小説 ZBrushCore超入門物語

第1回世界の始まり。

「ライトボックスを閉じるのだ」
そのとき頭上に高らかに声が鳴り響いた。
この目の前に出現したマス目状にならんだ立体たち。このマス目を「ライトボックス」というのだろう。
私でもそれは分かった。
人生とは不思議なもので、意識せずとも自分がいるべきマス目にすとんと落ちていく。
各マス目には様々な未来や目的を持ったものたちがいる。その者たちをこの世界ではこうよぶ。
「3Dモデル」

だが今はこの様々な形の3Dモデルたちのリストを閉じなければならない。それが私の最初の役目なのだ。
「ライトボックス」を閉じると、目の前に球体が出現していることがわかった。なんと美しい形状だろう。どこまでつづく曲線が地平の先で結びつき球体という形を成すのだろうか。
この美しい球体が多くの面の集合体にすぎないということがわかるのはもっと先のことだ。
この球体もまた「3Dモデル」だということだ。
「この美しさを崩していくのだな」
私はひとりごちた。

「しかしまてよ」
緊張が走る。手にじっとり汗もかいている。
「この球体は今どこに浮かんでいるのだ?」
素朴な疑問である。
モノがあるのだとすれば、モノが存在している「場」があるはずだ。宇宙とはそういったものだ。わずか一瞬のうちに私の脳神経にそんな思いがめぐったとき、再び天から声が響いた。

「シーンだ」

”シーン?シーンですか?”
私は天の声の正体をつかめないまま、そう尋ねた。

「シーンだ。その球体はシーンとよばれる空間に存在するのだ。その空間に重力はなく、ただ存在しているといってよいだろう。その”最初の個体”である球体は”シーン”にただあるのだ」

そういうことか。
私は注意しなければならない。
すみきった美しい曲目には、あるひとつの恐怖が現前として存在している。私が急ぎ、あやまってシーンに関与すれば均衡はくずれて、またたくまにパニックにおちいるだろう。


そうわかっていたはずだった。。。

心が無為に急いていたのだろう。シーンに私は触れてしまったのだ。球体と言うかっこたる物質に触ることなく、先にシーンに触れてしまったのだ!


空間をつかさどるシーンはゆらぎ、そこに存在していた現在唯一の物質「球体」はぐわんと回転して、私を虚無の視点へと導いてしまった。
しかも、虚無へと導かれたことに気づかないままにだ。

続く

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