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ココロザシナカバ~壮絶な自分史~ 第8話/60話:「出る杭の打たれ方」

【ここまでのあらすじ】
岩手→練馬→川口→浦和・・・と住まいを転々としてきた阿部家。
父のギャンブル好きが原因で貧乏で婦けんかが絶えない、
そんな一家が今回引っ越した先は茨城県。
家計のために小学生からバイトで稼ぐ長女まゆみ(私)が
いよいよ中学生に・・・・。



噂というのは、私が中学校にあがったら真っ先に先輩にシメられるという話だ。まぁ当然だろうと思っていた。
そういうシキタリみたいなものがあって、小生意気な新入生は先輩方の洗礼を受けるわけだ。

出る杭は打っておかねばならない。

入学式の翌日、放課後になると、私と他の小学校で番長していた子たちはもれなく呼び出された。
集められたのは全員で4人だったと思う。
並べられて、「てめぇ、調子こいてんじゃねぇよ!」とビンタされた。
ビンタする奴より、後ろで見ている奴のほうが格は上なのだろうというのは一目瞭然だった。

やられっぱなしというのは受け入れがたいことだったが、儀式なので先輩を立てて我慢した。
先に生まれたっていうだけでこんなに大威張りかよ!と、ずっとムカついていた。

こんな私だったが、理不尽というものを感じたのはこの時が初めてだった。

私は権威や脅威のようなものに屈することはなかった。
相手がどんなに脅かしてきても、相手の瞳に正気がわずかでもあれば、それは脅威にならない。
一番怖いのは正気を失った目だ。
父が酔って暴れるとき、いつも正気じゃなかった。
悪魔でも追い払いたいかのように、私たち子どもを殴った、蹴った、寒空に追い出した。

それに比べたら、正気を放つ目はちっとも怖くない。
だから先輩に睨まれると、かわいらしくてちょっと笑ってしまう私がいて、それをナメていると言われ、私だけみんなより余計に殴られた。

無事にシメ会で洗礼を受け、晴れて私は中学校に受け入れてもらえた。
町でひとつの中学校は1年生だけで11クラスもあり、親友だったとくさんと私は離れ離れになった。

私は眉毛を爪楊枝ほどの細さに剃り、父から盗んだタバコを吸い、スカートを長くし、どこから見ても不良に転身する。
学校でそのように振る舞えるのは、洗礼を受けて、先輩方のお許しをいただいたからだ。

学校ではやりたい放題だったが、家ではそうはいかない。
眉毛は前髪に隠していたので、当面、バレなかった。
スカートもウエストのところでぐるぐる巻いて短くした。
父から盗むタバコもバレないように1日3本と決めていた。

中学1年の夏休みは、新たな就職先を前年と同じ方法で探した。
前の仕事のネーム札付けは、あまりに単純作業で飽きてしまったのだ。

こんどの勤め先は自転車で30分ほどのところにある、牛を300頭ほど飼っている畜産農家だ。
隣町の大きな牛舎だった。

動物が好きだったので、動物に触れ合える仕事を探した結果だった。
時給は300円と、Tメリヤスと同じだった。
いくら欲しいかと聞かれたので300円と答えたらこうなっただけなのだが。

社長と奥さんと若い男性従業員とおばさん従業員の4人で切り盛りしている牧場だった。私の仕事は牛の糞を集めることと、圧縮された乾燥草を巨大なフォークでほぐし、飼料と一緒に与えること。
要するに、糞の片づけと餌やりの世話。
自分なりに牛一頭一頭に名前を付けちゃったりして、話しかけては頭を撫で、仲良くなっていった。

その仕事がとにかく楽しかった。


あの時以外は。

つづく

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