大宮アルディージャの欧州出身選手を振り返る(前編)

サッカーファンにとっては長い冬を越え、ようやくやって来た日常が第2節を待たずして取り上げられてしまった。年末年始は移籍情報、キャンプ時期は練習試合の結果やサプライズ補強等楽しみはたくさんあるが、この時期に試合もなく練習および練習試合も公開されず日々暇を持て余してしまう。
開幕戦を見て完成度の低さは不安になったが、この時期に良いトレーニングができれば再開後に見違えるようなサッカーをすることも可能である。このオフは外国人枠の選手を総とっかえする激動のオフとなったが、水戸戦においてはネルミン・ハスキッチは先制点には関与こそしたものの途中交代、ヴィターリス・マクシメンコはベンチ、フィリップ・クリャイッチについては練習試合でお披露目されることもなくメンバー外であり、この試合のメンバーは今季の行方を占えるものでは到底なかった。

他のクラブに比べ、安易にブラジル人・韓国人・Jリーグ経験者に頼らず、多国籍軍で独特の補強戦略を推し進めているように見える大宮アルディージャ。今季もJリーグでは久々で大宮初のボスニア人ネルミン・ハスキッチ(記憶が正しければ千葉のフルゴビッチ以来?)、大宮初の外国人GKクリャイッチ、Jリーガー初のラトビア人マクシメンコの3選手が外国人枠で在籍しており、先人たちと同様な活躍が期待される。
J1初昇格以後、大宮に所属した欧州出身の外国人選手は昨年までに10人。そして、J未経験の選手たちも他クラブに比べると活躍している割合が高く感じる。サッカーネタが枯渇しがちなこんな時期なので、今回は前後編に分けて、J未経験組・J経験組でちょうど5人ずつ、当時の印象に残ったエピソードを交えて解説する。前編はJリーグ未経験の選手たち。

1.ラフリッチ(FW 2008途中-2009途中)


J1リーグ通算21試合5得点
スロベニア代表主将の肩書きを引っ提げた現役ブンデスリーガーとして、2002年のウスタ以来久しぶりに欧州から加入した長身CF。チャントは現在の「大宮ゴール」。190cmの身長とフィジカルを生かしたターゲットマンとして2008年のJ1残留に貢献。
デビュー戦のH磐田戦のATに早速ゴールネットを揺らすもオフサイド判定、幻のゴールとなったが(いまだに誤審と信じて疑わない)、その後はコンスタントにゴールを決め、H川崎戦での泰史の少しずれたクロスを叩き込んだスーパーゴールがベストプレー。H千葉戦での主税のPK蹴り直しからのゴールの際は喜びのあまり阿波踊りのパフォーマンスを力づくで妨害する一面も。
期待された翌年は見違えるようなふっくらしたシルエットでキャンプに登場し、オフの不摂生ぶりを露呈。縦に早い張新監督のサッカーにもフィットせず、シーズン途中で退団の憂き目に。

2.マト(DF 2009-2010)


J1リーグ通算59試合11得点
"嘆きの壁"とも呼ばれた元クロアチア代表のレフティCBは、韓国の名門水原三星を経由して加入。過去にはEURO本選にもメンバー入りしており、左SBも兼務していた。
時にキャプテンマークも任された闘将は圧倒的な空中戦の強さで2009年の開幕戦で大きな注目を浴び、FKやPKのキッカーとしても活躍。もちろんCKは攻守に191cmの長身を生かし戦術兵器と化し、2009年はDFとしてクラブ最多得点を記録。今でもその記録は破られていない。
しかしいいことばかりは続かない。2010年は、スピードの無さを狙われ裏を簡単に取られ続けたり、左サイドに釣り出され自らのポジションをあっさりお留守にするなど弱点を露呈。2009年はCBにコンバートされた相方の片岡の決死のフォローで事なきを得たが、彼の移籍とオフの補強に伴い右SB杉山以外のDF3人(マト・深谷・村上)は全員スピード難に。最終的にはカバーリングに優れた坪内にレギュラーを奪われ2年で退団となった。ガッツポーズがよく似合う選手だった。

