トニー・シェイさんが、亡くなった。
先週末、驚きのニュースが飛び込んできた。
トニー・シェイさんとは?
トニー・シェイさんはアメリカ合衆国の実業家だ。靴を中心としたアパレル関連の通販小売店・ザッポスを創業、2009年にアマゾンに約12億ドルで売却したことで話題を集めた。
シェイさんの幼少期、退屈な会社員生活、スタートアップの創業、ザッポスをアマゾンへの事業売却する一連のプロセスは、著書『Delivering Happiness: A Path to Profits, Passion, and Purpose』(邦訳『顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説〜アマゾンを震撼させたサービスはいかに生まれたか〜』に描かれている。
全く古びない、シェイさんの経営姿勢
2000年代における、いちスタートアップのサクセスストーリーとして捉えるにはあまりにもったいない。
ザッポスを経営するにあたり彼が重視した施策は哲学と言っても差し支えなく、ビジネスパーソンの多くは学びと刺激を得られるだろう。
例えば本書では、
・パーパス(企業の存在意義)の設定
・10のコアバリューに基づくマネジメント
・カスタマー・サービス注力によるリピート顧客&クチコミ増(広告に頼らないビジネスモデル)
・レイオフなどハードシングスに対する適切な対応
が書かれている。2020年のビジネス書の目次と言っても不思議ではない。無論改めて読み直しても、内容は全く古びていない。
現在主流のSaaSなどサブスクリプションモデルはカスタマー・サクセスが成否を握っている。シェイさんはそのことを予見したかのように、カスタマー・サービスで強烈なブランディングを実現した。
この何年も、ザッポスの成長の一番の原動力となっているのがリピート顧客とクチコミです。広告にはほとんど費用をかけず、その費用をカスタマー・サービスと顧客体験に投資し、私たちに代わって顧客にクチコミでマーケティングを担ってもらおうというのが私たちの哲学なのです。(中略)
ほとんどのコール・センターでは、業界用語でいう「平均処理時間」を基準にオペレーターの業績を評価していますが、これは、一日に各オペレーターが何件の電話に対応できるかに焦点を当てています。言い換えると、オペレーターはどれだけ早く顧客の電話を切れるかを気にすることになり、私たちからすれば素晴らしいカスタマー・サービスを提供しているようには思えません。
(トニー・シェイ『顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説〜アマゾンを震撼させたサービスはいかに生まれたか〜』P239〜243より引用、太字は私)
競合他社のウェブサイトで在庫状況を調べ、在庫があればその情報を顧客に教えるという、今でも信じられないほどカスタマー・ファーストのエピソードが書かれている。
「顧客の生涯価値を流動的なものと見なしており、あらゆるやり取りを通して顧客の心の中に私たちのブランドとのポジティブな絆を作り出せれば、顧客の生涯価値は向上できる」という言葉は、感情と論理どちらにも万全の配慮を尽くそうという想いが伝わってくる。
レファレンスを持つ大切さ / 注意点
話は変わるが「成長したい」と願うビジネスパーソンにとって、目の前の仕事以外に重要なのは「レファレンス」だと僕は思っている。
それは社内の先輩社員でも良いけれど、社外にレファレンスを求めることで多くの / 想像以上の刺激を受けることができるだろう。(最初のうちは憧れを抱きながら私淑する形でも何ら問題ない)
起業家・実業家・経営者に絞ったとしても、世の中には驚くほど多種多様な人たちがいる。
だが、レファレンスは行き過ぎると、その人のことを諸手を挙げて賞賛する・盲信するようになってしまう。明らかなモラル違反、度を越した行動に違和感を持てるような感度は持っていたい。(とりわけIT起業家は、従来のルールを破壊するような「アウトサイダー」の特徴を持つこともある。その成否を見極めることは容易なことではないのだが)
そのリスクを抑える上でも、センスの良いレファレンスが重要になってくると僕は思う。
「センスの良い」とは文字通り感覚的なものだが、僕は、その人の発言や態度が「未来に向かって開かれている」かどうかがポイントになってくると思っている。
今だけ良ければ良い。
今、儲けられれば良い。
自分の利益のために、他人が不利益を被っても構わない。
注意深く観察すると、そういった思考(志向)が透けて見えることがある。そんな人に、あなたの貴重な未来を託してはいけない。
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20代の若いビジネスパーソンの方々は、もしかしたらトニー・シェイという実業家を知らないかもしれない。
シェイさんは、間違いなく「未来」を見据えていた人だ。利益という指標を大事にしながら、一緒に働く人の「Hapiness」を重んじていた。
シェイさんのような人を、ぜひ、あなたのレファレンスに選んでいただきたいと思っている。
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20代のときに「トニー・シェイは素晴らしい経営者だ!」と感じられたこと。僕は誇りに思っている。
あまりに早い死に、とても残念な思いでいっぱいだ。だけど。
ありがとう、シェイさん。どうぞ、安らかに。