見出し画像

スタートアップの市場の選び方

こんにちは。スマートバンクの堀井(@shota)です。
長いものでC向けのプロダクトを作り続けて、10年以上経つようになりました。

今回は自分が意識しているスタートアップの「事業の張り方」について経験則や実例も交えて書いていきたいと思います。

自分がゼロから作り、現在も存続しているサービスはフリマアプリ「ラクマ(旧フリル)」、ANGEL PORT(事業譲渡済)、B/43(ビーヨンサン)の3つが該当し、特にフリマアプリは過去最大のスマッシュヒットになりました。

「気づき」からスタートし、実在する課題を解決する

スタートアップで最も悲しいのは多大なリソースを払って、誰も使われないサービスを作り上げてしまうことかと思います。

起業のアイデアは「考える」のではなく、「気づく」ことが重要であり、自分も過去に「俺が考えた最強のサービス」を作ってしまい、誰にも使われないサービスを生み出してしまいました。

今は客観的に見て明らかに不合理な問題解決をしている、それが高頻度で発生している状況を特定し、採用されている「代替製品」より「10倍良い製品」を作ることを意識しています。


例1:フリマアプリ
ブログやmixiで商品の画像を投稿し、商品に対する支払いや質問のためにLINEやメールアドレス、DMでやり取りをしていた。

代替製品(ブログやmixiで服を売る)

例2:ANGELPORT
著名なエンジェル投資家は自身の投資先を公開できる場がなく、X(旧Twitter)のプロフに記載していたが、数が増え、全ての実績を書ききれなかった。

例3 : B/43(ビーヨンサン)
毎月の支出を管理するために無印のパスポートケースを活用。支出明細毎にラベルを貼って、現金を入れ、そこから取り出すことで管理をしていた。


実在する課題と書いたのは、自分はよくユーザーインタビューをすることが多いのですが、今日は良いインタビューができたなと思えた時は大抵、「代替手段の把握」ができており、その課題が発生している「状況」を課題仮設として記述できることが多いです。


[顧客]は、[タスク]をするとき、[調査の内容]という課題がある。
[顧客]は、[制限・制約]のために[課題]を体験している

リーン顧客開発

代替手段を採用している時点で、課題は存在しているのですが、ユーザーは既に問題が解決されているため、課題を課題と思っていないケースも多く、自分の欲しいものを正しく理解したり、言語化できていないことが多いです。

実際にフリマアプリを作る前に「代替手段」を採用している方にインタビューした際も「アプリで写真を撮るだけで商品が売買できる」サービスがあれば使いますか?という質問に「分からない、今の方法で問題ない」と答える方が何名か存在しました。

だからこそ、「気づき」からスタートし、「ユースケースを置き換える」プロダクトを作ることが重要だと思っています。
ただし、その課題を抱えるユーザーが多いかどうかはそこまで大きく意識はしていません。

不可逆な未来から逆算し、上りのエスカレーターに乗る

事業をやるからには、大きな市場(経済活動を行うユーザー数 × 発生頻度)を狙っていくべきで、言い換えれば、課題が大きく、儲かる市場選択をするべきなのですが、当然、そんな美味しいマーケットがゴロゴロ転がってるような時代ではありません。既に「世の中が便利になりすぎた」こともあり、スタートアップが解決すべき課題は「少数の人が強く望む」ようなニッチな市場選択になると思います。

ただし、我々はスタートアップなので、スケールするビジネスを実現しなければなりません。その上で重要なポイントが「無消費層」を開拓できるビジネスなのかどうかです。


無消費層とは「裕福な人や特別なスキルや訓練を積んだ人でなければ解決手法を採用できない潜在的な顧客層」

よく事業は参入タイミングが命と言われている理由は、初期はニッチな市場だが、あるタイミングを境に「無消費層」を大量に開拓できるような変化のおかげで事業がスケールすることを指しており、その変化を見極めた上で、事業に張れるかどうかがポイントかと思います。

私はこれを「上りのエスカレーター」と呼んでおり、可能な限り、その変化を捉えた上で事業を張るようにしています。言い換えるなら、全ての起業家に「あなたの事業はどんな変化に賭けてますか?」と問いかけているようなものかと思います。


例1:フリマアプリ

  • スマートフォン(特にiPhone)の急激な普及

  • 2012年以降はソフトバンク以外のキャリアもiPhoneを販売可能に

  • ネイティブアプリ内から画像をアップロードできる端末を大量のユーザーが保持する時代に

例2:ANGELPORT

  • M&AによるEXIT起業家の増加

  • 次の起業までのリブートの間、エンジェル投資をする起業家の誕生

  • VCの増加、ファンドサイズの規模拡大、それによる起業家の増加に伴って、EXITする起業家も増え続ける

例3:B/43(ビーヨンサン)

  • 政府主導のキャッシュレス決済の利用拡大

  • キャッシュレス決済の普及による現金決済・流通の減少によるデジタル化

  • 資金移動業等の法改正(デジタル給与等)


