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軍艦島ツアー前後に、ぜひ一読を薦める 「1972青春 軍艦島」(大橋 弘 著)

フォト&エッセイであるが、写真集と言ってもよい本。

軍艦島が閉山となる1974年(昭和49年)の約1年前、カメラマンを志す一人の若者であった大橋氏が、50㏄のスーパーカブで東京から長崎にやってきて、たまたま賃金のよかった軍艦島(三菱鉱業所端島鉱)に半年間に移り住んでいた時に写した写真がメインである。
ただの旅行者やジャーナリストではなく、炭鉱労働者として生活した視点から撮影した大橋氏の若い感性が光る写真が多く、他の写真集とはまったく視点が異なる。

私は、写真に関してはまったくの「素人」なのだが、各写真が抜群によい。
広く出回っている軍艦島関連の写真集が、「建物」や「島の構造」といったものに焦点を当てているものが多い中のに対し、大橋氏の写真は、「軍艦島を撮ったというよりも、ヒトを撮っている」という点で、被写体となっている人達の表情がこれまた抜群によい。(大橋氏の当時の人柄がうかがえる)
ファインダーの向け方に「血が通っている」と言うか、温かいと言うか、うまく言えないが、「撮った写真、一枚一枚に感性がしみている写真」という感じで一目見た時から、その世界観にすっかり魅了されてしまった。
後付けされた、やや控えめな文章がこれまた、抜群によい。

「炭鉱労働」において、「坑内作業は危険で過酷な労働なのに対し、坑外作業は安全だし楽だから賃金も安い」というのが常識であるが、それはとんでもない誤解であることが、この本のエッセイからわかる。

特に昭和の初め以降、坑内に入ることが禁止された女性たちは、坑外作業において、「一本80㎏前後もある坑木」を持ち上げて運んでいたというのだから驚きである。それも体重40㎏あるかないかの女性がである。
多くの坑外作業に従事した女性たちが、そうやって子どもや家庭を支えていたのだと考えると、実に感慨深い。

「軍艦島上陸ツアー」で上陸した際、ちょうど最初に降り立つ場所が、坑外作業をしていた場所である。
もし上陸する機会があるならば、ぜひそういった女性たちの思いも感じていただければ、ツアーは、より感慨深いものになるであろう。




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