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ココロザシナカバ~壮絶な自分史~ 第20話/60話:「20歳の駆け落ち」

ここまでのあらすじ】※このお話は実話です。
岩手→練馬→川口→浦和→茨城・・・と住まいを転々としてきた阿部家。
父の酒とギャンブル好きが原因で、貧乏で夫婦けんかが絶えない。
家計のために小学生からバイトで稼ぐ長女まゆみ(私)が
高校を中退、家を出て、人生初の同棲相手の男を追い出した。
そしてヤクザに拉致され、駆け落ちした母を見つけ出した。
あれから3年・・・。
 



母の1件以来、アッシー兼メッシーのマンキさんとは正式に(?)付き合うことになった。
相変わらず私の言うことをよく聞いてくれる優しい彼氏だった。

足と飯だけではなく、服まで買ってくれるようになった。

そんな彼の子を妊娠したのが20歳の時だった。
彼とは別れたりくっついたりしながらではあったが、
友人関係も含めると4年の付き合いがある。
どんな人間かはよくわかっているつもりだったので結婚しようと思った。

ところが父は猛烈に反対した。
私に依存している父にとって、私を嫁に出すなんてことは到底許せない。
当然のように「子どもは堕ろしてこい。」と命じられた。


どうするかマンキさんに聞くと「お前の好きにしなよ。」と言う。
いつだってそうだ、そういう男なのだ。

優しいのではなく、決められない。
なぜなら責任を取りたくないから私に決めて欲しいのだ。

そんなことはわかっていたし、そういう人だから、
決めたがりの私に付き合ってこられたのだ。


きょうだいにも告げず、私は彼との駆け落ちを決行した。

彼が通勤に使っていたMAZDAのファミリアに乗って、
とりあえず夜中の高速で西を目指した。

翌朝、ひとまず川崎市に着いた。
川崎とは縁もゆかりもない。

ないからいい。

父に見つかるわけにはいかない。

着いてから地元の求人誌を買って職探しを始めた。
いや職だけではない、住まいと食事付きの職だ。
マンキさんはペンキ職人だから、その方面で仕事を探した。
目を皿にして求人誌を読んでいると、あった!あった!衣食住つきの職が。


その仕事は川崎市宮前区にある塗装屋さんで、住み込み可だった。
前借りなども相談に応じてくれると、涙がちょちょ切れそうな内容も書いてあり、早速公衆電話を探して電話をさせた。

当然だが、電話をするのは彼である。
話を聞くからすぐにいらっしゃいと言われたようだ。
聞いた道順通りに走って、その塗装店に到着した。

行くと、ちょっと出っ歯のひょろ長い感じで30代半ば、といった感じの社長が出迎えてくれた。
彼の面接なのだが、隣に座った私のガッツも受けが良かったようで、ふたりまとめて採用してくれることになった。

私は住宅塗装なんてやった事はないが、できるかどうかよりもやるかどうかだという理念で生きてきたので、全く躊躇せずに「頑張ります!」と社長に握手をした。

住まいは当面、社長の住んでいるライオンズマンションの6畳1部屋を間借りすることになった。

早速家に連れていかれ、釣り合わないほど美人な奥様にご挨拶した。
翌日からふたりで出勤した。


余計な心配をされたくない私は、
妊娠していることについては黙っておいた。


最初は塗装のトの字も知らないので、養生テープ貼りとか、ゴミ拾いとか、そんなことばかりした。
そんな私を横目にマンキさんは手馴れた様子でニス塗りしている。

サマになっているではないか。

仕事をしているところを見たことがなかったので、ちょっと見直した。

そんな彼にお願いして、少しずつ刷毛塗りや色の調合を教えてもらった。
初体験だったので何もかもが楽しくてしかたなかった。
だから上達も速かった。


そんな私のお腹も日に日に大きくなっていった。
さすがにいつまでも黙っていられない。
ついに社長と奥さんに妊娠のことを告げた。

当たり前のことだが、かなり叱られた。



そして、仕事は即日辞めさせられた。

 

つづく

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