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飲食店での迷惑行為が馬業界にとって他人事じゃないワケ

 こんにちは。今日は最近社会問題になっているアレについて、少し思ったことを言葉にしてみたので是非読んでほしい。

 僕のプロフィールについてはこちら。馬のプロと思ってくれたらよい。

 最近とんでもない動画が出回っている。回転ずしでイタズラをしてSNSに投稿するとバズるということで、流行っていると言ったら語弊があるだろうが社会現象になっていることは間違いない。
 
 この社会現象は飲食業界で起きているが、馬の業界にとっても決して「対岸の火事」ではないと感じる。まだ社会現象になっていないが「火種」はある。馬の業界の事業者として、特に私たちは「馬と人との距離を近づける」ことを創り出しているので、この火種・流行に注意しなくてはいけないだろう。

初めて馬に乗る人が来て乗ることが多いのが僕らのサービスだ

 問題の被害者という視点で見ると「問題を起こした人を訴える」「AIシステムを導入する」など回転寿司業界は対応に追われている。回転寿司業界にとっては「存続の危機」だ。寿司を回すという高収益システムは「少数のならず者」によって根本的に疑問を問いかけられている。これまで意識していなかったが、確かに自分の手元に届くまでに誰か他のお客さんが自分の食べ物に触れることができる。しかも、SNSで自ら進んで騒がなければほとんどそれが露見することはない。
 
 このシステムは存続すべきか?存続しないべきか?
 
 低価格でお客さんに「安全に・心配なく」食事を届けるためにはどうしたらよいのだろうか?
 
 こんな風に頭を悩ませていることが簡単に想像できる。何かが起こってしまってからこういう風に対応していくと、おそらくだが問題解決が追い付かず経営的に難しくなる。ある程度こういうことが起こると想像することで「対処が簡単になる、もしくは応用が効く」ことが可能になるのではないだろうか?

 
 ということで、馬の業界で起きている迷惑行為の火種について触れながら、事業者としてそれにどう関わるかという話をしていく。これが回転寿司業界の問題解決に通ずるという話ではないので、その辺りはご注意いただきたい。


今ある火種

 馬の業界にも「火種」はある。例えば、馬を使ったCMで有名になったyogiboさんのケースを見ていこう。 

 「放牧場の外に設置されているハギボー(クッション)を放牧場内に投げ込まないでください。」要はこういうメッセージがyogiboさんから発信されたのだ。
 僕は「おいおい、そんなことする人もいるもんだな」とただ思った。いくつか危険になるケースを考え(馬が転んでけがをする?投げた時にびっくりして走って逃げる?など)「なるほど危険で注意を呼び掛けても自然か」と思った。まあ、そんなに危険なのかなあ、くらいの軽い気持ちでコメント欄を覗いたら…
 
なんでそんなところにそもそも置いてあるんだ?
 
 という意見が多数あって「いや、全然気づかなかったがその通りだな」と正直感心してしまった。どうやら、この牧場は元々管理体制について疑問視されることもSNS上ではあったらしくそういう意見が目立ったというのは後で知るのだが(気になる人は別で調べてください)その視点を持てなかったことは事業者として「しまった」と思ったのだ。
 
 このケースから馬の業界ならではの「特徴的な火種」があると思う。それは「利用者が良いこと・危険なことを知らない」という前提で事業者は振舞わなければいけない、ということにある。そしてこの「何が危険で危険でないか」も信じられないかもしれないが「とっても意見が異なる」のである。

 それがどういうことを意味するのだろうか?

 回転寿司の話に戻して考えると「回っている寿司を触るのが悪い」とお客さんの中で一致していない状況なのだ!
 
 怖すぎる…
 
 事業者の対応としてはお客様は「何も知らない」という前提で「危険が起こる可能性を排除しておく」ことも求められているという点でハードルはさらに高い。


馬の危険性についての知識 

 他にも馬の業界ならではの特徴はあるのだが、今回はこの
①お客様に何が危険(悪い)か知識がないことが多い
②危険については意見が異なる

 という2つの点について話したい。 

 まずは、「お客様が知識を持っていないこと」について。

 馬業界の中には「馬についての知識も大してないのに馬に触るな!危険だ!」という人がいる。これは確かにとっても正論なのだが、それでは「新しい人が業界に入ってこない」という問題がある。

 そもそもそういう姿勢の業界はウェルカムな感じがないし、馬の触り方を1から100まで付きっきりで教えてできるようになるまで触れないのだとしたらコストは高くなる。しかもこの1から100まで、といっても基準がよく分からない。僕も正直どこまでできるようになったら1人で触れるのか、自分なりの基準はあるがそれが正解かは決して分からない。
 
 知識がない、ということは「楽しむ・馬と遊ぶ」という馬との関わりの醍醐味と「ふざける」が混合されやすいのだ。回転寿司で回っている寿司に触ることが「他のお客さんと楽しむ」ことだとは誰も思わないだろうが、こと馬に関してはそれが起こりうるのだ。

 Yogiboさんのケースはまさにそんな感じだろう。クッションを投げ入れたら馬はそれで遊ぶかもしれない。それによって馬におもちゃを与えて楽しい体験だった、となることもあるだろう。もちろんyogiboさんが言うように非常に危険な行為になることもある。
 
 僕らもたまに馬が放牧されているところに入っていくこともある。馬は追いかけてきたり、全然気にしなかったりするのだが、それは危ない行為でもありうる。馬の動きを知らなければとっても危険だ。もう一つは「馬によって」危険性が違うことももちろん要注意。馬には性格があるからだ。そこすら知らないまま馬と関わっているケースすらある。 


 ここまで話すと正直絶望的な感じがしているのだが、事業者としてできることは何だろうか? 

