食糧援助は飢餓問題解決に有効か  〜朝鮮民主主義人民共和国に対する食糧援助を事例とした考察〜


1. はじめに

 当記事では世界の飢餓と貧困の問題に大きな影響を与える食糧援助について現状の問題点を述べる。 
 また食糧援助の問題点を踏まえた上でより効果的に飢餓と貧困の問題を改善しうる食糧援助の在り方について提示する。
 当記事を通し、既存の食糧援助の問題点を明らかにし、飢餓と貧困の問題を本質的に解決しうる食糧援助の在り方を提示することを目指す。

2. 食糧援助の問題点

 現在の食糧援助には2つの問題がある。
 それは食糧の横流しと援助資金の流用である。前者は食糧援助を現物で実施した場合に見られる問題である。
 当記事では食糧援助の問題点を具体的に示していくために、朝鮮民主主義人民共和国を例として使用していく。

2.1 朝鮮民主主義人民共和国と食糧援助

 朝鮮民主主義人民共和国(以下北朝鮮と表記)の栄養状態は深刻である。
 国際連合世界食糧計画の2021年12月の資料によれば1,700万人の北朝鮮国民が栄養失調状態にあると報告されている。また発育不良の子どもは、全国民の18%であると報告されている。
 以上の深刻な栄養状態に鑑み、これまで国際連合世界食糧計画、アメリカ合衆国、大韓民国政府による食糧援助が行われてきた。
 しかし北朝鮮に対する食糧援助においては、食糧の横流しがたびたび指摘されている。
 例えばアメリカ合衆国議会調査局によるレポートでは、「複数の情報筋」を引用し、北朝鮮が食糧援助物資を民間市場での転売目的に横流しを行っていることを認めている
  また韓国のNGOの調査によれば、脱北者500人のうち78.2%が食糧援助を受け取ったことがないと回答している。更に、「受け取ったことがある」と回答した人のうち27.4%が食糧援助物資を「当局の指示に従い返納した」と回答している。
 以上、朝鮮民主主義人民共和国の例において明らかなように、食糧の現物援助においては「横流し」の問題が発生することが認められた。食糧援助物資の横流しには本来、必要とすべき層に食糧が行き渡らないという問題がある。この問題は、食糧援助の目的達成を害しており早急な対策が必要である。
 次に、援助資金の流用について見ていく。
 前述の食糧の「横流し」の問題を発生させないためには食糧を購入できる資金を提供すべきだという指摘があるだろう。
しかし、食糧援助において資金提供の形を取ることで現地の飢餓問題を解決することは困難であると評価する。

その理由として、資金流用の懸念が挙げられる。

北朝鮮については、資金援助により本来食糧購入費用に当てるべき金額を賄い、浮いた資金を他の用途に振り向ける「実質的流用」の懸念が指摘されている。

また、旧ザイールに対して行った支援では、流用が行われたことが確認されている。

以上の点から、食糧援助において資金提供の形をとることは、不適切であると言える。

3. より良い食糧援助の提案

   では、効果的な食糧援助はどのようなものなのか。

 筆者は、物資の流れが監視できる制度の下での現物支給が効果的であると考える。

 これまで見てきたように、食糧の現物支給には「横流し」の懸念が有る一方、資金提供と比較すれば効果的であると評価できる。

 よって、食糧援助にあたっては資金提供ではなく、現物支給の形式をとるべきだと言えよう。

 だが、「横流し」の危険性が高い現在の形式では現物支給による食糧援助は効果を上げにくい。

 「横流し」のリスクを低下させるには、食糧援助物資の流れを追うための仕組みづくりが必要である。

 具体的には、食糧援助物資を援助側が手渡しすることの徹底、官民一体となった形で援助国、地域に滞在し食糧援助の効果を調査していくことが挙げられる。

 更に以上の改善策を受け入れることを食糧援助の条件として、外交レベルで打ち出していくことにより、効果的な食糧援助が可能となろう。

 以上のような改善を食糧援助に加えることにより食糧援助は真に世界の飢餓問題解決に資する存在となるのではないだろうか。

4. まとめ

当記事では、世界の飢餓と貧困問題に大きな影響を与えている食糧援助が効果を上げていない現状を朝鮮民主主義人民共和国の例を元に明らかにした。

 更に、現状の問題点を踏まえた、より良い食糧援助の在り方と改善策を提示することができた。

参考文献


Congressional Research Service. (2012). Foreign Assistance to North Korea. Congressional Research Service.

FrantzConroy-Krutz and EricaJeffrey. (2017年12月). Theories of Democratic Change Phase II: Paths Away from Authoritarianism DRG Center Working Paper. 参照日: 2022年11月, 参照先: United States Agency for International Development: https://usaidlearninglab.org/sites/default/files/resource/files/drg_center_working_paper_-_msu_-_toc_01_18.pdf

WFP. (2021年12月). Democratic People's Republic of Korea. 参照日: 2022年11月, 参照先: World Food Programme: https://www.wfp.org/countries/democratic-peoples-republic-korea

エリカ・フランツ. (2021). 権威主義 独裁政治の歴史と変貌. 株式会社白水社.

石丸次郎. (日付不明). 「脆弱国家」北朝鮮への人道支援はどうあるべきか ~役立つ支援と有害な支援~. 参照日: 2022年11月, 参照先: https://www.kansai-u.ac.jp/Keiseiken/publication/seminar/asset/seminar14/s207_2.pdf


[1]World Food Programme. Democratic People's Republic of Korea
   
2022年11月12日アクセス
[2] Congressional Research Service. Foreign Assistance to North Korea
     https://pdf.usaid.gov/pdf_docs/pcaac459.pdf
        2022年11月12日アクセス
[3] 第207回産業セミナー 「脆弱国家」北朝鮮への人道支援はどうあるべきか ~役立つ支援と有害な支援~
      https://www.kansai-u.ac.jp/Keiseiken/publication/seminar/asset/seminar14/s207_2.pdf             2022年11月12日アクセス
 [4] United States Agency for International Development. Theories of Democratic Change Phase II: Paths Away from Authoritarianism DRG Center Working Paper https://usaidlearninglab.org/sites/default/files/resource/files/drg_center_working_paper_-_msu_-_toc_01_18.pdf

2022年11月12日アクセス












この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?