小説・ミニマリストM子の憂鬱【後編】

ミニマリストM子は、それをどうやって捨てるか考えた。大事にしすぎて、簡単に捨てるのはもったいない。
ミニマリストM子が大切にしてきたそれは、この世に生を受けたとき与えられたものだ。
40年という月日は嫌でも劣化を招いている。真っ白だった肌はくすみ、髪は艶やかさをうしなった。誰かにもらってもらうにも、いらないと言われてしまうだろう。誰が好き好んでもらってくれるだろう。相手を選ばなければ、夜の繁華街で探してもいい。
40年もそれを守ってきた女は気持ち悪いだろうか。それを大切にするあまり、彼氏もできなかったのだと、今では思う。なんとかしなければ。でも、大事にしてくれる人にあげたい。一生大事にしてくれる人に。
ミニマリストM子は考えた。
アプリで探そう。
アプリなら条件に合う人がいるかもしれない。ミニマリストM子の意思はかたまった。アプリに登録しよう。
まずは写真をとらなければ。
きれいに撮れば、高値で売れるかも知れない。
ミニマリストM子は、それの写真を撮った。
そして、名前を入力した。
メルちゃん、と。

-完-
※メルちゃんは人形です。パイロットインキから発売中

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