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何を伝えたいのですか?

なかなか進まない、ひらめかない、答えが出にくい宿題を抱えていました。私の作品を読んでくれたある人から問いかけられて、ずっと考えていました。いまも、考え続けていますが。

「小説を通じて、読者に何を伝えたいのですか?」

作家さんによって、答えは無数にあると思うのです。読者をわくわくさせたい、とか、仕事をすることは尊い、だとか、因果応報だとか、恋をしてドキドキする気持ちを味わってほしい、だとか。

一方で、書き上げた小説が何を伝えたかったかは、読み返してみると自分で手に取るようにわかりました。

デビュー作「金沢 洋食屋ななかまど物語」(PHP文芸文庫)で、もちろん読者が何を感じてもらうかはまったくもって自由なのですが、作者が伝えたかったことはおそらく、こういう思いでした。

「自分の心に嘘をつかないこと」
「自分に正直に生きること」

恋愛と夢を追うことがテーマの本作ですが、根本の書いた動機みたいなものは、上記ふたつの想いを伝えたかったから、ではないかと思いました。

私は社会人になりたてのころに、本当にやりたいと望んでいること(=創作すること)に自信がなさ過ぎた結果、無理やりその気持ちを押し込め、封印しようとしたことをきっかけに、体も心も大きく壊した苦い経験があります。

その後遺症がだいぶ続き、二十代のころは大好きだった読書がまったくもってかなわなくなり、服薬して何もできず、ぐったりして寝ていることしかできない日々は、本当につらかったです。二十代のほとんどを、棒に振ったようなものでした。

そこから、心のなかで「やりたい」と強く思いを抱えているものは、下手な自分と向きあうのがつらくても、実行していったほうがいいと思うようになったんです。でないと、身体はとても正直だから心身に不調をきたします。

あと、創作しているうちに、他人軸での評価を気にしすぎてしまうと、他人軸はそもそも「自分では評価基準をコントロールできないもの」なので病むな、と(あくまで私の場合ですが)思うこともありました。

よく「比べるなら昨日の自分」と言いますが、目標は「自分でコントロールできるもの」に決めると、私の場合メンタルが安定する気がしました。それは具体的に「今日この作業をやる」とか決めることですね。

もちろん、私の創作上達の歩みが、亀並みに遅いことは事実ではあるのですが、それでも、心からやりたい創作を手放そうと思わなくなったことで、また人のレベルと比べることをやめたことで、ものづくりライフはだいぶ楽しくなった気がします。

で、冒頭の質問に戻るのですが。

「小説を通じて、読者に何を伝えたいのですか?」

についての、一時的な、現時点での答えではあるのですがいったん回答します。

「読者が、生きることが少しだけラクになる小説を書きたい。息がしやすくなるような考え方を作品に込めたい」

っていうことなのではないかと、結論づけました。

誰しも、自分を縛るような、頑なな思い込みって、おそらくあって。その思い込みのなかでは、すごく苦しいときってあるのですよね。そんなときに、ふっと別の角度から物事を観たら、ちょっと考え方が変わって肩の力が抜けたみたいなことがあると思うんです。

思い込みを変えられるのって、私、読書によってきたところが大きいです。本がなかったら、もっともっと苦しい子ども時代を送っていたし、大人になってから、つまづいたとき、嫌な思いをしたとき、大きなダメージの結果立ち上がれなかったかもしれない。

でも、物事を一面からだけでなく、ほかの角度から見ることを覚えたら。

もう手あかがついた言葉ですが「ピンチはチャンス」とかもありますよね。これは、発想の転換が起きている言葉だと思うのです。どんなに追い詰められたときでも、起こっている事実は変えられないので、できるのはその事実の観方を変えることだけなのだと思うのです。

以前、根本昌夫先生の「【実践】小説教室―伝える、揺さぶる基本メソッド」を読んでおりまして、このようなくだりが心に残りました。

(前略)そうした成り立ちからも、小説とは単なる架空のお話ではなく、物語と哲学が融合したものであることがわかります。ではなぜ、小説の書き手は、「自分とは何か」「人はどこから来てどこへ行くのか」「人はいかに生きるべきか」に対する答えを、わざわざ物語に乗せて伝えるのでしょうか。それは、直接的な言葉で答えを提示するよりも、物語に乗せたほうが、かえって読者の心にしみ込むからなのです。(本文より)

小説って、ただ物語があるだけなんじゃなくて、自身の哲学みたいなものを、物語にしのばせられるかなのだな、と深く実感した一冊でした。

「小説を通じて、読者に何を伝えたいのですか?」

この問いに、作品で答えていけるように、頑張らなければなあと思いながら、このnoteをつづりました。

問いの答え、ほかの方の回答も知りたいなと思いつつ、推測するのも楽しいなと思ったりするこの頃です。





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