フリマアプリで起業した際は、この変化を完全に読んだ上で、事業を張れたわけではなく、ネイティブアプリの時代が来るから「アプリでしかできない事業をやろう」という張り方を選択し、結果的にiPhoneが爆発的に普及する手前で、真っ先にサービスインすることができました。

総合型フリマアプリ自体はスタートアップ・上場企業合わせて10社程度のプレイヤーがいましたが、スタートアップ産で残っているのはメルカリ、ラクマ(旧フリル)しか現存しておりません。もちろん先行者優位の外部ネットーワーク性が強いサービスだったのは間違いないですが、市場参入と同時に高い成長率や高いシェアを狙える限定的なタイミングは存在すると思います。

事業によって、タイミングを決定づける変化が何なのか?というのは異なると思いますが、将来、産業構造を変えるほど大きく変化する前提はなにか、それはいつ起きるのか、そのとき人の行動はどう変わり、向き合うべき課題の代替手段はどうあるべきか。未来の解像度を高め、プロダクトのポジションを決めることが大事かと思います。

その前提の変化の兆しに気づくための、ちょっとしたアドバイスとして、既に別の地域に到来している「不可逆な未来」を見ることをお勧めします。

自分がフリマアプリで勝負しようと思ったきっかけも、2011年当時のサンフランシスコでTechCrunchDisruptに参加し、ネイティブアプリの完成度の高さや「Airbnb」「TaskRabbit」「Zaarly」「Getaround」などのアプリベースのシェアリングエコノミーの台頭を感じれたのも大きいです。

また、今回のFintechを市場選択した理由もよりキャッシュレス化の進んだ近似国であるイギリスへの滞在によって、社会が現金からデビットカードに移り変わる、ちょっと先の未来とも思える現象を垣間見たことがきっかけです。

UK Payment volumes (millions) 2012 to 2022
UK Finance

市場選定に関しては、市場の最前線に身を置いて、不可逆な未来を体感することも大事なポイントかと思います。

とはいえ、これは!と思えるタイミングで参入したとしても、事業は不確実性も高く、やってみて初めて難しさを実感するというのが大半です。
実際にANGELPORTは思ったより日本のエンジェル投資家の裾野が広がるまで時間がかかるなと思った節もあり、事業譲渡をしています。
狙った変化に対して、粘るのかPivotするのかは事業と向き合いながら真摯に向き合うべきと考えています。

ゲームを理解し、Moat(参入障壁)に投資する

フリマアプリに多数のプレイヤーが参入し、結果的に後発のメルカリに追い抜かれた反省点の一つに、CtoC事業の勝ち筋をよく理解できていなかったというのもありました。

先日、メルカリの小泉さんと初のランチをご一緒させてもらったのですが、
mixi時代にGREEやMySpaceなど競合SNSと競争していた時代のお話をお伺いして、そもそもネットワーク外部性が強く働くサービスの戦い方をメタ的に認知されており、PCのSNSとして勝者になった勝ち筋も理解されていたことを聞けて、当時の自分たちとの差を改めて感じました。

製品のライフサイクルの前半は利便性で手に取ってもらえるが、後半は認知と経済合理性でひっくり返るというのが経験則であり、メルカリに後発からも追い抜かれたように、魔法のようなMoatは存在せず、どんなMoatもお金と時間を適切にかければ再現は可能なんだと思います。

そういった点では先ほどは事業は参入タイミングが重要と書いたように、参入がしにくいゲームを選ぶ、競合エントリーを遅らせる、競合がゲームから降りたくなるような投資を、いつ、どのタイミングで、どの程度のコストを使っていくかがMoatを構築することに繋がるのではないかと思います。

ここに関しては「金で殴る」というシンプルなやり方ができれば一番良いのですが、大半のスタートアップはそういう状況ではないと思うので、知恵を絞って、リリースまでのステルス戦略や、資金調達後の、スケール時の速度やパワーの意思決定がポイントになってくると思います。

参考までにB/43(ビーヨンサン)のプロダクトの場合は、
模倣が容易なアプリだけではなく、以下のような参入障壁が重いMoatへの投資を最初から意識して取り組んでおり、サービスのリリースまでに約2年掛かっています。

  • 資金移動業という金融ライセンスの取得

  • プロセシング(決済システム)の自社開発

  • 共同口座というスイッチングコストの高い機能と特許取得

金融庁:資金移動業登録一覧


これは自分が2回目の起業ということもあり、仕込みに大幅に時間を掛けれたというのもあるのですが、張る事業については、可能な限り、そのゲーム(事業)の理解と勝ち筋がどこにあるのかの解像度を高く持ちたいなと思っています。

このエントリーが少しでもスタートアップ業界の参考になれば幸いです。

最後に

スマートバンクでは「上りのエスカレーター」に乗れて、決済取扱高(GMV)は順調に成長しています。
家族向けの家計管理領域から、事業を次のステージに進めるべく、開発職だけではなく事業開発(Bizdev)、人事のポジションも積極採用中です。

少しでも興味を持たれた方がいれば、X(旧Twitter)へのDMでも構いませんし、カジュアル面談フォームから是非ご連絡ください!


ではまた!




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?