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【EarthBound Halloween Hack】ストーリーの紹介

この記事では、「EarthBound Halloween Hack」こと「EBHH」の作品概要と、ストーリーについてまとめていきます。ただし、物語の本筋に関わらない部分はある程度省略してあります。

また、DeepL翻訳頼りの独自解釈を元に、ファンサイト等の情報を照らし合わせて内容を擦り合わせたものなので、誤訳や文脈の読み違いがあるかもしれない事を留意してもらえるとありがたいです。

※注意事項
EBHHはその内容上、原作であるMOTHER2の作風からはかけ離れたものとなっています。ホラー、グロテスクな表現が含まれます。
また、ネスたちやアンドーナッツ博士関連など、特別な思い入れのある人にとっては辛い展開や設定が出てくるかと思います。
嫌な予感がしたらすぐに読むのをやめる事をおすすめします。

なお、記事内で使用しているスクリーンショットは、Toby氏によるメイキングページである「THEMAKINGOF」、かつてのToby氏のホームページである「radiation.fobby.net」からの転載です。実際のゲーム画面を用意する方法がなかったため、苦肉の策です。申し訳ありません。

それから、本題に入る前にまずEBHHという作品の概要について説明したいと思います。

「EarthBound Halloween Hack」とは?

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「EarthBound Halloween Hack」は、かつて任天堂から発売されたゲームである「MOTHER2ギーグの逆襲」を元にしたROMハック作品です。俗に言う改造ゲーの一種であり、二次創作の一種でもあります。

この作品は、誰も倒さなくていいRPGとして有名な「UNDERTALE」の作者であるToby Fox氏(以下Toby氏)が高校生の時に制作しました。
また、当時は「Radiation」の名義で活動していたため、「Radiation Halloween Hack」とも呼ばれています。この記事では「EBHH」の略称で呼んでいます。

当時のToby氏は「Starman.Net」というMOTHER2のファンサイトで活動していて、EBHHは、そのサイトの「Halloween Funfest」のイベントに合わせて2008年に制作されました。

ハロウィンのイベントに合わせた事もあり、物語はギーグが倒されてから数か月後、ハロウィンを迎えたツーソンが舞台となり、ハロウィンにちなんだお菓子のアイテムが出て来ます。作品の傾向も全体的にホラーな雰囲気で、ショッキングなシーンが多数存在します。
ストーリーのあらすじも、原作のMOTHER2のクライマックスでネスたちが過去の最低国に向かった後、元の世界に戻ってこなかったIFという、陰鬱な内容を想像させるものです。

他に特筆すべき点は、やはりUNDERTALEで人気の楽曲「MEGALOVANIA」の元となった「Megalovania」でしょう。
EBHHで初めて使用された後、ウェブコミック「Homestuck」など様々な作品でアレンジを施されて何度も使用されてきました。
とはいえ、MEGALOVANIAについて話し始めると別個に記事がもう一つ書けるくらいの情報量になるので…ひとまず、作品についての話はこのくらいにしておきます。

ストーリーの紹介

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プロローグ~ウィンターズ

EBHHのストーリーは、199X年の秋……ギーグが倒されて数か月後のツーソンから開始します。と思いきや、ゲーム画面は何故かネスの家で眠るVarikの姿を映します。
轟音で目を覚ましたVarikが廊下に出ると、ゲームのナレーターによって叱責されました。曰く、お前はどこにいても夢を見るな。大体、お前がここにいるのはおかしい。ふざけるな、早く出ていけ。
そこでVarikは目が覚めました。どうやら、ツーソンのカオス劇場でショーの真っ最中に居眠りをしていたようです。

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Varikは自分を起こしてくれた相手から、元オネット市長のG.H.ピカールに呼び出されている事を教えてもらい、彼の下へ向かいます。
ピカールは、Varikは街のみんなから慕われる「ヒーロー」だと見込んで、ある事件の話をしました。
凶悪なモンスターが民家に忍び込み、そこに住む少女の両親が惨殺された事件。そのモンスターは、下水道を経由してウィンターズからやってきたといいます。そして、下水道からウィンターズに向かいモンスターを殺すように命令します。
さもなくば、罪もない人々の中からさらなる犠牲が出かねないから、と。

