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人間関係のピント合わせ

その昔、職場の上司と反りが合わなかったことがある。こちらの思い違いか、いや誰が見ても上司が悪いか、今となってはどちらでもいい。腹立たしい思いもしたし、悲しくてやりきれなくて体調を崩したこともあった。

しかし、数年後その上司が退職すると聞いて初めて長く話をしたことがある。その話の内容は上司の未来の話だったのだが、実に建設的で、今までの仕事にも誇りを持っていた。話をしながら私は「なぜあれほど嫌っていたのだろう」と自問自答を繰り返していた。しばらく考えた結果出た結論は、距離が離れたからだった。距離が近いときに、未来の話をされると現状を投げ出しているように映ったと思う。話し込んだときはすでに別々の部署にいたので上司の未来が綺麗に見えた。

先日、社内でも知られている、いわゆる変わり者という人と一緒に仕事をする機会があった。確かに他の人と違った考え方をしていたが私は楽しくて仕方がなかった。そして、いいところをずっと探していた。私がその方の上司や同僚ではないからそう感じることは容易にわかった。もし同僚や上司なら、粗を探していたかもしれないし、心から楽しめなかったと思う。

そう考えると、私が生まれて出会った人はすべて距離感さえうまくいけば全員が好きな人になりうる。反対にどれだけ距離をとっても嫌だと感じる人こそが正真正銘の「嫌いな人」になるのだが、思いあたる人が見当たらない。

きっと、あれだけ嫌いだった上司に、また食事でも行きましょうと私から誘えば、そっけない態度をされてこちらが傷つくのだと思う。こちらから距離を詰めてはいけない。季節の便りだけにしとけよ。俺。

数百年後の未来には相手との最適な距離感でしかピントが合わないカメラアプリが開発されているだろう。これでだれも傷つかないはずだ。そんなスマホを持った未来人が2023年に違法タイムトラベルしてないだろうか。そしてそのスマホを俺に貸してくれないだろうかと通勤電車の中を見渡してみた。「時をかけるな恋人たち」というドラマもおもしろく、せつない。

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