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蓬莱の妃 2章1節 《火の章》 §2



登場人物


 宮内 輝夜(みやうち かがや):富士吉田市の代表的神社の一つである旧社明香神社の宮司をしている宮内家の長女。普段はニート女子をしており、本人が出かけるのはこの地の古代にあったとされる『富士王国文明』の調査・発掘を行う時か、自らの美貌が災いにより(本人談)雑誌等にてファッションモデルで都内に出かける時しか無い。元々宮内家の血筋として受け継がれているとされる能力により『仲介者』という仕事も行っている。能力において日本でも世界的でもトップクラス。

 宮内 柾城(みやうち まさき):宮内姉妹の父親。光流とは母親が同じなので光流が兄に当たる。現在の富士明香神社の宮司をしている。

 宮内 荒太(みやうち あらた):宮内姉妹の祖父。前富士明香神社の宮司。現在は地元の相談役みたいな事をしていながらも孫である姉妹の陰陽師としての『教官』をしている。元『仲介者』であり裏組織である【南朝派陰陽師】の一角としてこの国の代表の立場を担っている。性格は周りに対してどうしても言い方で厳しい事を言いがちな人間と思われている。本人もそんな役回りをしていると自覚している。



§2 魔獣より怖いお爺さまと対峙【午前9時過ぎ 輝夜語り】


《輝夜は今朝方の夢で見たガジェットの『絵本』をどうしても見たかったので、嫌嫌ながらも黒田が本家まで送る事によって久しぶりに来ることになった。》


 何故嫌々本家に行くことになっても行こうかと思っていても、正直それらの明確な理由を言える訳では有りませんが、今どうしてもお母様が残した【絵本】が観たかったです。

 それは私、と言うより今こそ私達姉妹にとって必要な物が入っていると言うイメージを見た夢から強く感じましたので、出来れば来たくなかった此処にガジェットとソフトを取りに来たのです。

 たかが本家に行くだけと言いながらも、だらしない格好で行くと何かしら言われそうだったので、私のクローゼット内で最近よく着ている黒のロングドレスに太めの赤の革ベルトをしてモデル仕事で都内へ出掛ける時に近いような服装をしています。

 此処まで半ば強引に送ってくれた黒田さんが家の扉を開けると、お父様がちょうど出掛ける所だったので黒田さんは私に中まで入らず玄関先にて一礼をして、

 「ではお嬢様、私はこれから一昨日された調査報告書を作って午後手嶋屋さんに届けに行きたいものですから、これにて失礼します。
 あっ、弟君。今日お嬢様は探し物があると言う事で寄っただけなのであまり構いすぎなくてもいいよ。」

 と言う捨て台詞をしてから家に戻って行きました。でもその時同時に黒田さんの思考からかどうか解りませんが、

 『咲夜お嬢様の夢について何となく引っ掛かるので、出来れば咲夜お嬢様一人にして置くのは良くないと思うので直ぐに戻らないと。』

 というような言葉を拾ってしまいました。でも私にとって個人的にこれから大変かなと感じましたから、今はその事に集中したいと思いリビングまで向かう事にしました。
 幸い黒田さんが一言言ってくれたおかげで、玄関先に待ち構えていた屁理屈怪獣ことお父様とは簡単な会話で、

 「た、だいまです。」

 「お、おう、久しぶりだな輝夜。これから年終わりの祭事の話し合いするからもう出る。」

 と言う非常にぎこちない会話だけで済ます事が出来、お父様は早々家から出ていきました。

 しかしながらこの本家にはその屁理屈怪獣より遥かに厄介な存在が私が此処に来た用件をあたかも判っていた感じで待ち構えていました。

 その待ち構えていたのが私の祖父であり前富士明香神社宮司である荒太爺様です。

 流石に用事だけ済ませて立ち去ると言う無礼は出来なかったので、お爺さまに挨拶だけしようと思ってリビングに入ったら、お爺さまは存在感たっぷりな感じで鎮座している黒革のカッシーナのリビングチェアにどっしりと座っておりました。

 そのお爺さまの手前にあるテーブルの上に私が此処で探そうとしていたPVRのソフトとガジェットがきちんと揃っておりました。

 今お爺さまが座っているロングチェアは、古い母家にて私たちが産まれる前から有った物と同じ物を今の母家が竣工した時と同時期に購入し直した物と聞いていました。
 そのチェアは既に10年以上経って多少表面には使いこなされていた感じのひび割れが入っていたものの、全体的に丁寧に手入れされていたので新品に近い光沢を未だに保っている感じでした。

 そこに座っていたお爺様は私の方を無言で睨みつける訳では有りませんでしたけどいつも以上に威圧感を感じていました。

 正直な事を言えば、本家に他に誰かしら居ればもう少し空気が緩むかと思いましたけど、バツの悪いことに、と言うよりお爺様からの意図によっていつも世話をしている方や昨日本家に泊まったとされる旧小山村から助け出した子供達もおらずこの広めのリビングで二人っきりでした。

 私も流石に用事だけ済まして逃げる訳にもいかないかなと感じまして、無言でお爺さまの眼の前の席に座り対峙する形になってしまいました。

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既刊している電子書籍が1記事1万字以内程度に収まるように再編集しておりますので空いた時間に読めます。

富士吉田生まれ育ちの美人姉妹で能力者である宮内輝夜・咲夜姉妹が活躍するファンタジー小説の本編の2章目にあたる《火の章》の1節目の作品になり…

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