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蓬莱の妃 1.5章 《火の章へ》 §6(終わり)



前振り(イレギュラーですが)


来て戴いてありがとうございます。
今回は偶数回ですが、この章の最後と言う事で前振りを入れさせていただきました。
この後の章(2章 火の章)は一日の中での出来事を表した話になりますので色んな場所にて『事件』が起きてしまいます。
それを踏まえた上でこの章をご購読されると判りやすくなるかと思います。
では、今後ともよろしくお願いいたします。

因みに今回は1.7万字と言う大ボリュームになってしまいました。長文ですがご購読をお願いします。



登場人物


 東乃 遠行(とおの おんぎょう):出生場所、年齢不明の京都在住の修験者。陰陽道に長けているものの性格に難があり、元々所属していた所から追放になってからはフリーで京都特別地域内にて裏仕事を行なっている。【火】の能力者として不完全ながらもトップクラスの能力を持っている。性格は起伏が極めて乏しいが相手に対して煽る傾向がある。

 久住 静佳(くずみ しずか):富士見明香神社の総巫女長をしており、富士吉田にて副メイド長をしている久住真由佳は静佳の姉である。能力者として姉と実力的に拮抗しているものの特段突き抜けている能力は持っていない事をコンプレックスにしている。しかし周囲の巫女からは絶対の信頼を持たれている。その他UPRAでのエージェントでもあり、その際の階級自体は無いが『マスターランカー』という中隊長相当の権限が与えられ海外で幾つかの作戦での成果を得ている。性格は姉よりも快活で食べ歩きを趣味にしている。姉とは違い普段は洋服しか着ておらず巫女服はあくまでも仕事着として着ているだけと公言しているが、食べ歩きや洋服代の為の資金調達の為している【裏バイト】では姉と一緒に和服姿を撮ったエイリアス電子ブロマイドやそのアバターキャラである『&meets(あんみーつ)』として活動しているがそれを神社にも周りにも言っていない。

 万代 美世(まんだい みよ):富士見明香神社の巫女長の一人で20代で就任するぐらいの有能な能力者でもある。総巫女長の静佳の事を何より尊敬をしており大の男嫌い。性格は真面目で努力家の一言で融通が利かない。

 久住 真由佳(くずみ まゆか):表向きには宮内本家の副メイド長でもあり、黒田光流夫人の黒田紗夜子の会社の社外秘書をしている。元々は出身地でもある奈良の丹波家を中心にしている隠密部隊「鴉」のメンバーの一員で富士吉田の宮内家には当初『派遣』という形で入ったものの、彼女が『当主』と呼んでいる荒太の為人に感銘し正式に宮内家のサーバントとして仕えるようになった。純粋の人間ながらも『仲介者』として日本国内では指折りの実力を持っている。性格は普段のメイドや秘書という仕事が適任というぐらいの冷静さともてなし力を備わっている女性だが、富士宮にて巫女をしている妹の事を常に心配し溺愛している。普段から和服しか着ている姿しか見た事ないのでお淑やかと思われているが術系より格闘系中心で戦う女性。



§6 10月~11月8日富士駅~富士吉田にて、東乃遠行


《9月に奈良の我真家を焼き討ちした後、いち早く奈良から逃亡した我真新を追うために全通して然程経っていない東海道本線で静岡県富士市付近まで着いたのだが、遠行は富士駅にて途中下車をせざる得なかった。》


 静岡県JR東海道線富士駅。駅前にはバスロータリーや無人タクシーの待機スペースがあり、駅目の前には中層レベルのオフィスビルがメインストリート前に林立していると言う特段特色がある訳では無い地方の駅であるが、この駅からほんの数キロ先には嘗ては東京まで通っていた新幹線の駅(現在はこの駅が暫定的に終着駅になっている)があり現在はこの南口が乗り換えの連絡口として整備されていた。

 10月某日、その駅の北口入り口付近に現在ではなかなか見ることが出来ない行者姿の男が何故か4人の黒服の男女に囲まれていた。
 囲まれた男は表面的に多少困惑した様な表情をしていたものの余裕すら感じる節も有った。
 黒服の一人の男がその行者姿の男に対して高圧的な言葉をかけながら今から拘束しようと構えていた。

 「そちらの行者服の方、貴方は奈良の我真家襲撃に加担していた東乃遠行氏とお見受け致します。我々としては必要以上に手をかけたくないのでこのまま大人しく投降を願い致しますけど。」

 「・・・ふ、投降、ですか。で、俺が今の呼びかけで投降するとお思いでしょうか?・・・ならばどうしようも無くおめでたい思考の持ち主ですな。
 それで、貴方達のレベルで俺は捕まえるとか・・・既に車内に居た貴方達数人から無理くりこの駅で降ろされまして正直少々イラついておりましてね。

