蓬莱の妃 2章2節 《火の章》 §7
前振り
いつも来て戴きありがとうございます。
既に前振りとして書くネタがとうに切れておりますが、普段家から殆ど出ず半引きこもりな生活をしているながらも先日の土曜にお江戸までちょっとしたライブを見てきました。
正直私は『一言様』感を存分に味わってきましたけど、数年前命に関わる大病をしてから生で拝聴できてとにかく何よりよかったなぁと思いました。
ライブ終了後はなんかお話し会らしきものが有った感じですが、私はあくまでも『一見様』だったのでさっさと帰宅をした次第です。
よし、ネタになったところで本編を開始します。
前セクション(§6)はこちらになります。
あと、2章2節の一気読みされる場合(電子書籍)はこちらにあります。
ついでにもう一つ、このセクションは2万字近くのボリュームになってしまいました。ご了承ください。
登場人物
宮内 輝夜(みやうち かがや):富士吉田市の代表的神社の一つである旧社明香神社の宮司をしている宮内家の長女。普段はニート女子をしており、本人が出かけるのはこの地の古代にあったとされる『富士王国文明』の調査・発掘を行う時か、自らの美貌が災いにより(本人談)雑誌等にてファッションモデルで都内に出かける時しか無い。
元々宮内家の血筋として受け継がれているとされる能力により『仲介者』という仕事も行っている。能力において日本でも世界的でもトップクラス。
宮内 咲夜(みやうち さくや):宮内家の次女。帝都東京大学出身で都内私立大学にて薬学研究の分野で大学院生をしながら個人企業の実質的代表者及び魔法使い研究SNSカンパニー『ウィッチ ド ブリュー』代表者。
容貌は姉とは双子ながらも正反対の可愛らしさのある女性だが、言葉遣いに関して(特に姉に対して)は激辛でその他の人に対しては本人から壁を作っている節もある。彼女も姉と同様に能力者であり『仲介者』として活動もする事もある。
東乃 遠行(とおの おんぎょう):出生場所、年齢不明の京都在住の修験者。陰陽道に長けているものの性格に難があり、元々所属していた所から追放になってからはフリーで京都特別地域内にて裏仕事を行なっている。
【火】の能力者として不完全ながらもトップクラスの能力を持っている。性格は起伏が極めて乏しいが相手に対して煽る傾向がある。
宮内 荒太(みやうち あらた):宮内姉妹の祖父。前富士明香神社の宮司。現在は地元の相談役みたいな事をしていながらも孫である姉妹の陰陽師としての『教官』をしている。元『仲介者』であり裏組織である【南朝派陰陽師】の一角としてこの国の代表の立場を担っている。
性格は周りに対してどうしても言い方で厳しい事を言いがちな人間と思われている。本人もそんな役回りをしていると自覚している。
久住 静佳(くずみ しずか):富士見明香神社の総巫女長をしており、富士吉田にて副メイド長をしている久住真由佳は静佳の姉である。能力者として姉と実力的に拮抗しているものの特段突き抜けている能力は持っていない事をコンプレックスにしている。しかし周囲の巫女からは絶対の信頼を持たれている。
その他UPRAでのエージェントでもあり、その際の階級自体は無いが『マスターランカー』という中隊長相当の権限が与えられ海外で幾つかの作戦での成果を得ている。性格は姉よりも快活で食べ歩きを趣味にしている。
姉とは違い普段は洋服しか着ておらず巫女服はあくまでも仕事着として着ているだけと公言しているが、食べ歩きや洋服代の為の資金調達の為している【裏バイト】では姉と一緒に和服姿を撮ったエイリアス電子ブロマイドやそのアバターキャラである『&meets(あんみーつ)』として活動しているがそれを神社にも周りにも言っていない。
室田:元々は奈良我真家に居たエージェントの30代の能力者の女性。正体は《帝》側のエージェント。
『タカ』さん:宮内輝夜が考古学者に至ったきっかけとなった夢の中の『存在』であり、大昔から宮内家と繋がりが有る『神』の一柱。
宮内 大悟(みやうち だいご):黒田光流の父親。現在は富士北麓にて古代富士王国の遺跡発掘業務に勤しんでいるが、既に病魔に冒されておりご自身の最後の仕事として何ができるかを模索している。
元々は東北から移住してきた人間であり息子と宮内荒太以外には色々隠している事が多い人物。
§7 「さて、お前らの血の終焉をさせようか。」【午後3時20分頃 遠行、輝夜語り】
《東乃遠行はログハウスから自ら設置していた移動ポータルを使い旧社まで移動し、自分にとって人生最後の大仕事をしようとしていた。》
