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内定辞退まとめ

先日Twitterで内定辞退について書くとそこそこウケました。

人生において内定辞退をした経験がある就活生はほとんどいないと思うので、皆さん悩んでいるのだと思います。そこで、この記事では内定辞退について確定していることを、より詳細に記載していきたいと思います。
結論から言うと、入社2週間前までにメール等で辞退連絡をすればOKです。それでも不安だからもっと詳しい理屈を知りたいという人向けの記事です。

前提

  • 日本は法治国家です。法律上許されていることであれば、基本的に何をしてもいいです。

  • 外資企業であっても、外国法人であっても、日本で活動している以上は日本の法律が適用されます。

  • 法律以外の問題、すなわち感情の問題については、「個人による」としか言いようがないです。なので、この記事では感情論については基本的に記載しません。個人的には相手の感情を尊重することは生きる上で重要だと思いますが、他人の感情を守るために自分の人生を捧げる必要はないとも考えています。

  • 内定辞退はほとんどの企業で起こりえるもので、それを想定して準備するのも人事担当者の仕事です。内定承諾書を提出した後の辞退や、入社直前期になっての辞退も、毎年複数人います。一方で、新卒に内定辞退されたので会社が潰れたという事例を、少なくとも私は知りません。

内定の法的性質

  • 「内定」を定義した法律はありません。しかし、下記の判例で、内定により労働契約が成立するとの最高裁判決がでています。

企業の求人募集に対する大学卒業予定者の応募は労働契約の申込であり、これに対する企業の採用内定通知は右申込に対する承諾であつて、誓約書の提出とあいまつて、これにより、大学卒業予定者と企業との間に、就労の始期を大学卒業の直後とし、それまでの間誓約書記載の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したものと認めるのが相当である。

大日本印刷採用内定取消事件(昭和54年7月20日判決)
  • ここでいう労働契約は、民法623条で定義されています。

雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。

民法623条
  • 「約し」と記載されているので、いわゆる諾成契約です。約束をした時点で契約が発生するので、双方の意思表示さえされていれば、口頭でも書面でもメールでも成立します。多くの場合、内定承諾書にサインをした時点で、雇用契約が発生しています。

  • なお余談かつ当たり前の話ですが、内定状態では給料が発生しませんし、働かされることもありません。これは、内定が民法135条1項で定める始期付き契約だからです。

法律行為に始期を付したときは、その法律行為の履行は、期限が到来するまで、これを請求することができない。

民法135条1項
  • 次に、労働契約については、民法627条1項で「いつでも解約の申し入れをすることができる」と明記されています。そして、ここに相手方の承諾は必要ありません。

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

民法627条1項
  • 解約の申し入れをして2週間で雇用契約が終了するということは、申し入れをした後も2週間は雇用契約が続くということです。例えば3月24日に雇用契約の解約の申し入れ、すなわち内定辞退を連絡したとしても、4月の7日までは雇用契約が続いているので、4月1日から4月7日までは働かないといけないということです。

  • これをわかりやすく言い換えると、入社2週間前までに内定辞退すれば、1日も働かなくてよいということになります。これが法律上の結論です。

内定承諾書の効果

  • 内定承諾書には、「他社の選考を受けない」、「辞退せずに必ず入社する」などと記載されている場合があります。結論から言うと、これらは何の法律上の効果も持たない、ただのインクの染みです。無視して問題ありません。

  • そもそも日本国憲法22条1項で、全ての日本国民に職業選択の自由が保障されています。憲法で定められた人権は、「公共の福祉に反しない限り」制限されません。そして、一民間企業の内定辞退すること程度では、公共の福祉に反したとは到底言えません。

何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

憲法22条1項
  • 法律に詳しい人は、憲法は国を縛るものであり民間企業に適用されないのではないかと思うかもしれませんが、それは違います。民間人同士の関係であっても、民法90条を介して憲法が適用されます。民法90条をざっくりいうと、憲法に反するような行為は公序良俗に反するので無効という意味です。