 俺のストレス発散への一助になって戴けるならどうぞ手をかけて戴いても構いません。
 ただ、それらが出来るかどうかは貴方達次第ですがな。」

 と遠行は言った後、先ず先程高圧的に投降を促した黒服に瞬時に近づき、右手でその男の頭を掴み左手で印を組み、頭を掴んでいた右手を左手でマッチを擦る様な感じの動きをした後、頭を掴んでいた右手の手のひらから青白い炎が噴き出すと頭を掴まれていた男の上半身が一瞬の内に炭化してしまった。

 「ふむ、やはり能力者相手に使うとよく燃えますな。少なくても今燃やした人間はそこそこの能力が有った訳だ。残った貴方達はどのぐらい燃えてくれるのでしょうか。」

 と遠行は口角をわざと上げながら黒服達を煽ったが、黒服たちは今見せられた惨状を目の当たりにして腰が引けてしまったのか迂闊に近づこうとはしなかった。

 遠行はそれも既に計算づくだったらしく今度は黒服の一人の元へ瞬時に近づいて先程の男と同じように右手で頭を掴んでから左手で印を組むことはせずに右手から青白い炎を立てて同じ様に上半身を一瞬で炭化させてしまった。」

 「あと二人ですね。男と女、一人ずつですけどどちらから片付けましょうか?」

 更に煽る口調で捲し立てようとしていたが、遠行は廻りに人が居なさすぎる事に気がつき、これを【仕掛けた人間】に対して声を荒げようとした時若い女性の声で、

 「では、私が貴方のお相手を致しましょう。その為に『フィールド』を造っておきましたので。」

 と言い、いきなり遠行の1メートル手前に出現した。

 「お初に申し上げます、京都の野良犬さん。私は富士宮で巫女をやっております久住静佳と申します。

 当初姉からは今日こちらの方に奈良の我真新様がこの路線を通るとの連絡が有ったものですから、私は是非とも新様をこの地にてご接待致したくこの駅にてお待ちしておりましたけど、どうやら今しがた何かしらの理由で『通過』されてしまったとの事で私は大変落ち込んでおります。

 しかしながら此処でお待ちしてて良かったですわ。姉からは一応同時期に京都から新様への刺客が来るとの事を言われましたので、その刺客さんにお会い出来、新様にご接待出来なかった分心を込めてご接待出来るので私は嬉しく感じておりますわ。」

 久住は見た目で遠行より40センチ近く身長が低く、体格も特に丈夫とは思えなかったものの、燃やした黒服達とは別格のエネルギー量を所持していると感じた。
 それでも負ける事は無いと思っていたので先程黒服達に言った口調とは違い紳士的に応対をした。

 「久住さん、ですか。丁寧に名乗って戴き有難うございます。ただ、これから貴方を此処で葬ってから貴方がお待ちしていた新氏を追っかけないといけないものですから。」

 と遠行は至近距離に居た静佳の頭を掴み術を発動させようとした時、遠行は急に息苦しくなってしまい手を頭から離そうとしたら、華奢な静佳の左手が遠行の右手首を掴みながら遠行の脳内にテレパスで、

 『私も火の扱いには小慣れておりまして、ついでながらその対策に多少ながら熟知しております。という事で私と貴方の廻りにだけ空気を極めて無の状態にさせて戴きました。

 あと、貴方が悦になって燃やした人間ですがあれは全て私の作った【ドール】ですの。ですから動力が念でですから術に反応するのは当たり前ですね。
 それを解っていらっしゃらなかったぐらいですから、こんなトラップにかかってしまうのですわ。貴方みたいな危険人物に生身で向かうような無謀者はうちの人間には居ませんわ。残念でした。

 まぁ、此処までいらっしゃったのですから先程私が申しましたけど、ちゃんとご接待しないと思いましてこんな術も有りますという事を身をもってお教え差し上げますから、是非ご堪能を。』

 と伝え、掴んでいた右手首を締め付けながら遠行の体のみに『重力操作(グラビティプレス)』を作用させて遠行の体を地面に押し付けようとしていた。

 『ん、なんだこの馬鹿力は・・・少々能力を軽く見ていたが何とかしないと。』

 と遠行は体全体に強烈な圧力に何とか耐えながら活路を見出そうとしていた時、ほんの少しの空気の流れが生じている隙間を探る事ができ、その隙間を最大限利用するように遠行自身と静佳の体全体に炎を纏わせ静佳が作った結界を使って丸焼きをしようとした。

