蝶の眠る場所
ああ、事件もののミステリかと
装丁が綺麗で社会派ミステリという文句に釣られて買った一冊だった
いつもなら、買った本は積まれて別のものを読んでいただろう
だけどこの本はなにかを持っているのだろう。何気なしに手持ち無沙汰にしていた休日。手に取ってパラパラし始めた。
それが私が落とし込まれた瞬間だった
ただのミステリじゃない
この物語は誇張でもなんでもなく『罪と罰』の物語だ。
起点は冤罪のまま死刑になった囚人の話だったであろう。しかしそこから大きく展開される、ただのミステリで終わるものじゃなかった。
犯人も探偵役もいるのに、終始この物語は事件を中心として巡る人間の話であり恨みと憎しみの連鎖。倒置法のように、語られる真実は最後の一章。それも過去の話である。過去の事件の死刑者のさらに過去。そんな昔に怨嗟の鎖は繋がっていた。
一つ一つが繋がり、冒頭の少年の自殺に遡る
事件を書いているのに主人公は事件ではなくて人間の愚かさと業が連綿と綴られる話なのだ。
あらすじはそのようなものだったが、私の心に残ったのはそんなことよりも、ただの話の流れの一部でしかない部分にあった
「あなたの中にもヒトラーはいる」
その言葉に私はうたれた
ただのミステリ?
そんなものを語るのにキング牧師もキリスト教も、強制収容所の話もいらないはずだ
作者が訴えているのは人間の話なのだ
憎しみという人間の感情はこんなにも愚かな結末しか生み出さないという人間の罪を説いたものなのだ
私はそう受け取った
作者がこれが処女作と知りなおのことおののいた
私の中にもヒトラーはいるのだろう
だが願わくば、蝶になり羽ばたく最後を迎えられたらと祈らずにはいられない
傑作に快哉を