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模擬授業78「月の大きさと月までの距離(3)」

模擬授業

2006年12月1日(土)。若葉例会での模擬授業。

教科:数学 
対象学年:中学生

1.単元構成
地球の大きさ
月の大きさと月までの距離(本時)
地球と太陽の距離
太陽の大きさ

2.指導案
発問1 太陽が月に隠される現象を何と言いますか。
「みんなで、さんはい」「日食です」「そう、日食です」
発問2 月が地球の影に隠される現象を何と言いますか。
「月食です」
発問1 月食が始まってから、50分後。月が完全に隠れます。このとき、月が移動した距離は、何の直径と等しいですか。
指名「月です」
「100分」「150分」
発問2 200分後、再び月が見え始めます。このとき、月が移動した距離は、何の直径と等しいですか。
指名「地球です」
発問3 地球の直径は12800㎞でした。月の直径を求めます。12800を何で割ればよいのですか。式をノートに書きます。
「式は何ですか」指名「12800÷4です」
「計算します。答は何ですか」「3200です」「そうだ。月の直径は3200㎞なんだね」

「五円玉を出します」
指示1 穴から月をのぞいきます。五円玉の穴と月がちょうど重なるようにのぞくのですよ。
「あと10秒。・・・・・5,4,3,2,1。五円玉を机におきます」(全員置いた)
説明1 本物の月で同じことをしたとき、先生の目から五円玉までの距離は60㎝でした。
指示2 五円玉の穴の直径は何㎝ですか。定規で測ってごらん。
指名「5mmです」「6mm」「5mm」「5mmとします。つまり0.5cmです」
発問4 0.5㎝を何倍すると60㎝になりますか。
「四角を求める式を書きます。」
「式は何ですか。」「60÷0.5です」「計算します」(「できました」)
「答えを言います。いくつですか」指名「120です」
発問5 ところで、月の直径は何kmでしたか
指名「3200㎞です」
発問5 月までの距離を求めます。できた人は見せにきます。
「不安な人は、画面を参考にやります」
最初の人が板書。先着5名まで
発問6 月食から月の直径と地球から月までの距離がわかりました。日食から2つのことがわかります。1つは何ですか。
指名「太陽の直径です」「もう一つは何ですか」指名「地球と太陽の距離です」
「次回は、太陽について勉強しましょう」「授業を終わります」