Varikはピカールに言われた通りにツーソンの下水道に向かいます。当初は普通のダンジョンに見えましたが、奥の扉を通った直後から、不気味で凄惨な光景へと変貌していきます。四方は暗い紫に囲まれ、水は赤く濁っている。
登場する敵キャラもかなり悪趣味なデザインになります。

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そこからさらに足を進めてウィンターズに辿り着きましたが、そこもまた、本来のウィンターズとは似ても似つかない異常な環境へと様変わりしていました。体が崩壊したギーグの残党、凶暴化したゾンビたち、傷だらけで逃げ回る人々、澱みきった湖。
ナレーターにさえ“運命の地(land of doom)”と呼ばれる状況で、それでもVarikは前に進みます。

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奥地に存在していた研究所、その扉の前に立っただけでVarikはその中にいる「真の怪物、倒すべき悪」の気配を察してしまい、動揺を隠せません。
しかし、一見支離滅裂な文面のナレーターが言うには、それでもVarikには前に進もうとする力強さ…“不思議な力”を持っているようです。

研究所~マジカント「イヴの海」

Varikが研究所に足を踏み入れると、そこには明らかに様子のおかしい老人がいました。その老人は「アンドーナッツ博士」と名乗り「息子のジェフを殺してしまった」「罪を犯したわたしを罰するため、殺すために賞金稼ぎであるVarikがやってきた」と言って怯えています。

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それから博士は、人の心が反映された世界「マジカント」を人工的に生み出す事が出来る機械を発明した、と語りました。その機械で作った自らのマジカントの中で安らかに過ごしたい、だから自分の事は放っておいてくれと言って、そのままどこかへと行ってしまいます。

博士を探して研究所の奥に進むと、博士が言っていたものであろう機械が置いてありました。そこでVarikは、その中に入っている怪物……
……博士を殺すか、殺さないかという選択を迫られます。

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“Press the B Button, Stupid!”
「Bボタンを押せよ、バカ!」のスラングで有名な場面です。

Yesを選ぶと、確かに博士を殺す事は出来ますが、その後何故かVarikの両手足が切り飛ばされ、心を失って死亡。そのまま終わりになってしまいます。
もう一つの選択肢は空白になっていて、そちらを選んでも「それは選択肢ではない」と言われてやっぱり先には進めません。
正解は「Bボタンを押してキャンセルする」。選択する事自体を拒否するのです。

Varikが博士を殺す事を拒否すると、視界がホワイトアウトし、気が付くと博士のマジカントの中にいました。この世界から抜け出すためには博士の心に潜む「悪魔」を倒して「勇気」を見つけ出す必要があると、マジカントの住人に教えられます。

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Varikはマジカントを探索する中で、博士のトラウマとおぼしき光景を目の当たりにします。
誤解とすれ違いから妻と不仲になっても、"本心"を打ち明けられないまま死に別れた。自分のような怪物になってほしくないと息子を遠ざけ、10年ぶりに再会しても不器用なやりとりしか出来なかった。そして自分の発明が、結果的に息子と息子の友人達を死に追いやってしまった。

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悲劇的な記憶を辿り、その先に潜む「悪魔」を打倒するたびに、博士の「勇気」……ポーラ、ジェフ、プーがVarikの元に加わります。そして「勇気」は、ネスとその仲間たちがギーグを倒すために過去の最低国に向かった後、何が起こったのかについて語り始めました。

ネスたちが過去の最低国に旅立った後、ギーグの打倒には成功します。
しかしそれが原因で、「ネスたちを送り出した元の世界」と「ギーグが倒された後の世界」に派生し、複数の並行世界が生まれてしまいました。そしてネスたちは元の世界ではなく新しく生み出された時空、ギーグが倒された後の世界に"戻った"ため、元の世界では死んだも同然となってしまいます。それが「勇気」の語った真実でした。

それでも、元の世界で博士はネスたちの生還をずっと待ち望んでいた事。スペーストンネルの再利用も考えたが、ぶっしつXYZが不足し、結局実現出来なかった事。今となっては、Varikたちには博士の狂気を止めるしか出来ない事。真相を語りつくした「勇気」に全てを託され、Varikたちは博士の心の深部「イヴの海」を進んでいきます。

