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料理で人を幸せにするということ

料理家の星野奈々子です。

最近、clubhouseでいろんな人のお話を伺う機会があり、自分のお仕事について、特に「料理で人を幸せにする」ということについて、どういうことなんだろうと考えるようになりました。

私のお仕事は誰かを幸せにしているのだろうか

料理が人を幸せにするってどういうことなのだろうか

日々考えていたときに、その答えを明確に伝えてくれる出来事がありました。


先日のこと。

2日後に大手企業様の撮影を控えて、大量の食材をネットスーパーで頼んでいたのですが注文した時間になってもなかなか届かず、履歴を確認してみたら注文ができていなかったことがわかりました。

最後の注文ボタンを押し忘れていたのか、
エラーが出ていたのに気付かずに閉じてしまっていたのだと思います。
普段の買い物であれば、まぁいいか、で終わるのですが撮影用の買い物だったため、品数は100品近く。
ネットで注文するだけで1時間もかかった上に、すでに19時ごろ。
今から頼んでもその日の配達には間に合わないし、次の日は朝からアシスタントさんと一緒にその食材を使った仕込みをしなければいけないという状況。


今から買い物に行っても大量の食材を持ち帰るのは大変だし、明日朝買いに行くとしたら、仕込みの開始時間を遅らせなくては・・と対策を考えて頭を抱えながら焦っていました。

そんなことは滅多にないので、私の様子が只事ではないように見えたのでしょう、8歳の息子がどうしたの?と聞いてきました。
事情を話すと、一生懸命に一緒に対策を考えてくれました。

「注文ができてなかったのは今から悩んでもしょうがないよね。撮影を延期してもらうのはどう??」と彼なりに考えて提案をしてくれるのですが

「撮影を延期するのはもう無理なの・・」と答えるしかなく。

「だったら今から急いでもう一回注文しようよ!」

と、勇気付けられ、もう一度ネットで注文して明日のいちばん早い時間に届けてもらうことに。
ですが、ちょうど夕飯どき。早く注文をしたいけれども注文するだけで1時間はかかりそうだし夕飯を先に作らなければ・・と思っていたら

「夕飯のことは気にしないで!ぼくが作っておくから!」
という頼もしい言葉。

あまり期待せずに、とりあえずもう少しご飯を待っていてもらえるとありがたい・・!と思って注文に集中していたのですが、その間に息子は冷蔵庫にあった豚こま切れ肉とパプリカ、トマトで得意の炒め煮を作ってくれました。

このくらいの分量だったらしょうゆって大さじ1くらいかな〜、みりんは大さじ2でいいかな〜と言いながら、あっという間にメインが完成。

残っていたスープ、副菜と冷凍ご飯を解凍し、その日の夕飯は完成し、私も無事にお仕事の注文を終わらせることができました。

息子の作ってくれた料理はとても美味しくて、じーんとするくらい温かくて、食べながら何度ありがとう、と呟いたことか。

小さい頃からずっと一緒に料理をしてはきましたが、基本的には私が隣りにいることが前提だったので、息子がひとりでも料理ができるようになっていることに驚きました。何より、大変なときに私を助けようと考えて、夕飯を作ってあげようという優しい気持ちに感動しました。

そして、料理で人を幸せにするって、こういうことなんだな、と思ったのです。

シェフになってたくさんのお客さまに美味しい料理を提供したり、料理家になってたくさんの人に見てもらえるレシピ本を出したりすることはもちろんたくさんの人の役に立っているし、たくさんの人を幸せにしていると思うのですが、目の前にいる大事な人に、一生懸命料理をつくって、それがその人に喜んでもらえたり、役に立てたりしたら、それで十分、料理で人を幸せにしていることになるのだと思います。

どこか遠くに答えを探さなくても、いちばん身近にそれを教えてくれる存在がいました。

わたしも壮大な夢を描かなくても、まずは目の前の人に向けて、幸せになれるような料理をしたいと思います。


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