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【音楽雑文】全世代に届け!「青と踊れ」はRhythmic Toy Worldが放つ“心が動きだす”アンセムだ

Rhythmic Toy Worldが新曲「青と踊れ」を発表した。高校ダンス部とコラボしたMV、という一報に、まさかリズミックが…と一抹の不安を覚えた自分を恥じたい。

少し前、最近のダンスブームに乗っかるようなかたちで、某国民的音楽番組が高校ダンス部とコラボして様々な楽曲のダンス映像をやたら放映していた時期があった。中には安易とも思える企画もあり、この枠組みの中にリズミックも加わってしまうのか、と思ってしまったのだ。

その懸念は、MV制作の裏側を追ったテレビ朝日系『musicるTV』番組内コーナーやリズミックが所属するSTROKE RECORDSのYouTube動画を見てすぐに払しょくされた。

事の経緯としては、京都文教中高ダンス部からリズミック宛に送られてきた一本の動画が発端だ。そこには、リズミックの曲に合わせて踊る生徒たちの姿が映し出されている。ダンス部顧問の矢下先生はリズミックのVo/Gtである内田直孝と高校時代の同級生。コロナ禍で発表の場を失ってしまった生徒たちのために、リズミックの曲を使ってダンスする映像を制作したのだ。

これを受けて、物語が動き出す。せっかくなら既存曲でのダンス動画ではなく、リズミックとして文教中高ダンス部のために新曲を書き下ろし、一緒にMVを作ろうと提案したのだ。

このプロジェクトは生徒達にサプライズで発表され、教室は拍手喝采に包まれる。MVでは主役を立てるとのことで、オーディションも開催された。中学生でも高校生でも、学年に関係なく、我こそはと思う者は主役オーディションに挑むことができた。

最終的な主役オーディション参加者は27名。「青と踊れ」についてそれぞれが自分なりの解釈をして、緊張の中ダンスを表現する。中学1年生でも果敢に挑んでいく生徒がいた。選ばれるかどうかより、挑戦したという経験にこそ価値があると思わせてくれる映像だ。最終候補として高校3年の吉田さんと河上さんのふたりに絞られ、河上さんが主役の座を掴む。

ドキュメンタリー映像では、河上さんの、MVの主役をひとりで務めることへのプレッシャーと闘いながら試行錯誤する様子や、吉田さんの、選ばれなかった悔しさと責任を背負いながら主役に挑む河上さんへの想いなども描かれていく。

このふたりだけでなく、MVに参加した85人の部員たちそれぞれの豊かな表情を捉えた映像からは、この企画にかけるまっすぐな気持ちが伝わってきた。また、赤裸々に本音を語る部員たちの姿を見て、すぐに彼ら彼女らに溶け込んだと思われる映像スタッフにも驚かされる。

ドキュメンタリーでは、さらにいくつかのサプライズもありつつ、素晴らしいMVが完成するまでを追いかけている。生徒たちの表情や言葉、部員同士のコミュニケーション、そのすべてが眩しく、キラキラと輝いていた。

これは、バンドとダンス部のコラボであり、楽曲と映像とダンスのミックスでもありながら、最終的には縁によって結ばれた人と人が作り出したひとつの物語であると感じた。「コラボしたら面白そう」「話題になるかも」という発想よりも先に「誰かのために何かをしたい」という気持ちから生まれたものだ。コロナ禍で思うように活動できない生徒のために、矢下先生が動き、その気持ちに応えたリズミックが動く。そして両者の気持ちを受け取った生徒たちが、全力で踊る。

もしかしたらあなたの人生を動かすかもしれない、とびきり眩しい映像をぜひ見てほしい。

思い返せば、Rhythmic Toy Worldというバンドは、いつもそうだった。彼らは人を大事にする。人との出会いを、縁を大事にする。そこから生まれた「想い」が巡っていく。

当時のバンドのポジションを考えると異例ともいえるメジャーCMのタイアップも、相手方の中の人がファンだったから、という話がある。『弱虫ペダル』の主題歌となった「僕の声」では、フィギュアスケートの羽生結弦選手が競技直前にイヤホンで聴きながら口ずさむ様子がテレビで流れ、話題になった。

バンドや事務所として様々な戦略をもってバンドを、曲を売りだしていくのは当然として、しかし先に挙げた例では戦略の外で、バンドや曲に共感した人が介在して曲が世に広まっていった。

メジャーレーベルとの契約終了時、その理由は「自分たちの音楽を売ってくれる人達の顔が見えないから」だった。Rhythmic Toy Worldの音楽を売るため、広めるために動いてくれていたスタッフに感謝をしながらも、誰が何をしてくれているのかがわからない中での活動に違和感があったのだろう。

長年苦楽を共にしたドラムの磯村貴宏がバンドを卒業し、代わりに佐藤ユウスケがサポートドラムとして加わり、バンドは引き続き活動を止めることなく続いている。また、磯村の卒業自体「永遠の活動休止」と称し、節目のタイミングではスポットでドラムを叩くこともある。彼が卒業するタイミングで発表された「フレフレ」のMVは、磯村を気持ちよく送り出そうというバンドからのメッセージが伝わってくる映像となっている。

Rhythmic Toy Worldが所属する事務所は「Teamぶっちぎり」という名前だが、もはやこの名称は事務所だけでなく、バンドを支えるスタッフやファンもひっくるめたものになっている。

マネジメントはアーティストの人生を背負っている、という言葉を聞いたことがあったが、Rhythmic Toy Worldのまわりにいるスタッフたちの姿を見て、本当にそういう世界が存在するんだということを実感した。現マネージャーは、かつてリズミックのライブに足を運んでいたファンである。事務所の誰かが担当を割り振られたわけではない。ここにも「人」と「想い」が存在する。

「青と踊れ」にはこんな歌詞がある。

今キミが生きている時間が
人生の数%でも
その景色はその全ては
「もう一度」なんて無いから

恥ずかしさも悔しさも
不器用に蹴り飛ばして行け
下手くそくらいが丁度良い
行け行け行け

Rhythmic Toy World「青と踊れ」より

10代の若者が躍動する、輝かしい青春真っただ中の映像を前にして、年齢を重ねた者はかつての青の時代を懐かしんで感傷的になったり、あるいは手に入れられなかったキラキラな時間を思って過去を悔いたりするかもしれない。

しかし、思春期はとっくに過ぎたとしても、人生はいつだってあなたの心が動くのを待っている。心さえ動いてしまえば、何歳だとしてもそれは立派な「青春」。

今からでも遅くはない。恥ずかしさも悔しさも、不器用に蹴り飛ばして飛び込んでいこう。

「青と踊れ」は今まさに何かに夢中な若者から、青春を思い出の中にしまっている、あるいは輝くような十代を過ごせなかった大人まで全世代に送る、Rhythmic Toy Worldからの「心が動きだす」きっかけを与えてくれる新たなアンセムだ。内田直孝の歌声も、今までの楽曲と比べてより開けた、スケール感を帯びたものになっている。

眩しさを力に変えて、さあ、今すぐ青と踊ろう。


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