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論文紹介:総合内科設立と他の診療科での血液培養採取数増加との関連

過去の記事でHospitalistに関する主要なエビデンスについて、まとめてご紹介しました。

今回は、日本で行われた総合内科設立と総合内科以外の診療科での血液培養採取数との関連をテーマとした研究の論文をご紹介します。

2021年に日本内科学会の英文誌であるInternal Medicine誌に掲載された論文です。
The Association between the Establishment of a General Internal Medicine Department and an Increased Number of Blood Cultures in Other Departments: An Interrupted Time Series Analysis
Intern Med. 2021 Dec 1;60(23):3729-3735.

論文のPECO
P:日本の急性期病院単施設
E:総合内科設立
O:総合内科以外の診療科での月間血液培養採取数

感染症診療において血液培養採取が重要であることは改めて述べるまでもないでしょう。原因菌の同定は感染症診療の重要な要素の1つであり、適切な抗菌薬の選択、適切な投与期間の設定、治療反応が不良の場合の原因の検討、などにつながり、欠かせない情報です。
薬剤耐性菌の増加が世界で大きな問題となっており、薬剤耐性菌対策としても血液培養の採取による抗菌薬使用の適正化は重要です。

The American Society of Microbiologyのガイドラインでは、血液培養陽性率は103~188セット/ 1,000患者日が望ましいとされており(Blood Cultures IV American Society for Microbiology. Washington, D.C, 2005.)、感染症診療の質指標(Quality Indicator)の1つとなっています。しかし、日本では25.2セット/1,000 患者日であったとする報告があり(日本臨床微生物学雑誌. 2012; 22(1) 13-19.)、血液培養採取数が過少であることが示唆されています。

また、複数セット採取することで菌血症検出の感度が上昇し、1セットで73.2%、2セットで93.9%、3セットで96.9%と報告されているため(J Clin Microbio 2007:45:3546-3548)、2セット以上の採取が推奨されます。

本研究の統計解析には分割時系列デザイン(Interrupted Time Series Analysis (ITSA))が用いられています。
ITSAでは、集団全体にある時点で介入が発生した場合に、前後のレベルの変化と傾きの変化をモデル化して比較することで、個人レベルの交絡の影響を受けずに介入効果を推定することが可能となります。時点で割付を行ったランダム化比較試験ということで、準実験デザインとも呼ばれます。
本研究では、病院(P)に総合内科設立という介入(E)が発生し、その前後で総合内科以外の診療科での月間血液培養採取数(O)を比較しています。

本研究の介入である総合内科設立の具体的な内容としては、2015年に3名の医師を採用、院内の全医師を対象とした血液培養の重要性に関する教育プログラムの実施です。この教育プログラムには、個々の患者に関する相談や、感染症の最適な診療に関するレクチャーが含まれています。また、血液培養ボトルへのアクセス向上、細菌検査室の設置、血液培養のオーダーを促進するための電子カルテの改善といったシステム改善も支援しました。感染制御チームと協力して、血液培養採取の最適な手技に関するトレーニングの提供や、血液培養の陽性結果を確認し、提出した医師に通知するシステムの導入も行いました。

メインアウトカムとして、2015年の総合内科設立前(2013-2014年)と設立後(2016-2017年)の血液培養採取数を比較しています。同一患者に同一日に採取された血液培養を1回の血液培養採取とカウントしています(つまり複数セット採取されても1回とカウント)。総合内科がオーダーしたもの、総合内科へのコンサルトに基づいて採取されたものは除外されています。
結果の図を見てみましょう。

プロットされているのが月間の血液培養採取数で、線形のモデルに当てはめて実線のグラフが描かれています。総合内科設立前も、感染症教育の普及などの影響と思われる血液培養採取数の増加トレンドがみられており、総合内科設立がなかったと仮定した場合の血液培養採取数の変化のモデルが破線のグラフで示されています。破線と実線の差がレベルの変化で、総合内科設立という介入によって血液培養採取数が増加したことがわかります。平均月間血液培養採取数は、総合内科設立前が13.2、総合内科設立後が37.0で、レベルの変化は月間10.7(95%CI 0.39-21.0)の増加です。トレンド(傾き)は総合内科設立後でやや下がる傾向がみられていますが、統計学的有意差はありませんでした。
なお、介入の効果はすぐに出るわけではないため、フェーズイン期間を1年間設定しています。

ちなみに、血液培養陽性率は総合内科設立前後で28.4%から10.8%へ減少し(The American Society of Microbiologyのガイドラインでは5-15%が適切とされている)、複数セットの血液培養採取の割合は総合内科設立前後で78.0%から91.7%へ増加しています。
採取数が増えたのみならず、適切な血液培養採取が行われるようになったことを示唆しています。

いかがでしたでしょうか。
私たちのワーキンググループは、日本からより良い病棟診療を提案し、普及することを目的として活動しています。今回ご紹介した研究は、医療の質改善活動が研究につながるITSAの手法を含め、とても参考になりましたし、総合内科設立と感染症診療への取り組みによって病院全体の診療の質が高まるという結果がみられたことはすばらしいと思いました。

文責:本田優希(聖隷浜松病院 総合診療内科)