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円谷プロからDMが来て焦る

 ぼくはウルトラセブンになった事がある。
 大学1年生の時。19歳。30分2ステージで、2万円も貰えた。着て行ったTシャツは赤く染まってダメになってしまったが、最高の思い出になった。
 このアルバイトを紹介してくれたのは、落研OBの俳優 きくち英一さんだった。『帰ってきたウルトラマン』のスーツアクターと知られ、代演でウルトラセブンを演じられたこともある。サークルの大先輩だ。
 ぼくは、きくちさんに連れられ円谷プロに行き、ウルトラセブンに変身させてもらった。その際にきくちさんが撮影した「変身途中のぼくの写真」がいくつもあり、宝物になっている。
 今年、そんな思い出話をするタイミングが来た。
 『ウルトラセブン』で強敵キングジョーとの死闘が行われた場所は、今も京都にある「国立京都国際会館」で、名建築として知られている。『新美の巨人たち』のディレクターであるぼくは、この建物の特集を企画した。(番組は2021年5月に無事放送された。
 なんと言っても、キングジョー戦のセブンは、代演できくち英一さんが演じている。これにも縁を感じていた。
 ぼくはTwitterで、ここまで書いたようなことを呟き、セブンに変身中の自分の写真を載せた。これにはいつも以上に「いいね!」がついた。
 そんな折。
 フォローもフォロワーもいない怪しいアカウントからDMが届いた。なんと円谷プロの権利担当者さんだった。単刀直入に言うと「削除して」とのお願いだった。
 20年前の写真とはいえ、確かに「変身途中」の写真が出回るのは良くないだろう。あることを思い出して、素直に従った。
 ぼくがセブンに変身して登壇した時だ。
 ポーズをとったり、行列をつくる子供たちと握手をしたりしたのだが、その中でひとり、泣いている子がいたのだ。
 ほとんどが小学生だったので、体の大きいその子は目立った。中学生くらいに見えた。付き添っている大人がいたので、おそらく知的障がいを持つ子だったと思われた。
 その子が、「会えた、会えた」と言って、泣いているのだ。
 涙を流して、ぼくに握手を求めている。いや、ぼくじゃない。セブンにだ。若干動揺したが、ぼくはウルトラセブンとして精一杯の握手をし、胸を張って記念写真に応じた。
 ぼくが今もこの日の思い出を引きずっているように、彼もまた、あの日出会ったウルトラセブンを強く心に刻んでいるに違いない。
 よそう、夢を壊しちゃいけない。
 変身途中のぼくが世に出回っていいはずがなかった。

和 セブン


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