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『インターネット的』と『ALLIANCE アライアンス―人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』

2015年に『ALLIANCE アライアンス―――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』の監訳をしました。

出版から2年たった今、この本の意味がますます高まっているのではないか、と知人が読書会を企画してくれました。読書会では、冒頭に少し話をしました。そこでお伝えしたのは、私がこの本を通じて感じたことや、日本の読者と共有したいことは、「監訳者による『少し長めの』まえがき」に書けた、ということ。そして、この本には出版から2年という期間だけでなく、もっと長期に意味を持っていること、です。

読書会にあたって本書を読み返しました。自分が書いたまえがきも、改めて読みました。細かい記述は意外に忘れていて、半ば他者が書いたものを読んだような感じがしました。
 まえがきの中で、特に好きな箇所があります。原稿にアドバイスをくれた人に「ふつう、本の前書きに別の本のことを書かないと思うけど」と指摘され、それでも削りたくなかった部分です。『ALLIANCE』が主張する新しい雇用関係が、これからの時代に合っていることの説明を試みている部分でもあります。読み返してみて、半ば他人が書いたかのように、「やっぱりここがいいなあ」と思ってしまいました。

そこで、まえがきの中から、その部分を抜粋してご紹介します。手元にある原稿からの抜粋で、編集者や校閲の手が入る前の段階のものですので、書籍とは多少の違いがあるかもしれません。

 本書では、仮にたった数年で転職していったとしても、会社と働くひとが「終身信頼」関係を築けることが、豊富な実例とともに論じられています。会社と個人の間に、フラットで互恵的な信頼に基づく「パートナーシップ」の関係を築こうよ、というのが本書の主張です。ここで描かれるパートナーシップのもとでは、事業の変革と個人の成長が同時に達成でき、会社も社員も満足度が高まります。退職することになっても、話し合いは建設的で、退職後も信頼関係が続きます。社外にいる仲間として情報交換したり、場合によっては外注先として、あるいは再び社員として、一緒に仕事をする可能性も生まれます。
 さて、『インターネット的』という本があります。私の現在の上司である糸井重里が2001年に上梓し、インターネット浸透後の社会のありようを的確に見通したことで、発売直後よりはむしろ近年に大きな注目を集めたロングセラーです。本の中では、インターネットがもたらす様々な変化の中でも注目すべきは「リンク」「フラット」「シェア」という三つの価値観であり、それらの価値観は、むしろインターネットの外にある社会全般にゆたかさをもたらす、と述べられています。
 端的にいえば、これからの社会において、人と人とは、インターネットがそうであるように、「リンク」し合い、「フラット」な関係を認め合いながら、互いに「シェア」していくことになるだろう、ということです。
 私は、本書が提言している会社と個人の関係は、まさに「インターネット的」だと思っています。信頼に基づき、会社と個人が互恵的で「フラット」な関係を結ぼうというコンセプト。今の経営者や社員も「卒業」した元社員も同じ信頼関係で網の目のように「リンク」し合う。そのネットワークの中で、社内外からの情報、任務の目標、個人の価値観や「なりたい姿」を「シェア」する。
 一方、古い価値観を保守する既存の会社はどうでしょう。組織の仕組みはヒエラルキー型で「フラット」の逆です。相互の関係もピラミッド型の構造のなかで規定され、網の目のような「リンク」型ではありません。情報は社内に溜め込まれ、社内においてもさらに上層部が囲い込みがちです。個人の価値観や「なりたい姿」は会社に持ち込まれることがなく、互いに「シェア」しないのが、むしろ美徳とされる傾向さえあります。
 こうした会社と個人の関係は、かつては社会の価値観に合致したものだったのでしょう。でも今は、インターネットの中では、ひとりの生活者もグローバルな大企業も、ツイッターやフェースブックの同じ一アカウントです。画面上では、大企業もフォローし合っている友だちと同じ大きさで表示され、同じ手軽さでコミュニケーションが取れます。生活者としての個人にとって、企業との関係は「インターネット的」であることが当然になりつつあります。これが働くひととしての個人と企業との関係に影響を及ぼさないはずがありません。本書に示された「パートナーシップ」関係は、これからの社会の価値観に合った雇用モデルです。

『ALLIANCE』の監訳をしながら『インターネット的』の理解が深まり、2つの本が補完しあっているように思えて、こんな文を書きました。


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