「見知らぬわが町―1995真夏の廃坑」中川 雅子 著
「見知らぬわが町―1995真夏の廃坑」中川 雅子 著は、1996年(平成8年)に
葦書房から発刊された本。
福岡県大牟田市に住んでいた筆者が、女子高生であった時代のひと夏、ふとしたことから自分の住む大牟田市の炭鉱時代の歴史を調べていくという実録。
高校生らしい、瑞々しい感性でありながら、真実を探求しようとする姿勢は、むしろ一研究者のそれを越えている。
多くの人に読んで欲しい一冊だが、残念ながら刊行した出版社が実質廃業したこともあってか、幻の本となってしまっている。
私自身も、この夏ようやく古書サイトで手に入れて読むことができた。
小説のような構成かと思ったが、さにあらず、資料の引用や写真も多く、時系列に沿って調査・取材に出た記録が書かれており、読み手の方も調査に同行しているような気分にさせてくれる。
元々、この本は書籍化するために書かれたものではなく、学校の課題への提出のためにまとめられたものらしく、手作りで10部ほど作ったものが原点であるらしい。
著者中川さんが特に注目した点が、炭坑の坑内労働に強制的に使われ、非人道的な扱いをされた上に亡くなった、多くの囚人たちと、差別的な対象となった与論島出身の労働者たちのことである。
中川さんのルーツに与論島があったこともあり、実に詳しい資料や証言を集めているが、今となっては、この本の中でしか見られない貴重な資料もある。
この本が希少本であることもあり、私自身この本と出合ったのは、NHK福岡がスペシャル・ドラマとして2011年に制作したドラマ版が最初であった。
しかし、あくまで原書は、原案となったので、設定はだいぶ脚色されていることもあって、かえってドラマの中の話というようなイメージも付けられてしまった。
しかし、2015年に三池炭鉱時代の宮原坑竪坑櫓、万田坑竪坑櫓、三池港、専用鉄道跡が、世界遺産の構成資産に登録されると状況は一変した。
今、大牟田市のHPなどを見ると、この炭鉱時代の世界遺産こそが、街の最大の観光資源となっている。
私自身が、この本を読もうと思ったきっかけは、炭鉱時代の坑内馬たちのことなのだが、残念ながら中川さんはこの時、坑内で囚人たちよりももっと悲惨な運命をたどった坑内馬たちには、想い至ってはいない。
とは言え、これから世界遺産として半永久的に遺っていくであろう遺構たちがある限り、中川さんのように瑞々しい感性で炭鉱時代のことを知りたい、調べてみたいと思う若者たちが出てくることを切に願ってやまない。
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