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ICUで「椅子をもってきてくれないか」

心臓の手術が終わり彼は
ICUのベットに横になっていた。
まだ目が覚めず執刀くださった先生が

輸血は白い方しかしていません。
これから出血がなかったら大丈夫。
何かあったら連絡する。
朝までに連絡がなかったら
今後10年心臓に関して問題は起こらない。
力強く言い切られた。

輸血の白い方の意味はわからなかったが
すごくうまく行ったよに聞こえた。
内科から外科の先生に切り替わり
内科の先生は厳しい見方だったと思う。
外科は全部繋ぐといってる…
がんばってと引き継がれての手術だった。

そもそも当初、内科の先生は
バイパス手術はできないと言っていた。
先端にダイアモンドを使った
石灰化した硬い血管内を削る
ロータブレーターという名前の器具で
カテーテルによる治療を目指したが
望んだ成果は得られなかった。

カテーテル後の翌日の説明では
何度も手技者を変えトライしましたが
血管がかたく…ステントはおけなかった。
バイパス手術については
血管が細すぎて無理だろう。
神の手とかどんな名医でも無理だろう。
心筋梗塞を起こせば一発です…との内容だった。

カテーテルがダメなら
バイパス手術をすると思っていたから
お医者さんが言う
どんな名医も無理だの言葉は重く
あきらめきれず後日、主治医の先生に
あらためてカテーテルで
チャレンジしていただけないかお願いした。

確かに2回目の方が確率はあがる。
だか、やみくもにはできない
前回より早く患部に到達する
なんらかのチップがなければできない。
他の先生方とも話さないといけないと仰って
検討してくださったが結論は
運動したり…今ある側副血行路は必ず育つ
その時を待とうとのことだった。

心筋梗塞を起こせば一発と言われる中
運動したりとは…せいぜい歩くことだろうか
彼は心臓の血管が何箇所もせまくなり
ひとつは100%塞がっていたが
本来ない血管が自然とできて
それを側副血行路と呼ぶらしく
そのおかげで血流は保たれ
心筋の壊死は全くなく
カテーテルもその側副血行路を通り
攻めていくやり方だと説明されていた。
だから運動して血管が太くなるのを
育つのを待とうと言われたのだと思う。

半年くらいして
ニトロを毎日のように
飲むようになっていた。
痛いとは絶対に言わない人だったが
1週間前に10錠はあったニトロが
気づけば残り2錠しかなかった。
その日は土曜日で、もし1日一錠なら
週明けでは間に合わない…
病院に電話して薬を取りに行きたいと話したら
診察をすすめられタクシーでかけつけた。
緊急入院となり1週間後には手術に至った。

緊急入院後はまず
検査のためのカテーテルが行われたが
検査室から出てきた先生に駆け寄ると
良くも悪くも踏ん切りがついたと仰った。

あらためて彼を含め別室で
今後の治療について説明を受けたが
できないと言われていた
バイパス手術を提案されたから質問した。
前はできないといったのになぜできるのか?
この病院で手術するのか?

状況が変わったからだ。
先生は声が大きくなり
血管か何かの名前をあげて説明されたが
頭には入って来なかった。

開けてもそのまま閉じるかもしれない…
望むなら別の病院に救急車で移動する。
それから再度検査して
手術するまでの時間的な余裕はない。
そう断言してから彼に
どうされますか?と聞き
彼は先生にお任せしますと答えた。

実は私は同じ病院の別の科の医師に
彼の心臓病についてご相談していた。
たまたま自分が前から診ていただいて
診察にいったついでに話していた。
その先生もそんな深刻な状況になると
おそらく思っていなかったから
詰まってるのが早めにわかって
良かったねと話しながら

サムライジャパンみたいな先生だよ。
無理するとかではなく
チャレンジングな先生だから
〇〇先生でカテーテルがだめなら
たぶん他ではできないよ。
心臓の手術は…〇〇先生も
うちでやろうとしないだろう
手術するなら、心臓ならどこどこに行け…

その〇〇先生が
ここで手術すると言ったのだから
深刻な状況なことがよりわかった。
また心臓を診てくださる科が
内科(カテーテル)と外科(バイパス手術)と
分かれていることもわかった。
引き継がれた外科の先生も
これまでの先生方同様に断言される方だった。

リハビリ含め日常生活に問題ないレベルまで
回復してからの退院です。
手術時間は2時間。心臓は止めずにやる。
心配なこと不安なことあれば
いつでも聞いてきなさい。お答えします。

断言することは勇気のいることだと思う。
責任を明確にし幅も広げてしまうかもしれない。
私はほぼ事務仕事しかしたことはないし
お医者さまのお仕事はわからないけれど
お会いしたどの先生も
ご自分の考えを明確にお話しくださり
彼がよく言っていたけれど
俺もお前もお医者さんや人に恵まれるね
その通りだったと今も感じている。

ICUのベッドにいる彼に
麻酔から覚めたら会いたいと思い
だいたい何時ごろには覚めると思うよと
お聞きしていたから、またICUへ行った。
ベッドに行ったら起きていた彼は
私の鼻を指先で触りほほえんだ。
どうした??泣いてと
言っているようだった。
自分の寝ているベッドを左手でたたき
ここに座れと言っているようだった。
動けずにいたら

「椅子をもってきてくれないか?」
彼は大きく声を出し周りにお願いした。
たくさんの管に繋がれて
心臓の手術が終わった彼は
まず私の座る場所を心配していた。

そういう人だった。
自分より人を優先する
つらいとき苦しい時も楽しいことも
わたしはできるだろうか?

最後までお読みくださりありがとうございます。また見ていただけるよう精進いたします!