公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

民法90条
  • こういう風に、憲法の規定を民法90条を介して民間人にも適用するという解釈は、過去に多数の判例で用いられています。下記に1つだけピックアップして引用しておきます。

私的支配関係においては、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害またはそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるときは、これに対する立法措置によつてその是正を図ることが可能であるし、また、場合によっては、私的自治に対する一般的制限規定である民法1条、90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって、一面で私的自治の原則を尊重しながら、他面で社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存するのである。

三菱樹脂事件(昭和48年12月12日判決)
  • 以上のように、内定承諾書のうち、憲法に違反する部分については民法90条によって無効なので、たとえ内定承諾書に「他社の選考を受けない」、「辞退せずに必ず入社する」などと書いてあってもその記載は意味を持ちません。よって、内定承諾書にサインをした場合であっても、入社2週間前までに辞退する旨を伝えれば、内定辞退は可能です。

よくある質問

内定辞退の方法

  • 法律界隈では当たり前すぎてちょうどよく明文化された判例を探すことができなかったのですが、基本的にあらゆる契約は口頭でも成立しますし、解除できます。一部例外がありますが、その場合は必ず法律に明記されています。そして、労働契約にはそのような明文化された法律がないので、結論として、内定は口頭で合法的に辞退できます。

  • ただし、口頭だと言った言わない問題になり、裁判になった時に言った証拠を提示できなければ事実として認められないリスクがあります。したがって、メールや書面などで通知することをおすすめします。

内々定

  • 「内々定」とは、将来内定が出ることが約束された状態であり、新卒の場合、10月1日に内定を出すまでは内々定状態であることが多いです。内定との大きな違いは、労働契約が成立していないことです

  • ここまで書いてきたように、内定ですら入社2週間前までに求職者から一方的に辞退できるのですから、それの前段階である内々定においても、当然、一方的に辞退することが可能です。

エージェント

  • エージェント等を介して内定が出た場合であってもこの記事の内容が適用されます。エージェントとの契約において、「内定辞退をしない」などという文言が契約書に記載されていたとしても、これも憲法22条1項や民法90条違反なので無視してOKです。

  • ちなみに、辞退者が発生するとエージェントは企業の担当者から怒られることがあります。なので、優秀なエージェントであればそのリスクを事前に予測し、「必ず入社させる」などの約束を企業としません。

新卒以外

  • 既卒者や転職者、非正規雇用からの登用者であっても、新卒の就職活動と全く同じです。すなわち、入社2週間前までなら一方的に辞退することが可能です。

内定取り消し

  • 「入社2週間前までであれば企業側から一方的に内定取り消しもできるのでは?」と思うかもしれませんが、それは違います。

  • なぜなら、内定の時点で労働契約が発生しているからです。そして、詳細は省きますが、日本では企業側から一方的に労働契約を解除すること、すなわち解雇が難しいです。

内々定取り消し

  • 内々定の状態では労働契約が成立していませんから、企業側から一方的に取り消すことも可能です。ただし、ネットで晒されるなど社会的制裁を受けやすいので、企業としては通常行いません。

  • また、近年の社会情勢的に内定と内々定の境目が曖昧になってきているため、新たな判例ができる余地は十分にあります。

あとがき

この記事で紹介したのはあくまでも法律論です。人事担当者の1人としては、できれば内定辞退は早めに教えて欲しいと思っています。別に土下座する勢いで謝る必要はないのですが、一般的な社交辞令や常識として、それなりに丁寧に謝っておいた方が無難に物事が進むことが多いとも思います。

一方で、現在の就職活動の仕組み的に、内定辞退は当然起こり得るものです。求職者側に責任は全くありません。
また、どの企業で働くかという問題は、人の一生を決める問題です。企業にとっては何人もいる従業員のうちの1人の問題でも、求職者にとっては全て自分で責任を負わないといけない個人の人生の問題です。まずは自分の人生を第一に考えることを、私は強くおすすめします。

できればトラブルに見舞われないことを祈っていますが、いざという時にこの記事を思い出していただけると嬉しいです。
これからも応援しています。最後まで読んでいただきありがとうございました。

ほしの

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