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遥か遠い真下、春かと思いました。

   「私達、人より文章を書く側の人間だけどさ、」 

   「うん」

 「私達が気持ちを込めて書いた手紙より、普段手紙なんか全く書かないような、…そう、『手紙なんか』って思ってるような人間が、その辺にあった裏紙をちぎってテキトーに書く、『お疲れ様』とかの方が尊い気がするんだよね」

 「わかる、付箋に書かれてるやつね」 

   「そう。それで私達はそういうのを捨てられないタイプだからさ、こっそり保管しちゃうんだよね。」

   「わかる、しかもそういう人って、謎に刺さる言葉選びをしてこない?」

   「そう、もうさ、なんか。もう、負けなんだよね」


わたしが、「この人の言葉選びが好きだな」と思う人は、例えば、「香水付けてる?」を「香水振った?」と言い換えれてしまう人のことです。「大事にするよ」より「大事にさせてよ」と言う、あの感じも惹かれる。「今度ご飯行こうね」じゃなくて「連れてくね」って言うとか。そういう人は大抵、口数がどんなに少なくても一つ一つの言い回しに色が出ているから、話せば話すほど惹かれていく。自分が使える言葉を知っていて、言葉の力を信じている人の言葉より、言葉そのものを疑っている人が紡ぐ言葉の方が美しく思えるのは、どうしてなんだろうね。タチが悪いことに、そういう部分で心臓を掴まれてしまったら、もうほとんど逃れられない。

なぜわたしが言葉にこだわるかというと、「自分の考えていることを、自分の言葉で表せないのならば、本当の意味で考えているとは言えない」と思ってきたからです。そしてそれは、文学をかじった人間として、求められる素養でもあったと思う。考えているから文章にできるわけじゃなく、文章にできるからこそ考えている、ということ。これが正しいかどうかではなく、わたしはそういう前提で生きてきたというだけのことです。

それぞれの感性や、言葉の選び方の相乗効果で、話題が逸れて思ってもない方向に進む会話が好きだし、そういう人生を愛している。だから自分の気持ちを言葉にしていきたいし、それで生まれるどんな沈黙にも怯みたくはないし、言葉にできない時はちゃんと黙っていたい。今まではどんなに仲が良くても、わたしのことをどうしたいのか、わたしにどうさせたいのかわからない人と一緒にいると不安になっていた。わたしのことを明確にどうにかしたい人と一緒にいると安心できた。染みついた承認欲求は簡単に克服できないけど、そろそろ変わりたい。自分のこと自分で愛せるのが、結局一番綺麗だってわかったから。

今まで、ずば抜けた社交性も能力も無いわたしが、こんな極端な人間のままやってこれたのは、運良く相性の一致する相手と鉢合わせてきたからなんだな、と思う。人並みかそれより少し下のスペックなのに、人より人を選ぶ性格。こんな性格で困ることがなかったのも含めて、運が良かったんでしょうね。自分が自分らしく、柔らかくいれる人に恵まれてきたし、惹かれてきた。そういう人がわたしに興味を持ってくれていた。似たもの同士、相性が良かった。



ただ、今回は違っていました。「あらあら。何もかも正反対だ、この人とは確実に相性が悪いな」とわかってからも、惹かれるのを止められなかった。面白半分で関わっていたのに、いつの間にか到底、相性なんかでは諦められないところまで来ていました。

一方は何でもかんでも言葉にしすぎるし、一方はあまりにも言葉にしない。一方は率直すぎて配慮に欠けるし、一方は遠回り過ぎて核心を突けない。一方はそれが書かれるまでの行間を読もうとしないし、一方は行間を読みすぎて本文を読まない。一方は答えのないことを延々と考えるし、一方は結論に向けて最短でコミュニケーションをとる。優劣は無い。それでも、「考え方の違い」なんて比じゃないくらい、お互いが極端に偏っていた。

一方の出来る「考える」の深さ、距離、その範囲と、一方の出来る「考える」の深さ、距離、その範囲に、どうしようもなく極端な差があった。あのね、ずっと前から、わたしが考えたことや感じたことが、あなたの器からドバドバと溢れて流されて、無かったことになる様を、何度も、何度も眺めていたよ。あなたの考えたことや感じたことに触れられないまま、あなたの中だけで消化されていくんだと思ったときも、それを眺めていた。何にここまで惹かれたんだろうね。ずっと「いつかこの人にこっぴどく振られるんだろうな」と思っていた。そうやってあなた一人で完結する世界の中で、わたしの椅子を残してもらえる自信なんて、ほんの少しも無かったから。いっそ居なくなることでわたしの存在を色濃くしようと思ったけど、不在による存在証明さえ、あなたには通用しなかったらしい。


わたしが本気で人間関係をやろうと思ったとき求めるのは、信頼関係を維持できるだけのコミュニケーションです。あなたは何が欲しかったんですか。そういう話から始めたかったね。生きてきた前提が違う相手と、相性なんかぶっ壊して本気で関わろうとするなら、それはもうほとんど戦争になる。わたしはずっと、あなたと大戦争がしたかった。相性のせいにして、距離のせいにして、わたしから逃げないでよって、思ってた。でも、一通り冷静になった今。振り返ってみたらね?なんと言うか、自分ですら手に追えない自分をあなたに丸投げしていたわたしって、ちーーっとも可愛くなかったなぁって思うよ(笑) 本来のわたしはもっと強くて可愛かったはずなのに、そういうわたしに興味を持ってくれたはずなのにね。あーあ。相性のせいにして、あなたのせいにして、逃げていたのはわたしの方だった。たぶん、あなたが最初に「香水振った?」と聞いてきた時点で、わたしの負けでした。


「酸いも甘いも」の酸いの部分。
思い返せば自分の悪かったところばかりが目立つ。

苦しかったけど、それを越えた今、現実的に自分が目指せる「女の子像」を見つけつつあります。(23歳になるけどまだ「女の子」って使っていいかな、笑)おかげで、と言っていいのかわからないけど、おかげで。それは、人と関係性を作るにあたって自分がどういう人でいたいかでもあるし、自分を見失いそうになった時に見つめ直す根っこの部分。どんな風に出会い直したいか、も、今のところ含まれている。とくかくもう、執着は解けたみたい。わたしはここで自分に意識を向けて、努力して、強がって、強くてしなやかな女の子になる。


春かと思ったこと。
いつかこの全て、
懐かしさだけをそのままに笑えたらいいな。


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