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『昨夜未明の王都第四モルグ襲撃事件の現場からはカノプス壺爆弾の破片が見つかっており、違法ミイラ製造組織の関与が疑われています。官憲隊の発表によると……』
女は骨粉ラジオの音量を下げると、口を切った。

「必要なのは、何をおいてもまず、木乃伊(ミイラ)だ。」

ミイラ。聖墓より発掘された眠れる遺体は我らが王都に目覚ましい発展をもたらした。古代の神秘を纏いしそれらがいかなる化石燃料をも上回るエネルギー源と成り得る事が判明するや、木乃伊機関は我が国の産業を瞬く間に席巻した。工場、鉄道、兵器、そして家庭用品に至るまで。このラジオとて犬だか猫のミイラを曳いた粉を動力源としている。

「この貪婪の都は墓を暴かれた先人たちの齎す甘美に酔いしれている。だが些か貪りすぎたな。木乃伊は常に不足している。今さら一体ばかり増えたとてかえって喜ばれるのではないかな?」
女は書斎の扉を背にしている。片手は懐に忍ばせたままだ。窓の外は三階。今日も都の空は霧と木乃伊機関の排煙に閉ざされている。

「需要があるならば供給される。近年になって製造年数の浅いミイラが出回っているのは知っているだろう?概して粗雑なそれらが起こす爆発事故や奇病のニュースを耳にした筈だ。我々が昨夜襲撃したモルグはその製造工場だった。官憲もグルだろうな、あるいはもっと”上”も……」

ニュースはとうに切り替わり軽薄な歌謡曲が流れている。連日起こるミイラ絡みの事件など些事だと言わんばかりに。歌えや歌え。享楽に溺れろ。

「古より続く木乃伊造りの秘儀を持ち出した恥知らず共がいる。我々は連中を追っている。貴方には選択して貰おう。我らに協力するか、そこのラジオの燃料となるか。」
女は懐から取り出したナイフを突きつけた。

「さる王の墓に供えられし副葬品、星海の果てより降り来たる隕鉄の短剣。私はかの王の、最後の息の根を止める。貴方なら彼の所在をご存じの筈だ、カーター卿。」

【続く】


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