3.授業の意図
 6月21日(夏至の日)の正午、シエネ(アスワン)の井戸の底に太陽がうつる。シエネは北回帰線上に位置している。同じ時刻、シエネから北のアレクサンドリアでは、地面に棒の影ができていた。棒と太陽の光の角度は、円1周の50分の1(7.2°)であった。シエネとアスワンは、当時の単位で5千スタディオン離れている。したがって、地球の一周は、5千スタディオンを50倍した25万スタディオンであることがわかった。
古代ギリシャのオリュンピア競技祭で用いられた1スタディオンは185mで、地球の周長は46250㎞となる。これは、実際の値4万kmを15%上回る数字だ。エジプトの1スタディオンは157mで、この場合、地球の周長は、39250㎞となり、誤差は2%でしかない。授業では、1スタディオンを157mとした。
エラトステネス(Eratosthenes、紀元前275‐194年)は、このような計算で、地球の1周、地球の直径を求めた。エラトステネスは、地球の大きさを初めて測定した人物となった。地球の1周の数値を手に入れたことによって、月の大きさ、地球から月までの距離を求められるようになった。今回の授業である。そして、アナクサゴラスとアリスタルコスによって、地球と太陽の距離、太陽の大きさが計算で求められるようになった。
エラトステネスは、アレキサンドリアの研究機関ムセイオン(museion:museumの語源)の館長を務めていた。
エラトステネスには、「第2のプラトン」とも呼ばれていたことにより、「β(ベータ)」というあだ名があった。何をやっても第一人者にはなれず、つねに2番手であることへの皮肉であったという説もある。
中学2年で、「平行線の錯角は等しい」ことを学ぶ。これは、ユークリッド(Euclid、紀元前300年ごろ)の『原論』(Elements)の公準5から導かれる命題29である。中学3年で、エラトステネスのふるいを習う。中2、中3で地球の大きさを求める授業を実施したい。
 シエネとアスワンの距離5千スタディオンは、歩いて測られた。毎年、ナイル川が氾濫した後、地図を作り直すためにエジプト政府が派遣した調査員が歩測していた。日本最初の地図である伊能忠敬の『大日本沿海與地全図』(1821年)にも歩測は用いられている。
 エラトステネスが実際に使った棒の影は、日時計の棒(グノモン:gnomon)であると考えられている。
 円の1周が360°であることは、エラトステネスの時代より1世紀ほど後のことである。バビロニアの60進法より円の1周を360°とすることは、紀元前2世紀頃から使われるようになった。
エラトステネス以前、アリストテレス(Aristoteles、紀元前384‐322)は、地球の1周を7万km、アルキメデス(Archimedes,紀元前287‐212年)は4万8千kmと文献に残しているが、測定方法が書かれていない。
 地球の1周が4万kmとなるのは、1971年、フランスの国民議会で、「地球の北極から赤道までの子午線の長さの1000万分」と1メートルと正式に採用したからである。その後、「メートル原器」によって、1メートルを定めた。メートル原器は、それ自体の長さではなく原器の両端付近に記されたそれぞれの目盛の距離が摂氏零度の時に1メートルとなるよう設定されている。1983年の第17回国際度量衡総会において、光速度を基準とする現在の定義「1メートルとは、1秒の299792458分の1の時間に光が真空中を伝わる行程の長さである」が採用された。  
今では、カーナビゲーションシステムや携帯電話についているGPS(Global Positioning System)を利用して、2点間の緯度と距離が分かれば、地球の1周が簡単に求められる。
また、月食の写真が1枚あれば、月と地球の比もわかる。地球の影の3点を通る円を垂直二等分線で作図し、写真の月と作図した地球の比をもとめればよい。
実際の数値を、以下に示す。
地球の周長         40,100㎞
地球の直径         12,750㎞
月の直径           3,480㎞
地球と月の距離     384,000㎞
太陽の直径       1,390,000㎞ 
地球と太陽の距離 150,000,000㎞
<参考文献>
『ビックバン宇宙論(上)』、サイモン・シン著、新潮社
『ビックバン宇宙論(下)』、サイモン・シン著、新潮社
『世界でもっとも美しい10の科学実験』、ロバート・P・クリース著、日経BP社
『数学大好きにする“オモシロ数学史”の授業30―話材+授業展開例+ワークで創る』、上垣 渉著、明治図書
『モノグラフ数学史』、矢野健太郎著、科学新興新社
『宇宙を測る―宇宙の果てに挑んだ天才たち』、キティー・ファーガソン著、講談社
『なぞとき感覚で挑戦!数学でわかる宇宙と自然の不思議』、ニュートンプレス
『頭が良くなる図解「数学」はこんなところで役に立つ』、白鳥春彦著、青春出版社

検討


1.「対象学年中学3年、相似」と入れる。
2.単元構成をもっとしっかり書く。時数も入れる。
3.「現象」は「こと」で十分。
4.日食は、先生が説明する。「太陽が月に隠されることを日食と言います」
5.「月食の動きを見ていきます」などの一言がないと唐突に感じる。
6.「50分で移動した距離は月1個分です」「200分で移動した距離は月何個分ですか」「4個分です」とする。
7.青い線はプロジェクタでは消えてしまうかもしれない。黄色の線がいい。
8.「50分」「200分」「12800÷4」がごちゃごちゃしている。色を分けるとか線を引くことで、一目でわかる工夫をする。
9.五円玉の直径を定規で測る必要はない。先生が言ってしまえばいい。
10.60÷0.5は、0.5→60、3200→月までの距離のように、表すとわかりやすい。
11.0.5の120倍が60の120はすぐに出る。式60÷0.5はなくていい。
12.月の直径を確認する必要はない。「月の直径は3200㎞でしたね」でいい。
13.日食の話はいらない。
14.参考文献を10冊以上読むようにする。リストも作っておく。

分析


1.生徒がわかるところは、すべて発問で確認していた。
2.ひと言の説明でわかるならば、説明することで授業がすっきりする。
3.式よりも視覚的にわかりやすいものにする。
4.授業を組み直すことが難しくうまくできなった。模擬授業で検討されることで、煮詰まっていた授業が進展できる。

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