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「イヴの海」の先~ラストボス

イヴの海の最深部から転移した先には、ツーソンによく似た景色が広がっていました。そこにはどこか見覚えのある人々がいて、みんな口々に「自分達はVarikの事が好きだから、ツーソンに戻ってきてほしい」と…
つまり、博士の心の中から出ていくようにと懇願してきます。

しかし、それでもVarikはさらに奥へと進むつもりです。何故でしょう?
博士は放っておいてくれと最初から言っています。何がVarikの心をそこまで駆り立てるのでしょうか?
ゲームのナレーターは「Varikの心(heart)は燃えてはいても動きはしない」と意味深な言葉を残しています。

Varikたちが最深部、博士の脳内へ足を踏み入れると、その姿は何故か、初代MOTHERのニンテン、アナ、ロイド、テディと同じ風貌へと変化しています。ギーグのいた空間によく似た、それでいて下水道のように紫と赤で塗り替えられた世界の最奥で、Varikたちは変わり果てた姿の博士と対面する事になります。

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その時博士は、とりとめのない混沌とした感情全てをぶつけてきました。

世界からわたしへの仕打ちを、そして今のわたしの姿を見ろ。
お前は愚かだ。腐れた死人も同然のな。
お前は、まだ自分の事を「ヒーロー」などと思っているのか?
お前はヒーローなどではない。お前は金のために人々を殺す。
その行いのどこにヒロイズムがある?
心の中に入ってきてまで、そうまでしてわたしを殺そうとするのか。
放っておいてくれ!放っておいてくれよ!
だがVarik、お前はそうはしない。わたしを殺すつもりだろう?
それがヒーローの使命だものな。「ヒーロー」は「モンスター」を
殺さなければならないものなあ?
Varik、私はこんな姿になっても、それでも怖くて震えているんだ。
わたしは死にたくない!放っておいてくれって!
あっち行けよ!独りにさせてくれよ!
置いてくれ、そのナイフを置いてくれ!
お前とお前のちっぽけな体……
戻ってくれ!

お前のせいで こんな
老いさらばえた怪物(monster)が
生まれてしまったんだ

Varikに凶器の切っ先を向けられた事で、博士は死にたくないとパニックを起こします。……結局Varikは戦いの末に殺すつもりでした。話の筋が支離滅裂になるほど、精神を追い詰められた老人を相手に、です。
ここで姿をあらわしたのが「The Id」。
博士の無意識、博士の本能(イド)でした。

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The Idは決して攻撃行動はしてきません。そもそもオフェンスもディフェンスも0の無力な存在であり、ただただ陰鬱な心境を語り続けるだけです。
「どうして許してくれないんだ」
「わたしの醜いありさまを見てくれ」
「これだけの罰では不十分なのに」
イドであると思うと、これが博士の本心なのかもしれません。
それでも、こんな悲しい本音を聞かされても、何の危害も加えてこない存在であっても、Varikたちはまだ攻撃を続けます。

その末に、博士のイドはVarikたちに向かって「お前達が「ヒーロー」を名乗っている事は分かった」と宣言し、"怪物"を殺したVarikを褒めたたえます。
そして、脳から全身に血が流れ出していて、それが自分を悲しい気持ちにさせると口にした後、「大した戦いでなくて残念だ」と言い残して消滅します。
(申し訳ないのですが……この辺りの博士のセリフは翻訳しきれていない感じが否めないです。DeepL翻訳で一文ずつ頑張ってみましたがそれでも直訳っぽさが否めないので、より正確な日本語訳を知っている方は教えてくださるとありがたいです。)

さあ、Varikは怪物を見事退治しました。ですが、戦いはそれだけでは終わりません。誰もいなくなったはずの空間に、博士の声が聞こえてきます。
「わたしはこの感情が何なのか知っている」
「ただ老人を殺すためだけに、こんなところまで来る者への憎しみだ」
「もはやわたしの心は失われた」
「残っているのは、純粋な憎悪だけ」

