蓬莱の妃 2章2節 《火の章》 §6
登場人物
久住 真由佳(くずみ まゆか):表向きには宮内本家の副メイド長でもあり、黒田光流夫人の黒田紗夜子の会社の社外秘書をしている。元々は出身地でもある奈良の丹波家を中心にしている隠密部隊「鴉」のメンバーの一員で富士吉田の宮内家には当初『派遣』という形で入ったものの、彼女が『当主』と呼んでいる荒太の為人に感銘し正式に宮内家のサーバントとして仕えるようになった。
純粋の人間ながらも『仲介者』として日本国内では指折りの実力を持っている。性格は普段のメイドや秘書という仕事が適任というぐらいの冷静さともてなし力を備わっている女性だが、富士宮にて巫女をしている妹の事を常に心配し溺愛している。普段から和服しか着ている姿しか見た事ないのでお淑やかと思われているが術系より格闘系中心で戦う女性。
宮内 輝夜(みやうち かがや):富士吉田市の代表的神社の一つである旧社明香神社の宮司をしている宮内家の長女。普段はニート女子をしており、本人が出かけるのはこの地の古代にあったとされる『富士王国文明』の調査・発掘を行う時か、自らの美貌が災いにより(本人談)雑誌等にてファッションモデルで都内に出かける時しか無い。
元々宮内家の血筋として受け継がれているとされる能力により『仲介者』という仕事も行っている。能力において日本でも世界的でもトップクラス。
黒田 光流(くろだ みつる):姉妹の名付け親であり二人の世話人。二人の世話以外にも地元の観光協会認定のトレッキングコンシェルジュ。父親の影響で発掘調査や古文書解読も。能力者であるが本人の希望で今のところ未開発。
その他姉妹や輝夜のモデル仲間からは『鉄分提供者』とか『師匠』と呼ばれている。
ヤスダ:宮内家のエージェントだったが、正体は【とある所】から久住真由佳を暗殺する為に潜り混んだ人間。所属は不明。
黒田 紗夜子(くろだ さやこ):黒田光流の妻、と言うより主。富士吉田市内にてランジェリーデザイン&販売会社「アンジェロ・クローゼ」を経営。1男1女の母親。宮内姉妹にとっては「お酒の師匠」の一人にあたる。因みに未だに夫さんにラブラブ。
§6 「姫様たちの為に、私は今やれる事をしましょう。」【午後2時過ぎ 久住真由佳語り】
《昨日、富士吉田に入り宮内姉妹の家に行こうとしていた東乃遠行と対峙していた久住真由佳。重症ではなかったものの当主である宮内荒太からは2、3日の静養を言い渡された。だが、今彼女の側に刺客が隠れていた。》
昨日の生臭坊主との戦いで、私はお館様から取り敢えず休むようにとは言われまして、昨晩本家に運ばれた時点ではすっかりエネルギーが枯渇しておりましたからお館様の仰る通りに休む事にしました。
ただ、現状あの『坊主』がまだ見つかっていないので、せめて直ぐに動ける様にあえて本家で休養させて戴きました。
しかしながら、昨日大槻で『原因不明』の症状で市内や近隣の病院に続々と運ばれていますので、先程お館様と輝夜様が大槻総合病院に行き、今日の昼過ぎに妹から今富士宮から大槻に向かっている最中と言う事で連絡が有りました。
『お姉ちゃん、体は大丈夫?・・・まぁお姉ちゃんの事だから無事だと思うけど、やったのがあの生臭坊主だからお姉ちゃんでもどうなっているのかなと。』
「あら、心配してくれるの。嬉しいわ。普段から私に優しくしてくれると更に嬉しいんだけどね。」
『・・・調子乗らないでお姉ちゃん。今私たちは大槻に助っ人という事で向かっているわ。
ま、大槻には荒太様と輝夜様がいるという事だから余程の事にはならないと思うんだけどね。万が一と言うのがあるから。』
「そうね、昨日の私がいい例だわ。油断はしていなかったけど僅かな隙間を使ってきた所なんか敵ながら感服するに値しますわ。・・・そんな事言うとお館様に怒鳴られるけど、まだまだ私は未熟者だなぁと痛感している所よ。」
『ふぅーん、流石のお姉ちゃんでも殺せなかったと言うから相当な手練れという事だね。
まぁ、私もあの坊主とやり合ったから強かったとは思うけど・・・それ以上に不気味さ、というか人として大事な物が身体に《詰まっていない》という感じだった。つまり人間としては空っぽでただ誰かの道具でしかない者と感じたのです。』
「そうかぁ、こういう点は貴方の方が良く感じるのだからそう何でしょうね。ならばその『道具』の持ち主は《帝》かな。あのうす気味が悪い感覚、それと同じような感覚を《帝》にも感じたのよね。
確か《帝》には京都の御所に行った時の【おめ通り】で二度会ったから何となく未だに覚えてるわ。
だから昨日遭遇した時にあたかも《帝》と戦っているのではと感じたの。
あの遠行という人間は【皮】と何かしらで動いている【機関】でしかない生き物、というより作り物という感じだった。
だとしたらあの坊主って結構悲しい存在かなと思ったりするのよ。
