模擬授業77「月の大きさと月までの距離」
模擬授業
2006年11月18(土)。第11回大江戸フレッシュ講座での模擬授業。D表ライセンス。
教科:数学
対象学年:中学生
1.単元構成
地球の大きさ
月の大きさと月までの距離(本時)
地球と太陽の距離
太陽の大きさ
2.指導案
発問1 太陽が月に隠される現象を何と言いますか。
指名「日食です」
発問2 月が地球の影に隠される現象を何と言いますか。
指名「月食です」
発問1 月食が始まってから、50分後。月が完全に隠れます。このとき、月が移動した距離は、何の直径と等しいですか。
指名「月です」
「100分」「150分」(後ろまで歩く)
発問2 200分後、再び月が見え始めます。このとき、月が移動した距離は、何の直径と等しいですか。
指名「地球です」(前に歩く)
発問3 地球の直径は12800㎞でした。月の直径を求めます。12800を何で割ればよいのですか。
指名「(無言)」「急に指されると緊張するよね」指名「4です」「計算した答えをノートに書きます」
「書けた人は答えを言います。いくつですか。」「3200㎞です」「そうだ。月の直径は3200㎞なんだね」
「五円玉を出します」(「机の上に五円玉があるはずです」)
指示1 穴から月をのぞいきます。五円玉の穴と月がちょうど重なるようにのぞくのですよ。。
「五円玉を机におきます」「途中の人もおくのですよ」
説明1 本物の月で同じことをしたとき、先生の目から五円玉までの距離は60㎝でした。
指示2 五円玉の穴の直径は何㎝ですか。定規で測ってごらん。
(入っていく)指名「5mmです」指名「定規を忘れました」「5mm、つまり0.5cmです」
発問4 0.5㎝を何倍すると60㎝になりますか。
「四角を求める式を書きます。」
「式は何ですか。」「60÷0.5です」「計算します」(「できました」)
「答えを言います。いくつですか」指名「120です」
発問5 ところで、月の直径は何kmでしたか
指名「3200㎞です」
発問5 月までの距離を求めます。できた人は見せにきます。
「不安な人は、画面を参考にやります」
最初の人が板書。先着5名まで
発問6 月食から月の直径と地球から月までの距離がわかりました。日食から2つのことがわかります。1つは何ですか。
指名「太陽の直径です」「もう一つは何ですか」指名「地球と太陽の距離です」
「次回は、太陽について勉強しましょう」「授業を終わります」
3.授業の意図
6月21日(夏至の日)の正午、シエネ(アスワン)の井戸の底に太陽がうつる。シエネは北回帰線上に位置している。同じ時刻、シエネから北のアレクサンドリアでは、地面に棒の影ができていた。棒と太陽の光の角度は、円1周の50分の1(7.2°)であった。シエネとアスワンは、当時の単位で5千スタディオン離れている。したがって、地球の一周は、5千スタディオンを50倍した25万スタディオンであることがわかった。
古代ギリシャのオリュンピア競技祭で用いられた1スタディオンは185mで、地球の周長は46250㎞となる。これは、実際の値4万kmを15%上回る数字だ。エジプトの1スタディオンは157mで、この場合、地球の周長は、39250㎞となり、誤差は2%でしかない。授業では、1スタディオンを157mとした。
エラトステネス(Eratosthenes、紀元前275‐194年)は、このような計算で、地球の1周、地球の直径を求めた。エラトステネスは、地球の大きさを初めて測定した人物となった。地球の1周の数値を手に入れたことによって、月の大きさ、地球から月までの距離を求められるようになった。今回の授業である。そして、アナクサゴラスとアリスタルコスによって、地球と太陽の距離、太陽の大きさが計算で求められるようになった。
エラトステネスは、アレキサンドリアの研究機関ムセイオン(museion:museumの語源)の館長を務めていた。
エラトステネスには、「第2のプラトン」とも呼ばれていたことにより、「β(ベータ)」というあだ名があった。何をやっても第一人者にはなれず、つねに2番手であることへの皮肉であったという説もある。
