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「女神と少女」<note版➀>

(2作品目の長い小説です。まだどんなお話になるか私も良くわかりません。)

序章 「母は、女優で少女」

6時30分。花子の1日は毎朝同じ時間から始まる。
目覚ましをかけてはいるが、携帯のアラーム音が鳴る直前に自然と意識が覚醒する。
リビングに行くとカーテンの隙間から春の日差しが漏れていた。カーテンを開けると、外に出ないのがまるで罪だと言わんばかりの晴れた朝だった。

電子ポットに水をいれてスイッチをオンにする。そして、インスタントコーヒーを巨大マグにセットしてから、ヨーグルトにグラノーラをふりかけ、トーストを焼く。
手際よく朝の準備をしながら携帯を確認すると、美花のマネージャーの米田さんからメールがきていた。米田さんは毎朝、花子にスケジュールを教えてくれる。
電子ポットのスイッチがカチッという音を立ててお湯が湧いたことを教えてくれた。
その合図を聞いて花子は少し気合いを入れる。ここからが、朝一番の大仕事だ。

“Leave Me Alone!”と書かれたプレートが飾られているドアを勢いよく開けると、カーテンを全開に開き、花子はほぼ裸で寝ている美花の上に乗った。

「起きて。」
「……無理。起きたら死んじゃう。」
「大丈夫、死なないから、起きて。」
「……やだ。」
「コーヒーいれたよ?いい天気だよ?」
「……。」
「無視ですか?……いい加減に起きないと、私ぐれるよ?髪とか金髪にして彼氏とか3人くらい作って渋谷で有名な女王とかになっちゃうよ?」
「……すみません。起きます。」
ノロノロと起き上がった下着姿の美花に薄いガウンを着させて、ダイニングの椅子に座らせた。

まだ半分夢の中にいる美花に花子がコーヒーを差し出す。

「……ありがとうございます。」
「うん。今日は9時に米さんが迎えにくるから、それまでに用意しておいてね。あと、私今日部活だから帰ってくるの美花さんと同じくらいかも。」
「……9時に米ちゃん。花さんは部活で遅い。…了解です。」

朝一番の大仕事を無事に終えてから、花子は学校へ行く用意をする。
美花はその間ずっとコーヒーを味わいながら何とか目を開けようと戦っている。
「じゃぁ、行って来ます。」
靴を履いていると美花がトテトテやって来た。
「花さん、行ってらっしゃい。気をつけてね〜頑張ってね〜」
「美花さんこそ、気をつけて、頑張ってね。あと、ドア開けらんないから部屋に戻ってくれる?」
「は〜い。」
下着にガウンを羽織りコーヒーを持った美花は、花子に言われた通りにまたトテトテ音を立てて、リビングに戻って行った。

マンションのエントランスで、幼馴染の美奈が珍しく花子を待っていた。いつもは花子が美奈を待つのに。
「おはよ!花、遅いよ〜」
「おはよう。遅くはないよ、美奈が早いんだよ。どうしたの?」
「そっか!(笑)昨日の夜さ、大興奮しちゃって、超早く起きちゃった!」
「へ〜。なんで?」
「はっ?昨日の”めがキス”観なかったの?カンちゃん超カッコよかったじゃん!やばい。思い出してまた興奮する。」
「あ〜、観たよ。うん。カッコよかったね。」
「はぁ〜、花はホントに冷めてんね?美花さんとカンちゃんの話とかしないわけ?てか、カンちゃんとキスとか!もうっめっちゃ羨ましすぎて死にそう!」
「あんましないかな〜。てか、自分の母親のキスシーンとか気持ち悪いよ。」
「そっかな〜全然気持ち悪くなかったけど、てか、めっちゃ萌えたけど!あっでも、うちのママとパパのキスとか想像するだけで吐きそうだわ!ははは」

美奈にはそう言ったが、本当は花子も興奮した。エキサイティングというダンスグループのリーダーをしているアイドルの神田真斗、通称”カンちゃん”は花子が大好きな芸能人だったから、美花とのキスシーンは複雑だったけど、今朝も美花の唇を見るたびにドラマのキスシーンを思い出してしまい赤くなる顔をごまかしていた。
美花が主演するドラマ”女神のキス”は、カンちゃん始め多くのイケメン俳優やアイドルが出演しているので、“めがキス”と呼ばれ、中高生の女子に人気を集めている。

“今日も学校に行ったらクラスメイトから質問責めに遭うんだろうな。熱狂的なカンちゃんファンの子からの嫌がらせも覚悟しなきゃな。私がキスをした訳でもないのに。”

花子は心の中でため息をついた。

駅のホームで新しい携帯電話の宣伝ポスターが花子の目についた。新機種を持って花子を見つめる美花を心底美しいと思った。
多分まだあの格好のまま、リビングで睡魔と戦っている美花とはまるで別人だ。
ポスターの美花に見送られながら、けたたましいブザーと共に花子を乗せた電車が発車した。

美花は女優で、少女のような大人で、花子の母だ。


2話へ続く

山形県に住んでいる小学4年生です。小説や漫画を読むのが好きで、1年生の頃からメモ帳に短い物語を書いてきました。今はお母さんのお古のパソコンを使って長い小説「皐月と美月の夏。」を書いています。サポートしていただいたお金は、ブックオフでたくさん小説を買って読みたいです。