3.ズラタン(FW 2012途中-2014)


J1リーグ通算71試合17得点
ベルデニック・コネクションにて加入した長身のスロベニア代表CF。南アフリカW杯で得点を決めた、クラブ初のW杯スコアラーである。186cmの身長がありながらヘディングの精度には難があったものの、空中戦自体は滅法強く、ポストプレーと裏への飛び出しも秀でていた。
簡単なシュートを外すことも多々あったが、2013年Aセレッソ戦のスーパーゴールや、同年のJリーグ無敗記録を更新したH浦和戦のゴールなど、印象的なゴールが非常に多かった。また、チーム2人目のJ1リーグでのハットトリックを達成。
2014年オフのJ2降格に伴い退団。移籍先は非常に残念ではあったが、それを理由に彼を嫌う大宮サポーターはいないだろう。そして移籍先でもラストゲームでキャプテンマークを任されるなど、絶大な信頼を得ていた。笑顔の素敵なナイスガイで、自転車で練習場まで通勤する彼の姿を絶対に忘れない。また、大宮そごうの地下で見かけて声をかけた時に、笑顔で手を振ってくれたことも。

4.ノヴァコヴィッチ(FW 2012途中-2013)


J1リーグ通算38試合17得点
クラブ史上最高の実績を持つワールドクラスのストライカー。スロベニア代表のエースストライカーで、キャップ数・得点数共に歴代上位の記録を持つ。また、ブンデスリーガで2度の二桁得点、2部では得点王を獲得。ケルンでは日本でもお馴染みのポドルスキと2トップを組んでいたりと栄光の記録を語ればきりがないが、ベルデニック・コネクションをもってすれば極東の万年残留争い(当時)のクラブにこんなレジェンドが来てしまう。
足下が柔らかく、視野が広い。そして何といってもシュートのテクニックの高さがずば抜けていた。空中戦も193cmの身長のわりには強くないが、ヘディングは要所では決めており、直接FKも武器にしていた。また、クラブで初めてJ1でハットトリックを記録。
ケルンからレンタルで来たことから交渉が難航し、2013年初のチームお披露目イベントで当時の鈴木社長が契約更新をサプライズ発表し、その場を沸かせた。同年は無敗記録とともに"ノヴァ・ズラコンビ"の2トップがJリーグを席巻した。同オフに退団し、その後3クラブ連続で在籍したクラブはJ2降格の運命に。

5.ドラガン・ムルジャ(FW 2014途中-2017途中)


J1リーグ通算52試合15得点
J2リーグ通算36試合19得点
現在も代理人としてクラブと良好な関係を続ける元セルビア代表ストライカー。キリンカップで日本代表から2得点を奪い、セルビアリーグ得点王の実績を引っ提げ、降格待ったなしの大宮へ加入。デビュー戦のH広島戦で2得点、衝撃のデビューを飾る。
187cmの長身ながらヘディングも空中戦も苦手だが、よく解説者からは高さが強みと言われていた。抜群の裏への嗅覚と危険なエリアでのファウルゲットが本当の彼の強み。PKを獲得するものの失敗も多く、しばしば職人家長に譲っていた。2016年から急に衰えが見え始め、簡単なシュートがミートしないシーンが散見されるようになり、次第に出場機会が減少する。もしも衰えがなければ、2016年の天皇杯は決勝進出していたであろう。
彼のベストゲームは誰もが2015年H大分戦と答えるだろう。2点ビハインドで諦めかけた中での雨中の2ゴールに、見事な演技で勝ち取ったPK。この試合でムルジャは伝説になったと言っても過言ではない。
退団の際にはお別れのセレモニーがあったが、このような場が設けられたのはラファエルとムルジャだけである。あと奥さんが綺麗。

後編ではJリーグ経験のある欧州出身選手を紹介する。

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