中学2年で、「平行線の錯角は等しい」ことを学ぶ。これは、ユークリッド(Euclid、紀元前300年ごろ)の『原論』(Elements)の公準5から導かれる命題29である。中学3年で、エラトステネスのふるいを習う。中2、中3で地球の大きさを求める授業を実施したい。
シエネとアスワンの距離5千スタディオンは、歩いて測られた。毎年、ナイル川が氾濫した後、地図を作り直すためにエジプト政府が派遣した調査員が歩測していた。日本最初の地図である伊能忠敬の『大日本沿海與地全図』(1821年)にも歩測は用いられている。
エラトステネスが実際に使った棒の影は、日時計の棒(グノモン:gnomon)であると考えられている。
円の1周が360°であることは、エラトステネスの時代より1世紀ほど後のことである。バビロニアの60進法より円の1周を360°とすることは、紀元前2世紀頃から使われるようになった。
エラトステネス以前、アリストテレス(Aristoteles、紀元前384‐322)は、地球の1周を7万km、アルキメデス(Archimedes,紀元前287‐212年)は4万8千kmと文献に残しているが、測定方法が書かれていない。
地球の1周が4万kmとなるのは、1971年、フランスの国民議会で、「地球の北極から赤道までの子午線の長さの1000万分」と1メートルと正式に採用したからである。その後、「メートル原器」によって、1メートルを定めた。メートル原器は、それ自体の長さではなく原器の両端付近に記されたそれぞれの目盛の距離が摂氏零度の時に1メートルとなるよう設定されている。1983年の第17回国際度量衡総会において、光速度を基準とする現在の定義「1メートルとは、1秒の299792458分の1の時間に光が真空中を伝わる行程の長さである」が採用された。
今では、カーナビゲーションシステムや携帯電話についているGPS(Global Positioning System)を利用して、2点間の緯度と距離が分かれば、地球の1周が簡単に求められる。
また、月食の写真が1枚あれば、月と地球の比もわかる。地球の影の3点を通る円を垂直二等分線で作図し、写真の月と作図した地球の比をもとめればよい。
実際の数値を、以下に示す。
地球の周長 40,100㎞
地球の直径 12,750㎞
月の直径 3,480㎞
地球と月の距離 384,000㎞
太陽の直径 1,390,000㎞
地球と太陽の距離 150,000,000㎞
<参考文献>
『ビックバン宇宙論(上)(下)』、サイモン・シン著、新潮社
『世界でもっとも美しい10の科学実験』、ロバート・P・クリース著、日経BP社
『数学大好きにする“オモシロ数学史”の授業30―話材+授業展開例+ワークで創る』、上垣 渉著、明治図書
『モノグラフ数学史』、矢野健太郎著、科学新興新社
TOSS授業ライセンスD表評価項目
(1)授業の始まり(15秒)のつかみ 10点→8.5
(2)子どもへの目線 10点→7.5
(3)あたたかな表情・対応 10点→8.5
(4)明確な発問、指示 10点→9
(5)心地よいリズム 10点→8.5
合計 42点 22級
検討
小貫義智氏
1.テンポがいい。
2.淡々とすすめてる。
3.もう少しほめると良い。
4.計算が難しかった。
5.実際の授業では、もっと計算ができる。
6.参考文献の書き方が完璧。
桜木泰自氏
1.美しい数学はこうやる。
2.1番後ろまで入って行ったのがすごい。
分析
1.テンポはいいが、あわただしい感じがする。「間」を意識する。
2.目線の動かし方が早い。目線をとめる。
3.五円玉の作業の時間をもう少し多めにとる。
4.手で生徒を個別指名する技能を身につける。
5.発問に答えさせるとき、そばまで行って個別指名するのか、手で指名するのか、全員に答えさせるのか、前から指名するのか、生徒の中に入っていくのか、その必然・必要性を考える。
6.ノートに書くなどの作業指示を確認するために、生徒の中には入っていく必要はある。
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