(遠行視点 旧社にて)
周りが色々慌ててくれているお陰で、俺の設置した【移動ポータル】が何も探られる事も無く無事だったから直ぐにくる事が出来た。
「ふむ、もうすぐ大事な【贄】と【結界】が来るだろうから、今のうちに最後の仕上げをしておくか。」
俺はこのセリフを誰に対して言っている訳では無かったがつい口にしてしまった。これから俺にとって正真正銘の最後の大仕事の仕掛けをする為に社の手前付近に昨夜予め敷設していた『ポイント』を起動させた。
それと同時に今やっている事を邪魔されないように『シールド』を旧社に隣接している宮内姉妹の家をも囲むぐらいの物を敷設させた。
此処の隣の家に輝夜・咲夜の何れかが居たらこのようなシールドを張る事が出来なかったが、輝夜は今大槻から此方に向かっている最中かと思われ、咲夜は病院に行った室田が此方が用意した【札】によって能力を含め『拘束状態』に入っているのでもう間もなく連れてくるだろう。
そこで一番邪魔になりそうだった元宮司の宮内荒太は、今富士吉田には不在でまだ大槻に居る感じだった。そしてその次に強力な能力者と思われる久住と言う女は、どうも昨日俺とやり合った女だったと言う事らしい。昨日の様子では今日明日は俺とやり合うような状態では無いぐらいは想像できるから、作戦遂行の為のお膳立てはもう為されたと言う感じだ。
起動させた【ポイント】はこの本殿から大体5Mぐらい手前の場所を中心にしており、その中心には宮内咲夜と言う【この上にない贄】を立たせて、その周りの東西南北に一人ずつ【結界】となる人間を立たせる位置に配置してある。
それらの5箇所のポイント何れも無事起動確認が出来たので、後はそこに入る人間を待ち、その【贄】となる妹を助けるべく向かっている宮内輝夜を待つばかりになった。
起動確認を終えた数分後、向かって右の方から一台の車がその社に向かって来た。
車が此処の手前で停車すると、中から白装束の女4人と室内着のような服を着ている身長の低い娘が白装束の人間の中の一人によって操れながら此方に向かっていた。多分娘を操っている女が室田で、操られている娘が宮内咲夜だろう。
宮内咲夜はこちらが用意した【札】を胸部に張り付けていたので、此処に来るまで何も抵抗出来ぬまま来てしまったと言う感じだろう。
何しろ咲夜に張り付けている【札】は今回の為に特別に俺が※1符号調整にている呪符だから、日本有数の能力者とは言えそう簡単にこれを解除する事は出来ない筈だ。しかも今咲夜は既に己の能力である【火】を暴走している状態だから制御できないでいる。
やれるとしたら無意識に身体を維持させる為に能力抑制させているのが限度だろう。まぁ、それをやれているだけでも流石日本でも指折りの能力者と言う事だな。普通の能力者なら既に灰になっている所だから。
仮にこれを姉である輝夜に仕掛けたとしたら、結果は全く別物になっていたし、此処までの反応をしていないだろう。
これを作る時に際して、宮内に潜っていた人間のデータを参考にしており、輝夜の方は全ての基本属性(火、水、風、土、樹、時、空)において平均より上位の能力を持っているから、この仕掛けをされた時点で己で解除する可能性が高いと見込んでいた。
だが、咲夜の方はまだ己の力である【火、土、火山】の特性が姉より、と言うより全ての能力者の中でも破壊的に高いという点が有り、それが却ってコントロールをしきれていないという事だから、もし姉妹どちらかをやるとしたら咲夜一択になった。
何しろ俺も本来は【火山属性】だから、燃料としての相性なら最高だ。だからこそ《帝》は最初からこの事を知った上で3年前俺を作りあげたのだろう。つまり我真新の屋敷を襲撃したのも、それを追跡して逃げられるというのも折り込み済みだった訳だ。
術士としては《帝》、我真総持という人間は平凡レベルと本人も認めていたが、戦略や工作は権力者社会で生かされてきた人間で自然と鍛えられてきたのだろう。そういう能力は残念ながら俺には遺伝子レベルで発現しなかった。所詮捨て駒だからな。
俺は境内に入ってきた室田と他3人が咲夜を無事此処に連れて来る事が出来たという安堵感を現していたので、4人に対して形ながらの労いを示してみた。
「皆、ご苦労。これまでも工作活動について《帝》はたいそう喜んでおる。」
「遠行様、有り難きお言葉を戴き大変嬉しゅうございます。」
と室田が一言言い、俺に向けて頭を下げると他の3人も頭を下げた。
