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蓬莱の妃 0章 『かみくだり』 §4

登場人物紹介

 宮内 輝夜(みやうち かがや):富士吉田市の代表的神社の一つである旧社明香神社の宮司をしている宮内家の長女。普段はニート女子をしているが、この地の古代にあったとされる『富士王国文明』の調査・発掘を行っている。その一方自らの美貌が災いにより(本人談)雑誌等にてファッションモデルをしている。元々宮内家の血筋として受け継がれているとされる能力により『仲介者』という仕事も行っている。能力において日本でも世界的でもトップクラス。

 宮内 咲夜(みやうち さくや):宮内家の次女。帝都東京大学出身で都内私立大学にて薬学研究の分野で大学院生をしながら個人企業の実質的代表者及び魔法使い研究SNSカンパニー『ウィッチ ド ブリュー』代表者。容貌は姉とは双子ながらも正反対の可愛らしさのある女性だが、言葉遣いに関して(特に姉に対して)は激辛でその他の人に対しては本人から壁を作っている節もある。彼女も姉と同様に能力者であり『仲介者』として活動もする事もある。

 黒田 光流(くろだ みつる):姉妹の名付け親であり二人の世話人。二人の世話以外にも地元の観光協会認定のトレッキングコンシェルジュ。父親の影響で発掘調査や古文書解読も。一応能力者であるが未開発。

 宮内 笑美(みやうち えみ):故人(2325年時点)。宮内輝夜・咲夜姉妹の母親であり、光流の実姉。但し血は繋がってはいないとの事らしいが・・・

 宮内 柾城(みやうち まさき):宮内姉妹の父親。光流とは母親が同じなので光流が兄に当たる。現在の富士明香神社の宮司をしている。

 宮内 荒太(みやうち あらた):宮内姉妹の祖父。前富士明香神社の宮司。現在は地元の相談役みたいな事をしていながらも孫である姉妹の陰陽師としての『教官』をしている。元『仲介者』であり裏組織である【南朝派陰陽師】の一角としてこの国の代表の立場を担っている。性格は周りに対してどうしても言い方で厳しい事を言いがちな人間と思われている。本人もそんな役回りをしていると自覚している。


§4 かみくだり(回想)


《ここは姉妹が産まれた日の時の状況が書かれている。その時の黒田(当時の名字は【宮内】)は都内大学に通っている大学4年生の身分だった。》

 西暦2305年8月6日、その日は朝から雨が降ったり止んだりしており、湿気を含んだ空気が僕の肌と肺にまとわりつく感じをしていました。

 更に此処の所必要以上に焦りが有ったせいも有り、蒸し暑さを含んでいる外気からの湿気が脳の中にまで入ってきたかと思われるぐらいに頭の回転が鈍くしていました。

 いつもならこの家の端末のアプリで姉さんの体調などの状況を記入していますが、ここ数日富士山の火山活動による北麓地域の広範囲に電波障害が起こっているだけでなく、僕の端末までも誤動作しまくっておりマップ機能を始め大多数のアプリが使えなくなっていました。

 そういうプチパニック状態の中とうとう来るべき事が起こってしまいました。
 ちょうど夕ご飯の支度をしようと思いキッチンに向かったときに姉さんがリビングのソファーで横たわっており姉さんは自分に脂汗を浮かばせながら、

 「みー君、救急車呼んで。う、産まれそうだから。」

 と非常に苦しそうに言っていました。

 僕は病院に連絡をと自分の端末を立ち上げようとしたがその時も反応しなかった。
 最近になって僕の端末の調子が悪く、いざという時に動かないと困る状況になるので必要な時に電源を入れていましたが今はその電源すら入らない。
 そうゆう事も一応想定はしていたので頭を切り替えて家の端末を使って慌てず連絡することにしました。

 その間姉さんは必死に堪えており、僕は予めこの時の為の準備していたものを手早く準備しながら姉の表情をチラチラと確認し病院からのお迎えを待っていました。
 連絡してから5分も経たずに病院から産科対応の看護師さん2人が車で来て戴きまして、僕にとってこのたった5分間という時間をこれ程酷く長く感じたのは人生において初めてでした。

 看護師さんは姉の両脇を抱え込まれながら支えて搬送用の車椅子に座らせようと苦心しているなか、必死に我慢している姉の表情が有り急がなくではならないと分かっていたものの、看護師さんはそれ以上に冷静な対応でなるべくショックを与えないようにゆっくりと車椅子に座らせた。座らせた姉を手際良く車に入れ程なく搬送出来る体制になり出発できるようになった。
 一緒に乗って行きますか?と看護師さんから聞かれたものの、僕はまだ他にも連絡しないといけないのでと言って断りました。
 一般的に通常救急の場合は大昔から119なりアプリでエマージェンシーサインを送る所だが、最近この地域ではそのアプリが繋がら無いというトラブルが頻発しているので柾城さんや姉を担当している医師からも直接病院に連絡するようにとお願いされていました。
 で、普段なら本家(宮内家本家)からお手伝いさんもいるのでしたがよりによって自分以外に誰もいない時に起こらなくてもと思ってしまいました。

 無事姉が病院に搬送されるのを見届けてホッとしたものの、まだこれからやる事が沢山ありました。
 病院行く前に宮内本家への連絡をして事の次第を伝えましたが、弟君は市の災害対策会議で父親に代わって出席してるとの事で不在で、荒太さんも祭事からまだ戻っていない事を町田さん(本家のお手伝いさん)から聞きました。
 ・・・今は自分しか居ないからやれることをするしかないかと腹をくくらざる得なかった。

 よくこういう時に限って誰もいないという話を聞きますけど今回強ちこれは間違っていないのかな、という多少のボヤキが入りながらも僕が病院に行くための自動タクシーが来るまで病院に行く準備をしておりました。
 僕が粗方準備を終えて出発しようと思っていた時、町田さんから連絡があり、彼女が弟くんに『奥さんが産気付いて産まれるという事で病院に向かって下さい』という事を伝えたものの、今日は日本政府からの調査団も来ているのでそう簡単に抜けることができ無いという事を取り次いで戴いた方から話しでした。

 実は他にも僕がわざと連絡をしなかった人がいる。その人は笑美の母親であり現在の僕の実母であるあつこだ。

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富士吉田の地域のとある古史古伝に因んだファンタジー(創作)になります。今回はその最初の話しになります。

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