龍のことば(「木下龍也」で短歌7首)
①ミウラ折りめいた手つきで生も死もきみが31音に折る
木下龍也とは、歌人である。
代表作としては以下の作品が挙げられる。
②ひらくたびきみの31音が透明な蝶としてはばたく
「よい短歌とはなにか?」という質問に、木下さんは”驚く短歌”、”読む前と読んだ後の世界を更新してくれるような快感”と返答している。
わたしも彼の短歌で最初に感動したのは、偶然見かけたこの1首だった。
この短歌に驚きと、読んだ前後で世界が更新されるような快感を覚えたのだ。
それ以来、わたしも短歌をつくりつづけている。
③「魔法」とはタネや仕掛けを十分に発達させる知恵のことです
木下さんはたびたび、ご自身の短歌を「手品」であって「魔法」ではないと評する。
その言葉への身勝手なアンサーとしてつくらせていただいた。
④筆跡を痕とよびたい。インクよりきみを消耗した筆跡を。
木下さんは「あなたのための短歌一首」という、短歌の個人販売プロジェクトを行っている。
購入者はメールでお題を送る
木下さんはそれをもとに短歌をつくり、便箋に手書きして返信する
制作した短歌を作者は記録せず、一切公表しない
NHKでも取り上げられた、彼の代表的、象徴的な活動だ。
⑤寝るまえに龍のことばをきく まんが日本昔ばなしのように
前述したプロジェクトでつくられた短歌を収録した歌集が『あなたのための短歌集』(著:木下龍也 ナナロク社)だ。
見開きの右ページにお題が、左ページに短歌が書かれている構成となっていて、短歌初心者でも気軽にチャレンジできる。少なくとも「なにが言いたいのかわからなくてつまらない」ということはない。
例えば、本の表紙にはこんなお題と短歌が書かれている。
『あなたのための短歌集』には、名前に関する――名前の漢字を使ってほしいという――お題も多い。この短歌はそのオマージュである。
⑥月に向けのびるはしごの遠方にいるきみも月そのものじゃない
木下さんは現在『群像』という文芸雑誌で、いわゆる投稿コーナーの選者を務めている。
読者は月ごとに変わるお題に沿って、短歌をつくって送る。木下さんはそのなかから作品を選び、選評を書き、自身も同じお題で短歌を作る。初稿から決定稿までのプロセスさえ、彼自身が解説してくれる。
読んでいると、彼もまた自分と同じ短歌のプレイヤーであることが実感できる。
⑦立つ きみが草くさくなるまでBackspaceで刈り込んだ芝生に
木下さんが執筆した短歌の指南書には、このような文章がある。
木下さんの短歌に触発されて、わたしは短歌を始めた。彼は土台だ。
わたしは、彼より高い位置に行きたい。
そして短歌は、ビギナーがベテランよりも優れた1首をあっさり詠みうる世界なのだ。
結びに
木下さんがNHKに取り上げられた番組のダイジェスト版が、YouTubeで公開されている。興味がある方は、ぜひ見てほしい。
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