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再びアンドーナッツ博士が姿をあらわします。
イドが消滅した影響なのか、もはやその心には深い怒りと憎しみだけがあり、そして、青いオーラと共に不思議なPSIの力を得ていました。

これが正真正銘の最終決戦であり、Megalovania……のちのMEGALOVANIAが初めて日の目を見た瞬間でもあります。
実はToby氏は過去にEBHHに言及した事があり、その際に「口汚い言葉のあるひどいROMハック」と自戒していますが、恐らく博士の一連のセリフを指したものでしょう(もちろん、それ以外にも……)
この時の博士はVarikたちに罵詈雑言を浴びせながら、とんでもない威力の攻撃(金的とか)やPSI(B I T C H K I L Lとネタにされがち)をどんどん繰り出す上、頻繁に状態異常も付与してくるため、名実共にラスボスに相応しい難易度といえます。

死闘の末、疲弊しきった博士は自身の心の内に閉じこもっていても、自身の命のために戦っている時にもVarikに憐れみの感情を向けられていると話し、
「わたしは死んだ方がマシだ」と呟きます。
そしてVarikに対して「息子の友人と……似ている」「いつか二人は再会するだろう」と言い残し、博士との戦いは終わりを迎えます。

気が付くと、Varikは現実の世界に戻っています。そしてマジカントを生み出していた機械の中で、アンドーナッツ博士は死んでいました。
ゲームのナレーターに、この状況を回避できたかもしれない。あなたには選択肢があったはずだ、本当は殺さなくてもよかったのでは…と問いかけられながら、Varikは研究所を後にしました。

エピローグ

研究所を出たVarikは、ウィンターズにいたモンスターの残党を始末した後、SWATにツーソンまで送ってもらいました。ツーソンの街中はハロウィン一色で、また元の平穏な日常が戻ったようです。それからナレーターが仄めかすには、Varikは酒は飲むわ女の子と遊ぶわで、存分にハロウィンを楽しんだみたいですね。

そしてラストシーンはその日の夜。Varikはなかなか寝付けず、色々とくだらない考え事をしていて、それでも寝ようとするのですが……
突然飛び込んできたお化けが…
えーと…
pootってオナ○かク○の意味なんですか。これどっちなんでしょう。○ナラはともかく、○ソは流石にやばくないですか?突如部屋に飛び込んできてク○ソするお化けとか…
いや、でんぢゃらすじーさんとかならありえるか。
とにかく、突然の出来事にVarikは驚くものの、すぐに拍子抜けして結局寝るという、ギャグチックなエンドで、めでたしめでたし。

あとがき

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これにて、ストーリーの紹介は終わりです。
ラストがギャグエンドである所以外は、全体的にUNDERTALEのGルートに通じるものがある印象を受けました。MOTHER2における疑似的なGルート、とでも言えばいいでしょうか。当時高校生にして、既にゲームというものに対する考え方や表現したいものの土台が固まっていたのかもしれません。

ちなみに、スタッフロールでもMegalovaniaが流れますし、Toby氏が「全部自分がやりました!」と堂々と宣言しています。実はそれ以外にも、ゲーム中でなんだか小生意気な感じのメタ発言をしていて……
内容も相まってザ・若気の至り……?
ですがその努力と才能自体は紛れもない本物ですし、ここからHomestuckやUNDERTALEへ受け継がれていくと思うと、なんだか不思議な気持ちになりました。人間、どこで何がどう繋がるか分かりませんね。

そういうわけで、今回はEBHHのストーリーの紹介をさせていただきました。もし、翻訳の誤りやニュアンスの受け取り方にズレがあった場合はご一報頂けると助かります。

次はメイキングページを参考にして、制作の裏話も交えたストーリーの解説を予定しています。それが終わったら、Varikとアンドーナッツ博士の考察ですかね。
(そもそもこの内容は動画にして出すつもりだったのですが、動画制作に挫折した場合、その時には記事として作り直す気力もないだろうと判断して先に投稿しました……)

この記事を読んで、EBHHに興味を持たれる方やもっと好きになったという方がいれば、これ以上ないくらい嬉しいです。
それではまた次の記事で会いましょう!

ストーリーの解説の前編はこちらの記事になります。