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自転車を漕ぐ。

自転車を漕ぐ。
時にゆっくりと、時に必死に。
世界の歯車になろうと漕ぐ。
足が悲鳴を上げたり、汗まみれになったり、手が悴んだりするが、懸命に漕ぐ。
日銭を稼ぐために漕ぐ。
ウーバーイーツである。
生活の主軸である演劇関係のみでは苦しい時期がもちろんあって、その時期に漕ぐ。
主宰がウーバーイーツなぁと、思う時もあるが映画監督も映画だけで生活してる人は限りなく少ないと自分を励ましつつ、漕ぐ。
交通ルールを守らない人が多いからからか、たまに白い目で見られながらも、自分は交通ルール守りますよって顔で漕ぐ。
もし、車を運転してる側だったら邪魔だなぁと思われてるだろうなと思いながら漕ぐ。

劇団水中ランナー「花を灯す」の集合写真

ウーバーイーツにはクエストなるものがあって、週単位で何件配達すればプラスでボーナスが上乗せされる。達成すればするほど、次の週のクエストの難易度が上がる。
クエスト。何か冒険の世界な感じがする。
ちなみに、忙しい時間と地域に発生するボーナスはブースト。
クエストを達成するために必死に漕ぐ。
RPGの登場人物さながらクエストを達成しようと躍起になる。
単純にお金のためなのだが、没入しないとしんどい時がある。
時にめちゃくちゃしんどくて、この料理を届けないと届け先の人は飢えてしまうとか、この料理で家族が団欒を取り戻すと考えながら漕ぐ。そうするとタワマンの上層階の人だったりする。
助かってる人も疎ましく思ってる人もいる中で世界の歯車の一つだと思って漕ぐ。

劇団水中ランナー「つぎはぎ」の集合写真

子どもの頃、自転車に乗るようになって世界が一気に広がった記憶がある。
どうやって乗れるようになったかは曖昧だが、親が練習に付き合ってくれた気がする。
友人と連れ立って行ける範囲が広がり、単純に自分たちだけで初めて行く場所が増え、無敵感みたいなものを感じた。
世界が広がり、色んな一部を知った気がした。もちろん気がしただけなのだが。
中学生の時に日の出を海まで観に行くために、男5人ぐらいで2時間ぐらい自転車を漕いだこともある。初日の出とかでは無くただ日の出を。最初の時が楽しくてその後も何回か行った。
テンション上がりすぎて、誰かが「だだほっほー」と言い出し、それを誰かが「あうー」と答え、また誰かが「くすー」と返し、「だだほっほー、あうー、くすー」と謎の呪文を繰り返し海を目指した。
「だだほっほー、あうー、くすー」
爆笑。沈黙。漕ぐ。
「だだほっほー、あうー、くすー」
爆笑。沈黙。漕ぐ。
「だだほっほー、あうー、くすー」
沈黙。漕ぐ。
「だだほっほー、あうー、くすー」
沈黙。漕ぐ。
「だだほっほー・・・」
爆笑。漕ぐ。
意味不明である。
それを繰り返し、ただ日の出を求めて、自転車を漕いだ。
何でも面白かった。
日の出を見ながらも謎の呪文を唱え、日の出そっちのけで笑ったが、帰り道は沈黙の時間が長かった気がする。
自転車を漕ぎながら、ふとそんなことを思い出した。

謎の呪文をこっそり言い、クエストを達成するため、飢えて待っている人たちを救うために自転車を漕ぐ。
世界の一部となり、お金を稼ぐ。

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