さて、この4人にはこれからそれぞれ重要な【柱】になってもらうから最後の仕掛けを行うか。グズグズすると輝夜が来てしまうからな。せっかくの招待に用意不足というのは大変失礼に当たる。
俺は起動済みの5箇所の『ポイント』に、先ず中央のポイントに未だ眠っており自分の意思では動くことすら出来ていない咲夜を移動させてからその場所で直立不動の状態にさせた。
一応此処までの作業は一分のミスも無く済ます事が出来たが、さてこれから目の前にいる4人の女たちをどのように4箇所のポイントに立たせるかという課題があった。その事を昨日から思案しているうちに能力持ちの人間にとって魅惑的なセリフを思いつく事が出来たので取り敢えず言って、仮にそれで抵抗をした場合には予め4人に付けてある【札】を使って操作すればいいと思った。
「此処までやってくれたお前たちに、此処で素晴らしい褒美を与えよう。」
「ほ、褒美ですか、それは何・・・」
「慌てるでない。まぁ大体此処に咲夜というこの国でも指折りの能力者がこのように立っている事で想像できるかと思うがの。」
「いいえ、私どもにはご想像つかないのでお教えくださいませ。」
室田の口から『ご想像つかない』と出たが、謙遜であれば単にその場で口走ったというだけと思うが、本当に想像がつかないとしたら・・・まぁ、此処まで【札】張ってのこのこやって来たぐらいだから本当に解らんかも知れんな。
この4人の中に才覚がある人間がいれば《帝》に俺の遺言代わりとして使えるかなとも思うたが・・・4人とも無理そうだ。宮内に居たとは言えピンキリでも切り捨てのレベルの能力者かもな。
それでもこれから非常に言うような役割をさせるから本人たちも満足するだろう。
「これからお前たちには、この娘の周りに敷設している4箇所の『ポイント』にそれぞれ立っているだけでこの娘の能力をそのまま取り込む事が出来るという事だ。
俺としては単にこの娘にこのまま消えてもらう事を考えてたのだが、《帝》から折角だから褒美として能力なりエネルギーを渡すぐらいなら良いと許可を受けた。という事でお前たちはそれらを受け受け取るがいい。
お前たちがエネルギーを吸い取った後は俺がこの娘をこの世から焼いて消去する。
どうだ、滅多に無い事だから《帝》からのご配慮に感謝するが良い。」
とこのセリフを言うと、4人は喜びの表情を浮かべながら俺がエネルギーポイントとしている場所に促せられるように馬鹿正直に立った。俺はそれらを確認した後この4人をポイントに固定させる術を加えてから中心にいる咲夜のエネルギーを流した。
「では、褒美だ・・・まぁお前たちがどれだけ受け取れるか解らんが受け取るがいい。」
「あ・・りがと・・・う、ご、ざ・・・い・・・」
と室田が恍惚の表情で途切れ気味なセリフを言うと、咲夜の周囲に立っていた4人は同時に意識を吸い取られ、4人の身体は立ったまま硬化状態を経て50センチぐらい巨大な水晶体に変化してしまった。
「これで良し。一応結界石としてなら『4つ』とも十分な性能だ。才覚の無い工作員に成り下がった能力者の末路としては十分な物を用意出来ただろう。あの世で感謝するが良い。
さて最後に俺自身もこのエネルギー回路に繋げるとしよう・・・ん!」
俺は自分が築いた結界回路に意識を繋げると、中央にいる咲夜は既に目を醒ましていたと言う事で必死に抵抗をしていた。
だが、抵抗をすればする程自分の身が燃える仕掛けになっているので、輝夜が来るまではこの娘と俺が燃え尽きさせないようにエネルギーを制御する事に集中せざるを得なかった。
『くっ、流石に【火山の巫女】と称している娘だ。エネルギーのレベルが違う。
だが、俺とてこういう時の為に作られた存在だから輝夜が来るまで抑える事が出来れば・・・』
正直この状態を長時間抑え切れるとは感じられなかったが、有難い事にもう側に待ち人が現れてくれた。
・・・危うく最後の最後で役目が出来ずに燃え尽きる所だった。
ふむ、これで俺の役目は完全着火させるだけだ。あとは輝夜がどれだけ俺の相手をしてくれるかだな。其奴が俺とどのぐらいの時間戦うのかが俺にとってこの世で残された時間となるからしっかりとお役目を果たさないとな。
*
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蓬莱の妃 2章2節《火の章》
富士吉田生まれ育ちの美人姉妹で能力者である宮内輝夜・咲夜姉妹が活躍するファンタジー小説の本編の2章目にあたる《火の章》の2節目の作品でこの…
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