか。
「…あ?名前?知ってるだろ」
何でわざわざ言わなきゃいけないんだよ。
「慎ちゃん」
佳一が従うんだ。とでも言いたげに俺の名前を強めに呼んだ。
面倒くさいな…
あまり名前は言いたくない。
だって絶対よくないことに使うに決まってるじゃん。
こいつらが顔見知りじゃなきゃ嘘ついたのに…
俺と佳一はそれぞれ名前を言った。
…先生はどうするのだろうか。
「紅紅葉です。よろしくね」
いかにもわけがわかっていませんふうに装っているようだが、そんなキャラじゃねぇだろ!
媚び売ろうとするな!
しかも紅紅葉って何だよ。
クレハだから紅葉って…
安易だな!
気づかれてもおかしくないぞ…
と思ったが、こいつらに限ってそんなわけがないと、俺は何となく悟ったのだった。
「ねぇねぇ、何するの?あなたたちは何でそんな格好しているの?」
猫なで声で男子二人に詰め寄る。
おいコラ…
可愛い女子に可愛い声で近寄ってこられ、戸惑っているのは明らかだった。
ちょろいな…こいつら…
ごほん!と、三人目のフードマントがわざと咳払いをする。
「勝手な真似はするな」
…こっちはこっちで嫉妬の色が見えた。
アホしかいないのかな…
「これより儀式を行う!今宵は二人の魔女を主様に捧げる!」
二人の魔女…長江と先生のことか。
捧げるというのは、生贄という意味か?
一体どういうつもりなんだ…
「お前たちは主様に魔女の生贄を差し出した。きっとお喜びになられるだろう」
改めて思うが…
先生の言う通り、俺たちは女子を連れてこいと言われていたがそれは建て前。
本当は魔女が必要だったんだ。
生贄にするために。
それがやつらの組織に入る条件…。
女子なら魔女である確率は高い。
先生のようなイレギュラーもあるが…
ただ、生贄というのが引っ掛かる。
「まずはこちらの魔女から」
長江のもとに、何やら仰々しいカップが運ばれる。
意識はあるらしく、長江はそれを受け取る。
「この聖なる水を飲めば、お前たち魔女の力は主様のものとなる!」
…!?
聖なる水というのは胡散臭い。
魔女の力が他のやつの者になるっていうのか?
力は失うのか?
そんなこと…できるのか…?
このままあれを飲んでしまえば、長江は…
どうする。
どこまで黙って見ていればいいんだ。
長江はゆっくりと、器に口を付けようとする。
やばい。
絶対にやばい!
俺は魔法を使おうとした。
先生の右手もわずかに動く。
だが…それより先に、佳一が動いていた。
長江の持つ器を手で弾き飛ばした。
カラン…と音を立てて、器は落ちる。
中の水も全部こぼれた。
場は静まりかえる。
「…そういうこと」
口を開いたのはあいつだった。
「あんたたち、主様に忠誠を誓いに来たわけじゃないのね」
さっきまでの胡散臭い演技はやめて、素に戻っている。
ここまでか…!
俺は元来た階段のほうを振り返る。
しかし、やつら二人が逃げ出さないように前に立ちはだかっていた。
くそっ…
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