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イキミミ45




岡崎琢磨「下北沢インディーズ ライブハウスの名探偵 」、地味ながらも良作だった。
安定の実業之日本社文庫。

小6のころ、友人宅でその子の兄のものだというブルーハーツの1stを聞いて初期衝動をくらい、その後バンドブームやメロコア、グランジブームを通過して10代を過ごして、20代に入ってからはendzweckやenvy、numbを入口にハードコア一辺倒。
とにかく男くさく、怒りに満ちた音楽ばかり聴いていたように思う。
一言で言い表すならば、MAKE MENTION OF SIGHTの名曲、「emotion of my anger」といったところだ。


そんな感じだったから、世に流行するバンドは、せっかくのロックバンドなのに何でラブソングばかり歌ってるんだ?という感覚だった(そんな事はないけどよく知らなかったから容赦してほしい)。
いや別にラブソングも悪くないけど、もっと他のことも気になったりしねーのかな、そういうのもっと歌えばいいのに、と思ったりしていた。
しかし最近、サブスクなるものが出現して、その頃流行っていたメジャーなバンドを戯れに聞いてみたら、これが妙にスッと入ってくる。

なぜそう感じたのかは分からない。歳をとってオジサンになり、ずっと怒ってばかりいても前に進まないと悟ったのか。
そんなわけで今更ながらハスキングビーやペンパルス、ピロウズ、ストレイテナーに夢中である(果たしてこれらをメジャーとしていいのかは分からない。しかしワタクシとしては充分にメジャーなバンドだ)。

本書に登場するのは、かつての言い方で言えばそういったいわゆるロキノン系の雑誌やバンドのような気がなぜかしていて、読んでいる間ずっとソイツらを読んだり、聴いてみたりしたくて仕方なかった。

ちょっと前置きが長くなったけれども、本書はスタイルとしてはミステリでありながら殺人や大事件は起こらない。警察が介入するまでもないような、日常の中の小さな、ごくありふれた事件ばかりである。そして探偵役のライブハウス店長の推理の特徴としても、決して無理をしない、という感じである。しかしそこが何とも言えずいい味を出しているのである。
起きた事実のみを冷静に観察して、そこから普通に考えればこうなるのは自明の理だろ、というある意味クールで地に足のついたものの見かた。

主人公にクソダセェとディスられる店長のバンドの歌詞も、そんな人柄を表していると思う。
そう思えば全然悪くない。ライブ見たいよ。

最近はゾンビに囲まれた山荘での殺人だとか、霊媒師を装った探偵だとか、アクロバティックでド派手なものばかり続けて読んでいたのだけれども、本書は地味ながらも現実に身の周りに起きそうな話ばかりで、それが妙に新鮮で繰り返し読みたくなる。

いい意味で気をてらわず、「現実なんてこんなもんよ」といった良作だった。こういうの、たぶん創作するのはかえって難しいように思う。
文章も読みやすく、あっという間に読み進めてしまった。物足りない。是非ともシリーズ化してほしいものである。

耳鳴りをなんでもないものにして、早くライブハウス行きたいなあという話。

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