 その結界内に纏わせた炎によって二人は体内にまで熱気が上がってしまい、流石に静佳は苦しくなり結界を解き一時的に呼吸困難な状態になりその場で崩れるように倒れてしまった。

 遠行はその機会を逃さないように静佳にトドメを刺そうと思ったものの、遠行にも静佳と同様なダメージを負ってしまった為これ以上の深追いはせず、履いていたパンツのポケットに入れていた【けむりだま】を床に叩きつけて自分自身に『スティルス』をかけてその場を立ち去った。

 そのけむりだまは物理的な視界を遮るだけではなく、その場にいる相手の能力(特にスキャン系の能力)をほんの数分撹乱する事ができ、遠行が使ったものには更に足跡を追跡できないように痕跡を広範囲に消す事が出来るようになっていた為その場に居た静佳や黒服、その後援軍にきた者から撒くことができた。

 遠行は約30分程度のスティルスを施しながらなるべく遠くに行くことはできたが、遠行にとってこの地は全く初めての場所だったので術を解除したあと自分の所在を確認するのに時間がかかってしまった。

 「・・・ん、危なかった。危うく依頼を果たせず塵芥になる所だった。能力が高い奴はいざという時には自分の命を捨てる事が出来るのが多いと言っていたが・・・冗談で言っていた話じゃなかった。
 あの久住という女を殺す事は出来なかったが取り敢えず当分は使い物にならないだろう。

 ・・・ん、それにしても此処は何処だ。俺は方向を読むことだけではてんで駄目だから・・・まぁ端末で調べれば良いか。」

 と背負っていたバックパックから端末を取り出してアプリで自分の周りの状況を調べ始めた。
 あれだけの炎に包まれながら背負っていたバックパックには殆ど表面にダメージらしいものが無かったのは遠行がこれに術耐性の法式をかけているので、ある程度の術や物理的ダメージを無効にしていたとの事。それは修行する人間にとっては当たり前にやっている事だった。

 遠行はマップアプリで暫くの間この近辺を調べながら呟いていた。

 「どうやら本来行く予定していた伊豆とは逆方向に来てしまった。この騒ぎでもう俺の事はあの奈良の坊ちゃんに伝わっているだろう。
 あの化け物坊っちゃんを仕留めるには俺の実力では不意打ちで自爆するしか勝ち目ないから・・・もう始末するのは無理だな。」

 と遠行の言葉から悔しさが有ったものの、この《帝》からの指示である我真新の殺害というのはそうそう出来ないのは計算ずくだった事は解っていたので、遠行には『もう一つ』の指示がなされていた。

 遠行はマップを見ながら既にもう一つの指示に向けて動こうと今いる場所から目的地へのルートを探っていた。
 すると今いる場所が富士川の右岸の河原で、此処から北方である山梨県方面に行ける非電化の列車路線がある事がわかったのでマップを操作しながら思考を巡らせた。

 「どうもこの路線は上に曲がってからこの川沿いに戻るように走っているらしい。
 さっきの久住という女は富士宮の巫女と名乗っていたな。マップを見ると富士宮という地名が有るからそっちの方向に行くのは得策ではない。此処やその近辺の駅もあと数時間をすれば奴らが大挙して見張っていくだろうな。
 ならばその川の左岸に渡って先の駅まで徒歩で行った方が良い。」

 と思考の堂々巡りから踏ん切りを付ける事ができ、その場で数分間スティルスをかけて今まで着ていた行者服からカジュアルな服装に着替えた。

 今いる場所から2キロ先歩いた場所に対岸に渡れる橋を見つけたので念のために最大限の警戒を施しながらも対岸に渡る事が出来た。
 幸いにも渡っている間に追手が放っていると思われる※1『リサーチ波』の反応が無かったので、この日は無理をせず隠れる事が出来る家屋を運よく見つける事ができたので心身の回復を図るため留まる事にした。

※1 リサーチ波:別名ウェーブ。能力者が対象を探索する為に使っている術である『リサーチ』の反応素子が量子と酷似しているような波形であると言う事から言われている。ただ、一部の能力者(宮内輝夜も入る)はウェーブだけでは無く式神による範囲内全体から極めてピンポイントな物も出来る。因みにこの能力において輝夜は世界一の能力者とも言われている。

 遠行は念のためにこの家屋内にリサーチされないジャミング札を四方に貼り付けてとりあえず安心した後、家屋内に使える物がかなり有ったので遠慮なく使っていた。

 しかし暗くなってからこの廃屋で何かをする為に灯りを点けるのは敵に此処に隠れていると言うのを教えるようなものと思ったのでまだ陽が昇っている時間にも拘らず今日は早めに休む事にした。

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