 ・お客様が知識を持っていないという前提に立ち考えること 

 まずはここだ。yogiboさんのケースで僕が見落としていたことでもある。事業者側で根本的に危険になりそうだと感じたら取り外しておく。事業者側で事前に危険性チェックを行っておく。例えば家電製品などでは必ず行われているのだが、利用者の様々な使い方を想定してサービスを提供することだ。そして危険性につながりそうなシステムは排除しておく。それは「大前提として」核になると思う(私達も厩舎を建設する際にはそれを必ず行わなければならない)。

・お客様に「体系だった知識を提供する」こと
・「その上でこの体系に従っていれば安心というわけではない」としっかり伝えること

 
 この2つは相反しているようでとても重要だと思う。まずは「馬とはこういうものだ」という知識を大前提としてしっかり提供しなくてはいけない。そして事業者としては、ただそれを提供するだけではなくて「それをアップデートしていく」ことだ。

 良くないことだが、小さなものも含めると事故は起きるだろう。その上で「それをオープンにして、原因を追求し、知識としてアップデートする」という姿勢はとても大切だと思う。ここには「この体系が絶対正解とは限らない」ことを常に理解するという姿勢が必要だ。

整理し更新する。これが大切なことだ。

 事業者としてそれを持つだけではなく「お客様にもそれを知ってもらうこと」がとても大切だ。それも含めて、伝えるべき正しい知識なのだと僕は強く信じる。つまり、基礎知識は提供するがその上で「自分で危機を感じてもらう」ことを求める必要があると思う。



「お客様が知識を持ってないことが多いという点」についてまとめておく



 大前提は「お客様は何も知らないという前提に立つこと」が必要だ。つまり全ては「事業者の責任」である。これは回転寿司業界より厳しい前提なのかもしれないがそれが義務だと思う(自責もこめて)。

 その上で「正しい知識を提供すること」。これも事業者責任だ。業界の先駆者としてここを「体系立てて理解しやすくする」ことに努めなくてはいけない。

 その上にちょこんと乗るのが「それでもこの体系立てられた知識は万能ではない」ということだ。これは生き物を相手にするということの避けられない事実だ。どんなプロでもミスをしてケガをしたりケガをさせてしまったりする世界なのだ。業界としてここから目を背けるのではなく「自分自身で感じることを大切にする」という人間としての個々人の基本的な働きを目覚めさせておいた方が事故は少なくなるのでは、と思う。

プロですら何が危険か分からない?

 この「体系だてられた知識は万能ではない」が意味することは実はとても大きなメッセージが込められている。

 僕はプロの馬術選手として馬術本場ヨーロッパで活躍してきたが、残念ながらどんなトップ選手でもミスをする。競技の中でということだけではない。馬の簡単な扱いで、結構ミスは頻発するのだ。

僕は馬術の日本代表として活動した選手でもある

 驚くことに結構、これが危険だと思わなかった、みたいなパターンも多く存在する。

 このプロが自分の考えを持って自分なりの基準を持ってシステム、ルールを作る。それが事業者のお客さんにとって一つの基準となる。

 このルールに従うだけでは全体的には事故が多発しても当然だ。もちろんその人なりのルールには良いところもあるが、きっと欠落しているところもあるからだ。

 これが意味するところは…私達は業界内で学び合う姿勢を強めなければならない、ということだ。お互いの事故やお互いのやり方からより安全な方法やアイディアを全体として編み出そうとしていきたいものだ。

 話をまた回転寿司業界に戻すと、彼らは今までで一番結束すべきかもしれない。お客様にとってベストな方法を彼らは一致団結して作った方が早いからだ。

 まだ私達はそこまで火が大きくなってない印象かもしれない。でも火がついて瞬く前に遅くなる前に、少なくとも「私達」はお互いを指さしあって批判することをやめて、共に考え始める必要があるのではないだろうか?

 まずは、そういう方向を馬業界として向いていくために僕たちは僕たち自身が自分達のやり方の危険性について見つめていかなくてはいけないと思っている。いつか、何年後かに「自分でこうやって書いてるじゃないか!」とならないように事業者として実践しなくてはいけないと強く思う。

 そして、人の振り見て我が振り直せ、の言葉通り他の人の失敗すら自分の中の痛みにしていこうと改めて書いていて思うのであった。

 長い文章を読んでくれてありがとうございました。共感したら他の記事も色々読んでくれると嬉しいです。



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