ま、それを言うなら私たちも同じようなものだけど。ただあれと違うのは一応人間から産まれたと言う違いだけかも。」
『・・・その話をする時のお姉ちゃんはダメダメなお姉ちゃんの時かなと思っているのでスルーさせて戴きますわ。
・・・他人には他人の生き方が有ります。だからその人を干渉するような事は何人もしてはいけないのです。遠行と言う坊主が仮に【作られた存在】だとしても同様です。
だからと言って他者を殺めてもいい道理はありません。だから早く消さないといけません。』
「そうよね・・・ほんと、私の体たらくが招いた結果が今の、その市、ぃゃこの国を脅かされている訳だし。」
『で、お姉ちゃん、解っているとは思うけど本家のエージェントさんに《帝》側の人間がいるという事なんだけど。』
「・・・ええ、とっくに把握はしているわ。10月奈良から此方に来た人間の中に数人、前からいる人間もいるわね。
そうね、この人は2ヶ月前に《調査》と言う体裁で行方不明になっているけど。多分その人が《帝》側の人間、若しくは寝返って手伝った人間かな。」
『じゃ早く捕まえないと駄目じゃない・・・お姉ちゃん、ごめん。輝夜様が今独りでえぐい人形と戦っていて、私もちょっとお手伝いしないといけないから。また後で連絡する。』
と言って、妹は【通信】を切りました。本当は今私の方から通信を切るつもりだったけど、相変わらず気の利く妹で助かってます。
此方から【通信】を切ると、僅かながら隙が生じてしまいますから私の後ろ辺りに隠れているうちのエージェント、もとい本業が暗殺者の方にやられてしまいますわね。
さて、次はどのような動きをしてくるのでしょうか。今となっては単なるアサシンレベルなら屠れますので、やるとしたら昨日のうちにすべきでしたわね。
私がそんな思考を巡らせながらどんな『撒き餌』で捕まえようかなと術を巡らせていましたら、前からやってみようかなと思っていた術が見つかったので今やってみようかと思います。
その術自体は非常に馬鹿らしい仕掛けになりますけど、相手を誘導させて吊り上げる場合にはかなり有効じゃないかと【量子さん会議】で輝夜お嬢が珍しく茶目っけを含ませながら話しをしていましたね・・・私がお嬢より先に使わせて戴きますわ。
私は右人差し指で空に術式を描くと、0.01秒間私の身体が《重なっている》ような感覚になり、術式にて描いた【私】がふと椅子から立ち上がると隠れていた暗殺者さんが私の首を目掛けて【土】の刃を走らせました。
刃は目的通り私の首を宙に飛ばす事を成功したものの、出る筈の血液が一切出てこなかったのでその場から去ろうとしましたが、私は首を撥ねられた時に術が発動するようにしていたので間抜けな暗殺者さんは身体を一切動かす事が出来なかった。
それで、その暗殺者さんの目の前で本体の私は『スティルス』を解除し言葉をかけました。
「お疲れ様、ヤスダさん。ぃゃモルガナディアス族のアサシンさん。数年前貴方がエージェントで入ってきた時点で私は一応感付いておりましたけど、こんなにあっさり馬脚を現してくれるなんてちょっとがっかりしております。
まぁ、貴方たちは決して此処に入った理由は依頼主の事を話さないと思いますから出来れば貴方の頭の中をスキャンしたい所ですけど・・・私はそう言う芸当ができないので諦めました。
と言う事なのでこれから殺させて戴きますけど・・・よろしい?」
「リーダー、助かるわ。私はもう用済みだから、いや私たちは用済みだから私一人が殺されたとしても同胞はもう今日中にもこの国を出る事になるから。」
「あら、意外ですわ。多少なり抵抗するかなと期待しておりましたのに・・・すんなり話しをきいてくれるなんて。
で、私を殺そうとしたと言う事だけど・・・貴方別口で依頼受けているのよね。依頼主の事なんぞどうでも良いので、私の暗殺をおいくらで請け負ったの?」
ま、多分この人は一切言うつもりが無い事ぐらいわかってますので、これ以上茶番を演じても時間が勿体ないと思い、
「ではヤスダさん、さようなら」
と一言言ってから、動けないままの彼女を『分解』の術をかけて消滅させました。
「さて、私はもう一仕事しないといけませんから行ってきましょうか。さっき呼び寄せたタクシーがもう表に来ているみたいなので。」
と独り言を言いながら、長めの和絣のコートを羽織って『とある』人の家まで向かいました。
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蓬莱の妃 2章2節《火の章》
富士吉田生まれ育ちの美人姉妹で能力者である宮内輝夜・咲夜姉妹が活躍するファンタジー小説の本編の2章目にあたる《火の章》の2節目の作品でこの…
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