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蓬莱の妃 1.5章 《火の章へ》 §4



登場人物


 イーティ・アルメシア:亞人の純粋種。所属は古文書及び術学研究機関(通称4Aと呼ばれている)のアジア・レムリアン地域の技術員。

 アルガナ(本名 トゥーラット・アル・モルガナリアス Toratt Al Morganalias):亞人と人間のハーフ。現在高校生の非常勤軍属の子。元『仲介者』佃氏と知り合い。来春高校卒業して、軍属を続けながらも佃氏の会社に就職予定。

 佃 義仁(つくだ よしひと):元『仲介者』、現在はフリーランスの能力者稼業をしている。姉妹とは2年前の事件で(当時は国交省の仲介者)首謀者の一人として敵対をしていたが、その事件を機に退職し元仲介者として活動し始めて定期的に姉妹と一緒に仕事をする様になった。



§4 11月9日、イーティ・佃・アルガナ


《前日埼玉県の高速道路インターチェンジにて前代未聞の崩落事故において、当日近くに居たとされる亞人が今朝聴取され、その亞人に付き添っていた人間は前日夕方からその人間の地元から逃げ出していた。》


 昨日埼玉で起こったテロ行為によって隣の行政区であるこの東京特別区内は、翌日9日になっても依然区内の官庁地域や観光地域内では何重にもセキュリティチェックがなされていた。

 区を跨いだちょっとした移動をしても普段なら10分程度しかかからない場所であっても2、3時間かかると言う話がネット上で飛び交って中央政府からの注意喚起でも『特別区内での不要な移動は数日お控えください』と言う特別広報もあった影響で区内は車も人も閑散としていた。

 その東京特別区中央地域内にある如何にも古めかしいRC造3階建の周辺も閑散としていた。
 この地域内に他にも同じような古めかしい建物が存在しているが、大半は放置されたまま何年もいるものばかりになっていた。

 その中で居住している建物として使われている事自体奇跡的な話だが、此処に入っている組織にとっては様々な事を鑑みてベストだった事で入っていると思われる。
 古めかしさのある石造の門と少なくても50年以上の樹齢の樹木が群生している建物が有った。この建物入り口の門にはそれらとは真反対なシックでかつシンプルなステンレスプレートがあり、そこには【古文書及び術学研究機関】と掲げられていた。

 この組織は名前の通りに古文書研究や出版事業がメインとされており、あくまでも術学研究は古文書研究の段階にしばしば術学の知識が必要だったため組織のアーカイブには書かれている。

 しかしながら実態は最早研究というレベルを超えた過去からの呪術研究や様々な『組織』からの依頼によって術式開発やツール制作がなされていた。

 その組織は一般的には英文訳の『Ancient Archive and Arts Associates』の頭文字から『4A』と呼ばれているが、組織自体非常にマイナーな存在で一時国の代表会議上で『無駄組織』として解体の危が有った。

 しかし、その組織が主幹と見なされていた『古文書研究』は他国や一般企業では決して任せる事が出来ない案件が多いとの事で解体の危機は無くなった。

 されど、組織存続条件としてそれ以外に存在意義を提示する事が解体危機回避の条件にされていたので、その会議の分科会で提案されたのが【術学】の研究機関として行ってほしいとの事だった。
 その提案理由として古文書研究の際に文面の中に呪術と言うような物があり、その実証等を行いながら研究する目的をも視野に有ったと言う事から依頼が有ったとも言われている。

 そこでこれを機にこの事業も組織内おいての一つの柱にしようと関係者の総意のあり思っていた以上に事がスムーズに動くことになった。
 というのは元々組織内の人間に能力者や仲介者か多数居て、使用している呪術に関しての研究機関が既に存在していたと言う事が有った為に事が進んだと言われている。

 とは言え、この存続が危ぶまれた経緯が有るため組織活動拠点として特等地のAIビル内にオフィスを構える事は道義的に許されていなかった。
 しかしながら、組織の本質上(正体)にとっては却って目立つ事自体都合が良く無かったので、4Aで働いている人間にとっては色々不都合や不便があると言う話が流れているがこの立地にいる事自体結果オーライと言う感じかも知れない。

 そんな色々曰く付きな組織の建物内に昨晩日が変わったぐらいの時間何者かがこの建物内に搬入されて、此処にある施設の本棟の地下に運ばれたとのこと。
 その人物が埼玉県で起きてしまった前代未聞の事件に関わっていた人間であり、どうやらこの組織内に居たという情報が警察や調査機関より早く通報が有った為、組織として警察機構に引き渡す前にそれらの事情を最も知っており、今日現場の至近距離に居たと思われたイーティ・アルメシアに事情聴取との事で深夜の同行、と言うより搬入になったと庁内で噂されていた。

 拉致をされたイーティはこの時点で既に自分のこの先の運命がわかっていた様で特段抵抗する事なく尋問官が部屋に入ってくるのを待っていた。
 ただ本人は普通に出勤をして尋問を受けようと思っていたので、昨晩の拉致されて此処にいる事に対して半分腹立たしい気持ち、半分意味が理解出来無い状況でどう気持ちを整理しようかと思いあぐねていた。

 この部屋は半地下になっており外壁側に高い位置に横長の明かり取り用の窓が3つ連なっていた。もうすぐ9時と言う時間にも関わらず暗く、部屋内は演出が乏しい如何にも事務的な照明が1つ天井にあるだけの何とも味気ない部屋だった。

 イーティはこんな殺風景な部屋にある椅子に座らされているものの、逃げ出したり抵抗したりしないような拘束具には縛られてはおらず、背後に監視兼記録係をする人間(恐らく能力者と思われる)がイーティの背中を見ているだけだった。
 地下にはこの部屋の他にこの階で階段等の入り口からは遠く奥まった場所に厳重な扉の入り口の部屋があり、その部屋はまさしく【拷問】しながら尋問する様なイリーガルな行為が出来る仕様になっているが、今回イーティの場合においては不適当であり本人に逃亡や抵抗の意思が感じられ無かったので使われなかった。

 部屋の外からちょうど9時を廻ったという音楽が流れてきた時イーティを尋問するための審問官が部屋に入ってきた。イーティはいつも聞いている音楽が今日は自分にとって葬送曲に思えてきて、律儀に時間ピッタリ入ってきた審問官が私にとってまさしく死神だなと感じていた。

 審問官は無機質な事務机を挟んでイーティの目の前に立ち、イーティが椅子から立ちあがろうとした時制して立たなくても良いという意思を示した後深々と頭を下げて言った。

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物書きの風吹しづるが書いているファンタジー小説『蓬莱の妃』シリーズの次章にあたる【火の章】へ繋がる話になります。 火の章においてのキーパー…

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